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5 王都メルバルトへ

 やりたい事と言われても………ううっ、思いつかない。

「レ・スタット国では、やりたいことがないの。だからオ・フェリス国へ行って、仕事を見つけようと思って」

「やりたいことがない?あんたなら、なんだってできそうだけどな」

 ジークは不思議そうな顔で言い、ビールのお代わりを注文する。 

 そうしているうちに、わたしが記憶喪失なこと、ルオとは途中で出会って一緒に旅をしていることも話すことになった。

 そして気づけば、ジークとパーティを組んでオ・フェリス国を目指すことになっていた。なぜ………。

 と、落ち込んでいても仕方ない。


 話がひと段落ついたところで、町の探索へ行こうと立ち上がった。

「ジークはここで待っていて。町の探索へ行ってくるわ」

「待て待て。俺も行く。あんた一人で行かせて迷子になられちゃ困るからな」

「ええぇ。わたしは子供じゃないわよ」

「記憶がないんだ。ガキみたいなもんだろ」

 そう言われると、言い返せない。

 むすっとしたままルオのリードを握った。

 宿屋の外に出ると、すでに夕方になっていた。左の道へ行こうとして、腕を掴まれた。

「こっちだ」

 さっそく道を間違えたようで恥ずかしい。

 ジークについて歩き、町の大通りに出ると、大喜びで店を見て回った。見るものみんな珍しくて、楽しくてたまらない。初めは旅に必要な装備や道具をいくつか買い、日が暮れてからは屋台で食べ物を買って歩いた。


「明日に備えて、今日は早めに寝るぞ」

 そう言われて宿屋に戻った。

 てっきり、ジークは別の部屋へ行くと思っていたら。

「悪い。団体さんが来てるらしく、2部屋を1つしか取れなかったんだ。我慢してくれ」

 と言われた。

「1人1部屋なんて贅沢だもの。わたしはそれでかまわないわ」

「よかった」

 断られると思っていたのか、あきらかにほっとした様子だ。

 部屋に入ると、ブーツを脱いでそそくさとベッドに入った。

 かまわないとは言ったけれど、緊張して眠れる気がしない!

 頭までシーツを被り、ドキドキする心臓を宥めようと手をあてた。

「俺は下へ行って、もう少し飲んでくるよ。ゆっくり寝てな」

 そう言われても、なんだか恥ずかしくて、とても眠れる気がしないわ。

 ドアが閉まる音と、ルオが欠伸する声が聞こえた。


 そうだ、ルオ!

 ベッドから起きて、ベッド脇で丸まるルオを見つけた。

「ねえルオ。勝手にジークとパーティになったり、オ・フェリス国へ行くことを決めてしまったけれど、怒ってないの?」

「怒るわけがありません。レナ様が好きに決めてください。俺はレナ様に着いて行くだけです」

 眠そうな声で答え、再び丸くなるルオ。

 わたしの好きに決めて言いと言われても困るわ。だってわたし、まだ自分の好きなこともわからないんだから。

 溜息をついて、またベッドに横になった。ぼんやりしているうちに、意識は薄れていった。


 目が覚めると、ジークはすでにいなかった。

 身支度を整えて、1階ホールへ降りて行く。すると、同じく身支度を整えた大勢の旅人で賑わっていた。昨日、ジークが言っていた団体さんかな。

 ジークはどこだろう?階段の上から探すけれど、見つからない。ルオは協力してくれないので、困ってしまった。そうこうしているうちに、団体さんの視線がこちらに集まってくるので、恥ずかしくて堪らない。

 俯きながら階段を降りていると、がしっと腕を掴まれた。顔を上げると。

「目立ちすぎだ」

 ジークに注意された。

 顔をしかめて、まるでわたしが悪いことをしたみたいに溜息をつかれた。


「あっ、うん。おはようジーク」

 笑いかけると、視線を外された。

 なんなの?わたしがなにかした? 

「荷造りは済んだようだな。行くぞ」

 朝ごはんを食べられないのはつらいけど、保存食があるから大丈夫。このまま宿屋にいて居心地の悪い思いをするよりマシだわ。お腹をすかせたまま、ジークに着いて宿屋を出た。

 これから行く先は、ル・スウェル国の王都メルバルト。この町から出ている乗合馬車で、乗り継ぎしないで行けるんですって。乗合馬車で3日の行程よ。

 というわけで、向かうは大通りにある乗合馬車の乗り場。出発直前の馬車に乗り込み、さあ出発!


 旅が始まるという高揚感に、胸がドキドキする。

 定員10名の乗合馬車には、わたし達を含めて11人と1匹が乗っていた。定員オーバーのため、少し窮屈に感じる。2頭の馬が馬車を曳いて、土の道をガタゴトと進んでいく。他の乗客は、商人が1人に、旅人が3人、ハンターが5人。

 ルオを尻尾を踏んだ商人のおじさんが、唸るルオに謝っていた。

「大丈夫ですよ。ね?ルオ」

 ルオの頭を撫でて落ち着かせる。

「ちっ。犬なんか連れてやがるのが悪いんだ。おっさん、謝ることねえぜ」

 剣士風のハンターが言って、わたしを睨みつけた。と思ったら、いやらしい目つきに変わった。

「なあ、あんた。俺たちと組まねえか?色々と教えてやるぜえ」

 ………下心丸出しで恥ずかしい。


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