9 ハンター登録
かららん
ギルド内にいたハンターとギルド職員が、ドアベルの音に振り向いた。新たに現れた者を見極めようとしている。
視線を感じながら、受付に行くジークのあとをついて歩く。
「ハンター登録を頼む。あと、スキップ申請も」
「はい。この用紙にご記入をお願いします」
渡されたのは、名前や職業などを書く欄がずらりと並んだ用紙だった。
「わかるところだけ書けばいい。最低、名前と職業だな」
なるほど。名前はレナ。職業は魔法使い………年は18かな。あとは………?
一通り書き終わって、書類を受付嬢に返した。
ハンターにはランクが設定されていた。Fから始まり、上位のAランクまである。さらに上には、稀にしかいない最高のSランクがある。ハンターになれるのは10歳からで、基本はFランクから始まるが、実力がある者のためにスキップ申請という制度があった。
スキップ申請を行う者は、ギルドの訓練場で試験を受けることになる。
「こちらへどうぞ」
受付嬢に案内されて、訓練場へ向かった。
広い訓練場のあちこちで、ハンター達が様々な武器を手に訓練を行っていた。その一角を開けてもらい、魔法の試験をすることになった。
「この的へ向けて、魔法を放ってください」
今わたしが使えるのは、回復魔法のヒールと、攻撃魔法のファイア。でも、的へ当てるとなると………あ、ファイアーボール?
両手を的へ向かって構え、そしてつぶやく。
「ファイアーボール!」
ちゅど~ん
木の的が、木端微塵に吹き飛んだ。
「え?」
「やめやめい!そこまで!」
試験管のギルド職員が、大慌てで止めてきた。青い顔をしている。
「今の、ファイアーボールだろ?あんな威力だっけ?」
誰かのつぶやく声が聞こえた。
やっぱり、あれは普通のファイアーボールじゃないんだわ。びっくりした。もし魔物に使ったら、どうなるのかしら。四散する?それはちょっと………怖いわね。
「よ、よし!合格だ!Dランクから始めるといい」
どうやら、試験は無事合格したらしい。よかった。
かららん
ハンター証を貰うため、ギルドの受付にやって来た。
「はい、どうぞ」
ハンター証は銀色のプレートに、名前、ハンターランクなどが刻まれていた。
「あれ、ジークじゃないか!」
突然、声をかけてきた人物がいた。
人込みをかきわけ、大柄な女性がやって来る。短く切った赤い髪に、赤い金属の部分鎧がよく似合っている。長剣を腰から下げた姿は、どことなくジークに似ていた。
「あたし達のパーティを抜けて何をやってるかと思えば、お嬢ちゃんのお守りとはね」
赤髪の剣士は、わたしを見て馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「はっ。あんたも落ちぶれたもんだね」
なにを言っているのかわからない。
「姉貴、またそんなこと言って!兄貴がいなくなって、寂しがってたじゃないか」
え、兄貴?ジークの弟さん?
見ると、盗賊のような恰好をした少年がいた。女剣士と比べると、背が低く、まだ幼さが残る顔立ちをしている。
「ウォルター、いい加減なこと言うんじゃない!」
女剣士の怒声が飛ぶ。
「でも………」
と言いつつ、わたしを見てくる少年。わたしの顔を見て、ポカンとした表情になった。
「うわっ、すげえ美人。兄貴の彼女?」
少年の言葉に、飲食スペースにいた多くのハンター達が振り返った。
「仲間だ」
そう言って、ジークは自分のマントをわたしの頭から被せてきた。ありがたく、マントの陰に隠れる。
「ウォルター。こいつは、俺の新しい仲間だ」
「なあ兄貴、そいつも一緒でいいから戻って来いよ。アガタの姉貴は、兄貴がいなくなってから荒れててさ。きっと喧嘩別れしたこと、後悔してんだよ。なあいいだろ?」
「お前には悪いが、パーティには戻らない。アガタとうまくやってくれ」
「ふんっ。あんたの陰に隠れてる臆病者が、新しい仲間ねぇ。それでどうやって戦う気だい。冒険者気取りのお嬢様に、なにができるって言うのさ」
ちょっと、その言い方はないんじゃない?わたしは臆病だから隠れたわけじゃなくて、人に注目されるのが恥ずかしくて隠れたのよ!
まぁ、心で思ってるだけじゃだめよね。
わたしはジークのマントから出て、赤髪の女性を見上げる。
うぅっ。人の視線が痛い。
「初めまして。わたしはレナです」
軽く会釈した。
「ふんっ。まだガキじゃないか。あんたはいつから子守を始めたんだい」
「ついこの前からだ」
うわ。何も否定してくれない。
「俺をパーティから外しのはアガタだろう。今更、ごちゃごちゃ言うのはやめてくれ」
そう言うジークの態度は冷たい。ところが、少年を見る目は優しそうだった。
「ウォルター、そういうわけだ。俺のことは諦めて、姉弟2人で仲良くなってくれ」
なるほど。この2人は姉弟なのね。どうりで似ているわけだわ。
「ちょっと待って。まるであたしが、未練たらたらあんたに縋りついてるような言い草じゃないか。あんたなんて、こっちから願い下げだよ!行くよウォルター」
そう言い捨てて、アガタとウォルターは去って行った。まるで嵐ね。