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いつから今日は投稿がないと錯覚していた?

「わりい! 前々回の【フェルマーの最終定理】の冒頭を少し変えさせてもらった!」


『お手数かけて申し訳ない! これを読む前にそっちを読んだ方が楽しめるぞ!』


 目を覚ますと、俺は地べたに這いつくばっていた。


「いってえ……あれ、あの人は?」

「ああ、奴ならたった今、職員室に向かった。姉貴に用があるらしいが」


 制服の汚れをはらって、椅子に座り直す。


「まじであいつ誰だったんだよ……?」

「あいつは柊木(ひいらぎ)雪音(ゆきね)だ」


 二宮が即答する。


「知ってんのかよ、だったらなんで言ってくれなかったんだよ?」

「お前が暴走して聞く耳を持たなかったからなんだが」

「人を思いっきり殴打した奴に言われたくねえ……で、柊木雪音? 今日の放送で言っていたやつか。確か、生徒会の女神とかなんとか」


普通なら女神と言われたら、その高すぎるハードルを越えられないと思うが、先ほどの彼女は二つ名に恥じないほどの洗練された神々しい雰囲気を纏っていた。


おそらく今まで人生で見た人の中で、一番綺麗な人だと思う。下手したらその記録は更新されない可能性すらある。


「“麗しき生徒会の女神”だな。1年にして生徒会副会長だ。学園内でとても大きな影響力を持っていて、アイドル的人気も凄まじい。彼女のファンクラブは数百人に及ぶと聞く」

「まじかよ!? まああの美しさなら納得だが……」


 そんな人間がいたとは……。


 理数科と普通科の関わりはほとんどないので、携帯も持っていない俺は普通科の生徒をほとんど知らない。貴重な接点であるはずの部活も、このざまなのでなおさらだ。


 こいつの情報収集能力には本当に恐れ入る。やっぱ相棒だわ。


「にしても、一体俺を誰と勘違いしたんだ? まじで思い当たる節無いんだが」


 こればっかりは本当に勘違い説が濃厚。

 しかし、この学校に俺と似てる人なんて聞いたことがない。


「確かにな。お前を殴った後、オレも同じような考えに至った──何かがおかしいと」

「まず俺を殴ったことがおかしいことに気付いて?」


 一体、どのような理由で俺は殴られなきゃいけなかったのか?

 疑問が尽きない。


「山市、本当に会ったことがないのか? 小学校時代に近所の公園で昔よく一緒に遊んでた男友達が実は女だったパターンとかよくあるぞ?」

「よくねーよ。まあ女子にしては背も高かったし……胸もそんななかったから見間違える可能性もなくは……いやねーわ」


 ──コンコン。


 放送室の扉をノックする音が響く。


「すまない。職員会議が長引いて遅れてしまった……」



 と、言って入ってきたのは二宮先生。

 相変わらず美人だが、険しい顔が平常運転の先生だ。


 先生は部屋を見渡して──


「生徒会の柊木が来ていると思ったんだが……まだ来ていないのか?」

「いや、ほんの少し前に姉貴のところに向かったと思うが」


 どうやら、すれ違ってしまったらしい。


「ならば、待っていればそのうち来るだろう。では私から話を進めておくか」


 ……話? 一体何のことだ?


 先生がこの場所を訪れるなんて非常に珍しい。

 昨日のわずか1分少々の出演を除けば、6月の頭に行われた先輩の引退式以来、1か月以上も前だ。


「だがその前に……随分この部屋も変わったようだ」


 先生は、部屋のある場所を一瞥し、弟に視線を移して一言。


「陸──それが何か私に説明してくれないか?」


 聖職者の姉が、性職者の弟が持つ生殖を描いた作品について問いただす。


「こ、これは……」


 反射的にエロゲを背に隠す二宮。


 お前……さっき隠すとかできないとか言ってなかったか?


 布を取り払わなきゃバレなかったろうに……。


 二宮先生は、優しいところもなくはないかもしれない先生だが、成人向けコンテンツに対してめっぽう厳しい。

 何か理由があるのかもしれないが、当然本人の口から語られることはないだろう。


「私は顧問として、ある程度の娯楽物は寛大に目をつむるが──成人向けコンテンツだけは一切容認しないと言ったよな?」


 ドスの効いた低い声で肉親に問いかける。美しい姉弟愛だ。


「い、いやあ、そそそんなこと言われた記憶は──」

「言ってました。僕覚えてます」


(貴様ぁ!!)

