表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

24

「ツヴァイは人一倍、人の気配に敏感なんだ。認識阻害の魔法も、関係なく気づく。待っていれば、じきに来る」

「ん?ニキの服も、認識阻害の魔法がかかっているの?」

「クロウだからな」

 まるで、その一言ですべてが説明がつくような言い方。たしかに、クロウは暗部だから人目を引かないようにするのは基本でしょうけど。もう少し、説明してくれてもいいのに。

「ほら、来た」

 見ると、風を切って飛んで来る少女がいた。

 ぶつかると思って、両腕で体をかばうように構える。

 ニキはリラックスした様子で、腕を体の横にだらりと伸ばしている。

 いよいよぶつかる!と思い身を固くした瞬間、ツヴァイ御子がピタリと空中に止まった。 

 淡い黄色のドレスがふわりと空気をはらんでふくらんだ。


「ツェーンが見つかったのね!?」

 溢れんばかりの笑顔だった。

「無事、保護しています」

「良かった。心配していたのよ」

 そう言って、肩を震わせている。今にも泣きそうに見える。

 ところがツヴァイ御子は背筋をぴんと伸ばし、涙をこらえた。

「レナ、夫を見つけていただき感謝します」

「ええ?夫!?」

 びっくりしてニキを見ると、彼は首を横に振った。

「ツェーンは、ツヴァイの夫なんだ。まだ正式な婚礼は挙げていないがね」

 もっとびっくり!


 ツヴァイ御子って、10歳くらいでしょう?ツェーン枢機卿は、たしか27歳くらいじゃ………。子供相手に結婚するなんて、犯罪じゃないの?

 わたしの考えを読んだのか、ニキが説明してくれた。

「エウレカ教では、宗教者同士の結婚を推奨しているんだ。それは序列2位のツヴァイも変わらない。そもそも、教会に縛り付けるためにも結婚を強いるんだ。物ごごろついた頃から、結婚するよう教えられる。そしてツヴァイはツェーンを選んだが、それを面白く思わない男がいた。それがアインスだ」

 たしかに、ツヴァイ御子を妻にできたら教会内での立場は盤石になると思う。でも、アインス教皇というくらいだから、年齢は相当上だと思う。おじいさんくらい?まさか、そんな年の人が、孫のような少女と結婚だなんて………。


「そもそも、アインス教皇は結婚していないの?」

「していた。だが、奥方は亡くなった。たしか、62歳だったはずだ」

「ちょっと待って。アインス教皇はなん歳なの?」

「68歳だ」


 がぁーんっ!


 信じられない。68歳の高齢者が、10歳の少女と結婚?なにかの間違いじゃないの?誰か否定して!

 見ると、ニキとツヴァイ御子は心痛な面持ちで佇んでいた。

「アインスは、わたしを手に入れるために邪魔なツェーンを始末しようとしたの。でも、ツェーンはヴァルヴレイヴについて、重要なことを掴んだからそう簡単に殺せないはず。そう思っていたのよ。思ったとおり、無事でよかったわ」

 ほうっと長い溜息をついて、ツヴァイ御子は嬉しそうに笑った。

「ツヴァイ御子は、ツェーン枢機卿が好きなんですね」

「そうよ。父親代わりにわたしを育ててくれたのはツェーンなの。ずっと一緒にいたのよ。今は離れて暮らさなければならなくて寂しいわ」

 ということは、ツェーン枢機卿は自分が育てた娘と結婚するのね。それはそれで複雑だわ。


「わたしはもう行くけど、ツェーンのことをよろしく頼むわね。結婚式さえあげれば、誰も彼に手出しできなくなるはずだから」

「はい。お気をつけて」

 ツヴァイ御子は嬉しそうに去って行った。彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、ニキのあとについて隠れ通路から出た。

 そのままツェーン枢機卿が待つ家へ向かう。

 ニキが一緒だと、ツェーン枢機卿の家にある結界を気にせず普通に入れた。ニキがいなくても、普通に入れたらいいのに。かがんで入るのは、人に見られた時に恥ずかしいのよね。

 居間にはジーク、レイニー、ツェーン枢機卿にルオが勢ぞろいしていた。ジークは今朝会った時より、顔色がよく見える。


「ジーク、体の具合はどう?少しは良くなった?」

「あぁ。だいぶ回復した。それより、ツヴァイ御子には会えたか?」

「俺がいるんだ。会えたに決まっている。ツェーン、彼女はおまえの無事を聞いてずいぶん喜んでいたよ」

 それを聞いて、ツェーン枢機卿も嬉しそうにした。

「そうか。ツヴァイが元気ならそれでいいんだ」

 そう言って、ニコニコしている。ツヴァイ御子が好きで仕方ない、というふうに見える。

「ツヴァイ御子は、他になにか言ってなかったか?」

「特別なことはなにも。ただ、結婚式までツェーン枢機卿をよろしく、って」

「おい。ってことは、あと何年もこいつのお守りをしなきゃいけないのか?」

 ジークがぎょっとして言った。


「お守りだなんて、ひどい言いようだなぁ」

 ツェーン枢機卿が、大してひどいと思っていない様子で笑った。

「結婚式は3日後だから、君達と一緒にいられるのもほんのわずかな間だよ。3日なんてあっと言う間さ」

「3日後!?だってツヴァイ御子は、まだ………」

「11歳になるよ、3日後にね」

「でもツェーン枢機卿、11歳で結婚なんて早すぎるんじゃない?まだ未成年でしょ。………なにか理由があるの?」

「そうだね。ツヴァイを守るために結婚は有利に働くんだよ。形式的なものだとしてもね」

 形式的な結婚?だとしたら、実質的には違うということ?つまり………体の関係はないってこと?あぁよかった。だって、ツヴァイ御子はまだ11歳なんでしょう?そりゃそうよね、うん。


これまでお読みいただきありがとうございます。


一区切りついたので、ここで一旦、お休みします。すみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