第2回放送
『準備はいいか?』
「いいぞ。つーわけでso cubeの時間だ」
『おい! タイトルコールはオレにやらせろよ!』
「んなのどっちがやったって変わんねえよ」
『次は絶対オレがやるんだからな! というわけでcube代表のリクだ』
「山市だ」
『おい、お前はソラというありがたい名前があるだろう?』
「次その名前で呼んだら殺す」
『お、おう……と、とりあえず! この放送では柊木学園の生徒からのメッセージをどしどし募集! 勉強から恋愛、さらには人生相談など何でも歓迎するぞ!』
「メッセージは直接、旧放送室前に置いたボックスに投稿するか、DMにぶん投げてくれ」
『メッセージにはラジオネームならぬキューブネームを付けてくれよな!』
「ちなみに、もうメッセージって届いてたりするのか?」
『もちろんだ。昨日公式SNSで告知しておいたからな。というわけでキューブネーム、“遅咲きの新人”から。【代表、参謀のお二人、初めまして!】……ちなみに参謀呼びは大丈夫なのか?』
「……まあぎりぎり許す」
『【僕は昨日の放送を聞いていた3年生です。昨日は世紀の大事件の目撃者になった気分を味わうことができました!】』
「いや言い方」
『【昼休みに急にお二人の雑談放送始まったとき、放送事故かなってクラスがざわざわし始めたんです】』
「まあそうなるよな」
『【でも、ちゃんとタイトルコールで番組始まって、放送事故ではないとクラス中が理解してホッとしていました】』
「それはよかった」
『【でも、そこから放送事故でした】』
「よくなかった」
『【cubeのドッキリが高度過ぎてまだついていけませんが、とても面白かったです。他にどんな企画があるんでしょうか? これからも応援しています】……企画ならばすでに考えてあるぞ!』
「どんな企画を考えてんだ?」
『まあ……最初は無難のものから始めようと思っている次第だ』
「なるほど。となると、せっかく意見を募れるという利を生かすなら……校内人気投票とかか?」
『ほう、さすが参謀、察しが良いな!』
「まあ手堅くいくなら、“かっこいい人ランキング”、とか“かわいい人ランキング”、あたりだが。こういう系の投票を募るっつーことか」
『まあ……平たく言えばそういうことだろうな』
「おい待て。どんなランキング作るつもりだ?」
『まず筆頭は“妹にしたいランキング”で』
「お前の平たくって何?」
『まあ落ち着けよ参謀。これはしょうがないことでもある。普通のランキングを作っても、うちの学校はその辺の分類作業はもう既に終了しているから結果は目に見えているんだ』
「え、そうなのか?」
『圧倒的な美しさを持つ、“麗しき生徒会の女神”こと柊木雪音、可憐な見た目とは裏腹のキツイ性格で、熱心な支持者がいる“柊木の女王様”こと姫川姫乃。見た目はいいのに、喋り出すとあふれ出る残念感でおなじみ、“黙っていれば……の筆頭”こと五十嵐嵐。透明感溢れる甘い声で我らの耳に幸せを届ける、“放送部に宿る妖精”こと真冬ちゃん……などなど。もうこの辺の住み分けが確定しているからな』
「初耳なんだが。そして最後は人間ですらなかったが」
『ちなみに全員1年だ』
「まあ理数科の俺たちにはあまり縁がねーな」
『その辺の話は今度にしようじゃないか。では次のメッセージだ。キューブネーム“あの日聞いた放送の意味をまだ僕達は知らない”』
「知らなくていい」
『【まじでこの放送をムカつくから速攻でやめてほしい。まじで。あり得ない】』
「おっとお! いきなりのアンチ対応か! 腕が鳴るぜ!」
『【クラスのマドンナ的な立ち位置を今までキープしてきたのに、二宮って奴のスリーアウト発言で噴き出して】』
「……まじか」
『【イメージがた落ちしたんだけど、どう責任取ってくれんの?】』
「それはアウトな発言した二宮が悪い」
『【でもTwitter見たらリク君超イケメンだったから全然許しちゃう! リク君、今度一緒に遊びに行こうね!】』
「なんでだよ」
『【ただソラ、お前は許さん】』
「なんでだよ」
『うーん、申し訳ないが……妹じゃないから無理だ』
「だからなんでだよ」
『支離滅裂な内容だったが……』
「……もしかしたら俺たちの顔と名前が一致してないんじゃね? アカウントの画像は俺たち二人が映っていて、特に説明もないだろ?」
『確かに……画像の二人組のどっちが代表でどっちが参謀か分かっていないということか』
「イケメンなのが二宮で、そうじゃないのが俺。以上」
『お前はそれでいいのか……お次はキューブネーム“さすらいの求道者”。【お初にお目にかかります。以前から二宮氏が危うい思想をお持ちであることはわたくしも理解していましたが】』
「丁寧な書き出し」
『【まさか級友の山市氏もおぶっ飛びになられていたとは】』
