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4 ジーク

 わたしの考えに気づいたのか、ジークはにやりと笑った。

「俺は魔物を狩るために、ここに隠れてたのさ。見つけられなかったがね」

「仲間はいないの?1人で危険じゃない?」

「あぁ。俺に仲間はいない。人付き合いが下手なんだ」

 それより、と言葉を切るジーク。

「あんた、ずいぶん眠そうだな。この先の町で休んだほうがいいぞ」

 言われなくても、寝不足には気づいている。眠くて倒れそうなんだもの。

 ただ、追手がどこまで来ているかわからない。できるだけル・スウェル国に近づいておきたいのが正直なところ。


「どこまで行く気か知らないが、休んだほうがいいぞ」

 念を押された。

 ルオを見ると、彼も迷っているようだった。

 ルオは魔物だから、町へ行けば騒ぎになるかもしれないもの。でも、一晩中走り続けたせいで疲れが溜まっているし、わたしも限界。ここは町を避けて、どこか安全な場所で休憩するのが正解かもしれないわ。

「レナ、町へ行きましょう」

「それじゃ、騒ぎにならない?」

「心配いりません。俺は犬のふりをします」

 なんと!そう言ったあと、ルオの体が小さくなり体長1mくらいになった。首輪も一緒に小さくなり、ただの犬にしか見えない。そっと手綱を外し、結びなおしてリードにした。


「俺も一緒に行ってやるよ。ちょうど町へ戻ろうと考えてたところだ」

 そう言って、ジークは自分の荷物をひょいと肩に担いだ。

 ジークがいれば、追手もごまかせるかもしれない。そう考えて、一緒に行くことにした。

「お願いするわ。よろしくね、ジーク」

 にっこり微笑むと、ジークは照れたように頭を掻いた。

 ジークが道案内をかって出てくれて助かった。

 ルオはすっかり犬のふりが板につき、大型犬にしか見えない。元々、犬だから、喋らないだけでただの犬に見えるのよね。町に魔物対策の結界があれば問題だけど、そんな物はなかった。

 初めて訪れる町に、わたしは興奮しないではいられなかった。さっそく町を探索してまわろうとしたけれど、ジークに止められた。

「なにをしてるんだ。あんたは宿屋で休むんだよ」

 つまらない。

 ジークがペットオーケーの宿屋を見つけてくれて、わたしは部屋に押し込まれた。


 朝から寝るなんて信じられない。

 と思ったのに、ベッドに横になった瞬間に意識が遠のいた。

 気が付いたら、昼になっていた。

 ベッドから起き上がると、ベッドの脇にいたルオが寄ってきたので頭を撫でる。そのまま鏡台へ行き、覗き込んで驚いた。

「誰!?」

 鏡の向こうから覗き込んでいたのは、青い目に金色の髪の美少女だった。年は18歳くらい。肌は白く、なめらかでほくろひとつない。赤い唇を大きく開けて、驚きの表情をしている。鏡と顔を交互に触り、それが自分の顔だとわかると納得した。


 だからジークは、わたしに優しくしてくれたのね。

 わたしは、言ってみれば貴族のお嬢様のような容姿をしていた。豪華で、花のような美しさを備えている。共の者が複数いてもおかしくない。というか、一人で旅をするには危険な………

 どうしよう。こんな容姿じゃ、追手に掴まる前に暴漢に襲われるわよ。

 がっくりとうなだれて、ベッドに腰かけた。

 しかも、大金を持っているし。暴漢の恰好の餌食よね。なんで、こんな目立つ容姿なのよ。


 こんこんっ


 ノックの音が響いた。

「起きてるか?」

 ジークだった。

「どうぞ。入って来て」

 ジークは顔だけひょいと覗かせて、にやりと笑った。

「ここの宿は風呂があるんだぜ。入るだろ?」

「もちろんよ!」

 大喜びで立ち上がった。


 1人用の狭いお風呂だったけれど、体の汚れを落とせてさっぱりした。鏡を見ると、湯上りの顔はほんのり赤くなり、濡れて一つにまとめた髪が魅力的に見えて何とも言えない気持ちになった………。

 複雑な気持ちで宿屋の1階ホールへ行くと、ジークとルオがテーブルに着いて、大人しくわたしを待っていた。

「昼からビール?」

 驚いて聞く。

「まあね。あんたには飯を頼んでおいたぜ」

 言葉通り、テーブルにはなにかの煮込み料理が置いてあった。肉と野菜が見えるけれど、なんの肉かはわからない。

「………ありがとう」

 恐る恐るスプーンですくい、まずは一口。

「美味しい!」

「だろ?前に泊まった時に食ったんだが、けっこういけるだろ」

 初めて食べるまともな食事に、胃が驚かないようゆっくり食べた。

 ジークは、わたしに合わせるようにゆっくりビールを飲み、時々、ルオに干し肉の塊を投げていた。

 ルオは犬になりきっているのか、尻尾を振って嬉しそうに干し肉を食べていた。


「で、これからどうするんだ?」

 わたしの食事が終わってから、ジークはそう切り出した。

「町を探索したいわ」

 わたしの答えにジークは苦笑した。

「そうじゃなくて。これからどこへ行くんだ?」

 正直に答えていいのか悩んだ。でも、嘘をつくにもなんて言っていいのかわからない。結局、正直に言うことにした。

「オ・フェリス国へ行くわ」

 その先のことは、まったく考えていなかった。なにをするか、どうやって暮らすかも。だから聞かれても困る。

 そもそも、わたしになにができるかわからないんだもの。どんな仕事ができるかもわからないわ。



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