(ほら、次はお前の番だ)


「……お前が今隠したものを私に見せてくれ」

「え……いや……何というか──」

「早く」

「……その、だから……」

「陸」

「……はい」


 そう答えた彼の唇は、わなわなと震え、エロゲを見せる彼の手は、あわあわと震え、足はガクガクと震え、肩はガタガタと震えている。新期造山帯かな?


 先ほどの柊木の反応とは打って変わって、眉一つ動かさずにエロゲを見つめる先生。

 その様子に一切の恥じらいはない。


 ……同じような状況なはずだが、恥じらい一つでここまで変わるものなんだな。


 どうやら女の子に、恥じらいは必要不可欠な要素らしい。

 先生を見ていても、嗜虐心をそそられるどころか恐怖心しか湧いてこない。



 ……果たして彼の命は助かるのだろうか?



 死刑宣告を前に、恐れおののく罪人に対して、


「どちらかを選べ──」


 最後の審判が下される。


「ひとつは、今すぐ私に問答無用で殴られるか──」


 おそらく凄惨たる鉄槌を想像してしまったのだろう。

 二宮の体が一段と大きく震え、冷や汗が落ちる。


「もしくは、反省文を提出して至急これらの不適切なものを処分する──」


 ほんの一瞬前まで死にかけていた二宮に、生気が戻ってくる。

 温情判決を下したあたり、いくら無慈悲な先生でもちゃんと弟への愛情が──


「──そしてその後に殴られるか」


 ──憎しみに変わったらしい。



『さて、今度こそ感想のコーナーだ!』


「中学生からあったんだってな?」


『その通りだ、選ばれし2人の中学生妹から応援メッセージが届いた』


「勝手に妹にするな」


『要約すると、どちらも、”面白い”と、”投稿頑張ってください”という言葉をいただいた』


「本当にありがたいな。そして中学生から心配されるizumi」


『他にも”更新楽しみ”というメッセージが──』


「なんだ、3人も中学生がいたのか」


『──元中学生を名乗る妹から届いた』


「偽物が紛れ込んだな」


『他にもキューブネーム、▼・ω・▼から。【フェルマーの最終定理】で、セクハラを止めなかったのは深遠な理由があるが余白がなくて書けないという山市に対して』


「ちなみにこのタイトルの意味が分かったリスナーは偏差値高いと見た。それで、感想の内容は?」


『【漲ったんですね、わかります──ぼくも漲りました】』


「偏差値のかけらもない」


『他にも、コーヒーを吹き出したり、前回の誤字報告に対して1次違いと1字違いを掛けた妹がいたな』


「リスナーのレベルがたけぇ……」


『今回はこんなところだな。このコーナーはまた折を見て不定期にやっていく所存だ!』


「大丈夫か? こんな後書き長い作品、多分他にないぞ? いつか怒られるぞこれ」


『まあコメディはなんでもありだからな! やったもん勝ちだ!』


「ちなみに、昨日、【もう無理】と言って本日更新があったわけで」


『確かに』


「昨日投稿した後に、日間1位入ってるのを気付いたので、改めてリスナーに感謝を伝えたかった──」


『殊勝な心掛けだな』


「というのが建前で、【フェルマーの最終定理】でちょっとした変更があったから、そのお詫びらしい」


『なるほど。まあ妹棚の描写が入っただけだが』


「izumiも猛省していると」


『そうか、ならば許してやろうじゃないか』


「変更の度にお詫び投稿してたらキリがないと」


『反省してないな』

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― 新着の感想 ―
[良い点]  温情判決を下したあたり、いくら無慈悲な先生でもちゃんと弟への愛情が── 「──そしてその後に殴られるか」  ──憎しみに変わったらしい。 ここ好きだわwこんな感じのなかなか上手い言…
[一言] あと数日は中学生から。 めっちゃ面白かったです。投稿頑張ってください。
[一言] リスナー リクさん、腹筋バキバキお姉さんカッコいいですね!(笑 嫁さんに欲しいです(笑
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