「初めて聞く敬語」
『【わたくしの見る目もまだまだだなと痛感している次第であります】』
「こいつ誰なんだよ」
『よし、じゃあ参謀のお前もメッセージを選んでくれないか』
「しゃーねーな、じゃあ俺は放送室前のメッセージボックスの方を読み上げていくか。携帯持ってねえし紙のお便りが俺の担当ってことで。じゃあ適当に……キューブネーム“とある柊木の1年9組”」
『おお! 1年からメッセージが届いているのか!』
「【実は私、前から山市君のことが気になっていたんです】」
『なに!?』
「【普段から落ち着いていて、清潔感もあって誰にでも優しいし、女の子にデレデレしないし。告白しようと思っていて……】」
『……おい待ってくれ。オレたちの間に抜け駆けは許さんぞ!』
「【でも回ってきたcubeのつぶやきを見て幻滅しました】」
『よし! ならばよかった! 目が覚めてくれて何よりだ!』
「【校内放送であんなことを言っちゃって自分で拡散する変態さんだと分かってよかったです】」
『いやあ、よかったよかった』
「いやよくねえ! せっかく彼女できるチャンスだったんだぞ!? あのTwitterが原因か……!」
『匿名で告白されかけてフラれた気分はどうだ?』
「今すぐ放送やめたい。そして旧部OBへの怒りが沸々と湧き上がってきた……」
『まあそう言うな。次のメッセージ頼む』
「……キューブネーム“リク師匠の一番弟子”から。【聞いてください! 昨日の放送に感銘を受けた僕は、放送後の公式Twitterのつぶやきを色々な手段で拡散したんです!】」
『おお! それはありがたい! おかげで大反響だったぞ!』
「【つぶやきの内容を信じられない後輩の同志たちに、しっかりと解説したのも僕なんです】」
『よくやった! これからもしっかりと布教活動に勤しんでくれ! 弟子を名乗ることも許可しよう!』
「いやほんとによくやってくれたな! この際言っとくけどな、俺はあんたら3年が悪ノリして拡散したせいで、ガチだと勘違いした1,2年の女子からは距離を置いて遠くから蔑まれ、男子からは勇者と称える視線を遠くから送られるようになったんだぞ……!」
『……』
「おかげでこちとら近づいてくるのは、「同志……」と謎の握手を求めてくる性癖の歪んだ男子共しかいねえんだよ!」
『おい、オレもそばにいるだろう?』
「鏡見てこいや!」
『?』
「……まあ、つーわけで俺はあんたらが憎い。特に勝手にアカウント作ってつぶやいた旧部のOBどもは特に憎い。一発ぶん殴らねえと気が済まねえ……」
『おい落ち着け! 暴力的解決はよくない!』
「なあに、安心するんだな、旧部のOBどもよ。俺は優しいからな。暴力なんかに頼らねーよ」
『じゃ、じゃあ何をする気なんだ……?』
「目には目を歯には歯を──勝手に俺の適当な情報が拡散されたんでな。俺もこの場を借りて先輩の情報を拡散してやろうじゃないか。ちょうど旧部OBは野郎しかいねえし遠慮はいらねえだろ!!」
『ああ、珍しくガチギレしていらっしゃる……』
「3年であるリスナーたちは楽しんで聞いてくれよなあ!! ──ちなみに旧校舎放送室に土下座しに来た奴からそいつの情報は言わないでやる」
『……先輩たち、今すぐダッシュでここまで来た方がいいかもしれん』
「じゃあまず──ある先輩は女子更衣室の覗きをしていたことがある──ある先輩はクラスメイトの女子二人と現在進行形で二股をしている──ある先輩は顔は好みじゃないけど、ヤらせてくれそうだったからという理由で付き合っている彼女がいる……ちなみにこれは全部、先輩たちが自慢げに武勇伝として俺たちに語ってきたことだ。そうだよな?」
『……まあ確かにオレも聞いてはいたが』
「見栄を張ったのか、事実なのかは知らねえけど、とりあえず言っていたのは事実だからな。嘘じゃない──だから拡散してもいいってのが先輩たちのやり方だもんな?」
『……なるほど』
「まだまだある! ──ある先輩は球技大会の女子バスケの試合で、揺れる巨乳の映像を映像として納めていた──ある先輩は授業中に保健室に行く振りをして、水泳の授業中の写真を撮って売りさばいていた」
『……山市』
「おいおいこいつは楽しくなってきたなあ!? まだまだ先輩様の武勇伝は止まらねえぜ!?」
『なあ山市、こっちを見てくれないか?』
「ある先輩は保健室のベッドで、なんと──」
『だから山市』
「ちっ、なんだよ! いいとこなんだから止め──」
『もうOB全員そこで土下座しているんだが』
「俺たちの放送を聞いてくれてありがとな!」
『次回更新はいつになるか正直不明だ!』
「堂々と言うなよ……」
『今後の放送は、妹たちからの反応次第だ!』
「他力本願すぎるが……まあよろしくな!」
『待ってるぞ!』




