ツルの恩返しⅡ( もうひとつの昔話 48)
その昔。
ある山深い村に木こりの男がおりました。
この男には働き者の嫁がおり、その嫁の織る美しい布を町で売った金で、男は毎日、遊んで暮らしていました。
布を織るとき、
「決して見てはなりませんよ」
嫁はそう言って奥の部屋に閉じこもり、朝から晩までカッタン、コットンと布を織っていました。
この嫁。
猟師のワナにかかっていたところを、男に助けられたツルの化身。恩返しにと、自分の羽を抜いて、それで糸をつむいで布を織っていたのです。
嫁は日ごとにやせていきました。
かたやそのぶん、男には美しく立派な布が手に入りました。
そんなある日。
男は嫁との約束を破り、ついに布を織る部屋をのぞき見て、嫁の正体を知ってしまいます。
「正体を知られましたからには、わたしはここを出ていかねばなりません」
嫁は白いツルに姿を変えると、悲しい鳴き声を残して山へと飛び去りました。
その後。
男は逃げたツルを探し、毎日のように野山を歩きまわりました。
けれど、どこをどう探しても見つけられません。
そんなとき。
――そうだ!
男はハタとひらめきました。
あのツルでなくてもかまわないのではないか。どんなツルでも助けて恩を売れば、同じように恩を返してくれるのではないかと……。
さっそくあちこちにワナをしかけました。
すると一羽の鳥が捕まりました。ツルではありませんが、きれいな羽を持っています。
――美しい布を織ってくれそうだな。
男は助けるふりをして、その鳥をワナから逃がしてやりました。
その晩。
一人の娘が男の家を訪れました。
「決して見てはなりませんよ」
前の嫁と同じことを言って、娘はそのまま奥の部屋に閉じこもりました。
――よし、いいぞ……。
男は二度と同じ過ちをせぬよう、決してはた織りの部屋をのぞきませんでした。
一方、娘はこまっていました。
男が布を織る姿を見てくれなければ、ずっと羽根をむしって織り続けなければなりません。それではいずれ死んでしまいます。
カッタン、コットン。
娘は大きな音を立て、男が興味を引くように布を織りました。
ですが男は、いつまでもたっても部屋をのぞいてくれませんでした。このままでは明日にも死んでしまいそうです。
翌朝。
「私はワナにかかっていた鳥で、あなた様に助けていただいた者です。今日まで人となって、ご恩返しにと布を織ってまいりました」
娘は男にすべてを打ち明け、それから鳥に姿を変えると悲しい鳴き声を残し、山のかなたへと飛んでいきました。
男が残念そうにつぶやきます。
「くそー、カモに逃げられてしまった」