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 わたしからハンカチを受け取ると、ニキはポケットにしまった。

「女の趣味は、前より良くなったみたいだな。あのおとこ女は、おまえには似合わない」

「うるせえ。そんなことより、説明してもらおうか。なぜ俺達を呼んだ」

「そうだな。まずは奥の部屋へ行こうか。奥は結界が強化してあるから、誰か来ても気づかれないようになっている」

 そう言って、ニキと呼ばれた青年は奥の部屋へ行ってしまった。足音も衣擦れの音もしないので、見ていて不思議な気持ちになる。

「あの人、ジークの知り合いなの?」

「………クロウだ」

「クロウって、ル・スウェル国の暗部って言う?」


 なんで、そんな組織の人間がこんなところに?ツェーン枢機卿とどんな関係があるの?

「警戒してろよ。なにをされるかわからないぞ」

「わかってるよ。あいつは只ものじゃねぇからな」

 ジークに答えたのはイグニス。鱗がピリピリしている。

 ルオも毛を逆立てている。

 ジークが歩き出したので、そのあとをついて行った。

 奥の部屋は、明るくなっていた。おかげで、ニキと呼ばれた青年の顔がよく見える。やっぱり綺麗な顔をしている。暗部といえば、人目につかないよう情報を集めたり、組織に邪魔になる人や物を排除したりするイメージ。こんなに目立つ容姿で、暗部なんてやっていけるのかしら?

「さて。初めましての人もいるから、自己紹介をしようか。僕はニキと呼ばれている。もちろん本名じゃない。所属はクロウだ」

 刺すような目で、わたしを見つめながらニキは言った。


  暗部が自己紹介なんて、普通に考えてもありえない。何か、異常事態が起きている証だと思う。

「わたしは………」

「知っている。レナだろ」

 名乗ろうとしたところを、ニキに遮られた。

「僕はツヴァイと繋がっている。意味はわかるか」

「ツヴァイ御子と情報を共有しているということ?」

「正解だ。つまり、君達がツェーンを探していることを知ってる。だから先回りして、この家に来たんだ。レナ、君を待っていた」

「じゃあ、教えて。ツヴァイ御子はわたしになにを望んでいるの?」

 ツヴァイ御子には会えたけれど、ほとんど話もできなかった。彼女が、本当はなにを求めているのかわからないまま。


「それは、ツェーンの保護だろう。聞かなかったのか」

「聞いたわ。でも、そういうことじゃなくて………」

「いいか。物事には順序がある。まず君がしないといけないのは、ツェーンの保護だ。わかったか」

 言っていることはわかるけれど、わたしは自分が呼ばれた理由を知りたい。どうして、わたしだったのか、他の人じゃダメなのか、理由が知りたいの。


「それで。ツェーン枢機卿の居場所はわかるのか」

「いや。まだ見つかっていない。どこかの結界に、閉じ込められているのかもしれないな」

 ジークは驚いた様子でニキを見つめた。

「クロウでも追えないのか」

「そうだ」

 その短い一言に、苦々しさを込めてニキが言った。表情は変わっていないけれど、心がこもっていた。

 ここにきて、ツェーン枢機卿の手がかりが途絶えてしまった。これから、どうやって探せばいいの?

「そうだわ。ジーク、あの魔法書を見てもらったらどう?ニキなら、なにかわかるかもしれないわ」

「そうか!」

 わたしの言葉で、ジークも魔法書を思い出したみたい。


「たしか、エスケープのところに書いてあったな」

 ニキが初めて表情を変えた。怪訝そうな表情をしている。

 でも残念なことに、今は手元にない。レイニーの店に、他の荷物を一緒に置いてきてしまった。そう思ってジークを見ると、彼はにやりと笑った。

「ニキ。手がかりになるかわからんが、クロウと走り書きされた魔法書があるんだ。裏通りの魔法屋で譲ってもらったんだが、気になったんで持ち歩いている。これだ」

 そう言って、懐から1冊の本を取り出すジーク。

 ニキは器用に片眉を上げ、その本を受け取った。皮手袋をした手で、器用にページをめくっていく。

「ふうん。『クロウ』と書いてあるな。確かに妙だ。これは俺が預かっても?」

「あぁ、かまわない。なにか手がかりが見つかるといいな」

 

 クロウと書かれているのが、エスケープ(逃走)ということに意味があるのかしら?クロウから逃げる?それとも、クロウのところへ逃げる?う~ん、わからない。

 わたしが悩んでいると、いつの間にかイグニスが身を乗り出して本を見つめていた。精霊にしかわからない、なにかがあるのかしら。

「イグニス、どうかした?」

「あれ、目隠しの魔法がかかってないか?」

 そう言われても、わたしにはわからない。

「ルオ、あなたはわかる?」

「うぉんっ」

 あ、そうか。ニキが信用できる人かわからないので、犬のふりをしているのね。でも、イグニスもしゃべっているし、ジークの知り合いなら大丈夫じゃないかな。

「ルオ、話して」

「あれは、目隠しの魔法がかかっています。手を乗せて、解呪と唱えてください」


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