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人を捕まえておくなら、地下室よね。
というわけで、さっそく建物に入ろうとすると、見張りの男達が立ち塞がる。
「なんだお前達。ここがどこだかわかってるのか?」
「あぁ。クズの巣窟だろう」
「なんだぁ?こいつ痛い目を見たいらしいな!」
「おれは女の相手してやるぜ。げへへ」
一気に激高した男と、わたしをいやらしい目で見てくる男達。正直に言って、気持ち悪い。笑い方も気持ち悪いし、下品。
ニキは喧嘩を売った相手の右手を掴み、腕ごと捻り上げると背後に回って首の後ろを叩いた。そのまま手を離すと、顔から地面に倒れる男。気を失って、口から泡を吹いている。
「こいつやるぞ」
「女を人質にとれ!」
とたんに、標的がわたしに集中する。
でもわたしは戦い方なんて知らない。そして、触られるつもりもない。
「イグニス、火をつけて」
「了解」
イグニスがわたしの肩に乗ったまま火を吐き、わたしは全身が火に包まれる。
「こいつ、燃えてるぞ!」
「人間じゃないのか?」
嫌なことを言われたけれど、触られるよりまし。
見張りを避けて、わたしが先に建物の中に入って行く。誰もがわたしを見ると、距離をとって近づいて来ようとしない。だからと言ってなにもしないわけじゃなく、後ろからぞろぞろついて来るのでうっとおしい。
入口を入ってすぐ地下への階段があったので、その階段を降りて行く。階段は灯りがなかったけれど、わたしはイグニスの火に包まれているので、十分明るく問題はなかった。
階段を降りると広い部屋になっていて、奥に鉄格子で囲まれた一角がある。そこに横たわる人影が3つ。慌てて駆け寄ると、人影が身じろぎして体を起こした。
「ジーク!大丈夫?………には見えないわね」
乱暴されたらしく、ぼろぼろだった。イケメンな顔も傷ができて痛々しい。
レイニーは大した怪我もないようで良かった。
もう1人は宗教者らしく、礼服を着ている。怪我をしている様子はないけれど、すっかりやつれている。足元を見ると、小さな魔法人が描かれている。
「牢屋の中に入るな。魔力を吸い取る魔法陣がある」
なるほど。魔力を吸い取って、抵抗できなくしているのね。
「おまえ達、なんの用だ」
ローブ姿の男が、部屋の奥から現れた。10人ほどの男達を従えている。今このアジトにいる中では、1番の実力者らしい。
ニキが前に進み出た。
「そこに囚われている男達を取り返しに来た」
「ふむ。ここがオルランコスがアジトとわかって、言っているのかね」
ずいぶん尊大な言い方だけれど、ちっとも脅威には感じない。魔法使いのようだけれど、魔力もそこまで感じない。わざと隠しているのかしら。
肩のイグニスに、小声でささやいた。
「あの男がイグニスを呼び出したの?」
「そうだ。小物だろ?」
「聞こえているぞ、トカゲ!ろくに命じられた仕事もできないくせに、小娘に寝返りおって。この役立たずが!」
なんて偉そうな言い方。それに人を馬鹿にしている。
「お前はランバーだな。セヴェリンはいないのか」
「そうだ。支部長は留守にしている。だが、それがなんだと言うんだ。俺がお前らを始末してやる」
事前に、ニキからオルランコスのル・スウェル国の支部長がセヴェリンだと聞いていた。セヴェリンがレ・スタット国の本部に呼び出されていて、留守だということも。セヴェリンさえいなければ、大した争いもなくジークとツェーン枢機卿を取り戻せるだろうと言っていた。
「レナ、その魔法陣は触れていなければ効力を発揮しない。言っている意味はわかるな」
「ええ」
その時になって、ようやくランバーはわたしに気づいた。もちろん、少女がいることはわかっていたけれど、それが自分が追っている少女だと、ようやく合点がいったようす。認識阻害の魔法がかかったマントのおかげね。
「お前は、俺からトカゲを奪った小娘か!のこのこやって来るとは馬鹿め。おまえら、さっさと牢屋へ押し込め!」
と言われても、部下たちは炎に包まれているわたしに触れる勇気はない。武器やその辺の物を投げてきて、牢屋へ誘導している。
わざと牢屋へ行かされているふりをしながら、牢屋の鍵が開けられるのを待つ。
かちゃり
今だ!
「ウォーター!」
溢れて、大量の水!地下室を水で満たして!
杖から大量の水があふれ出て、一瞬で地下室の半分が水で満たされた。そこで魔法を止める。天井まで水浸しにしてしまうと、窒息してしまうからね。このタイミングで、イグニスは火を消している。
牢屋にいた3人は水に浮いている。おかげで魔法陣から離れて、少し楽になったはず。
「ルオ、3人を助けて」
ルオは魔獣化し、魔法陣を踏まないように牢屋に入って行った。3人はそれぞれルオの背中に掴まっている。
「お前達、なにをぼうっとしている!さっさと捕まえろ!」
ランバーの命令に従い、男達が動き出したけれど、水が重くて素早く動けない。そこを、ニキが仕留めて歩く。まるで、水なんてないかのような流れるような動きに、男達はついていけない。