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13 ノヴァク自治区2

「ルオ!帰って来たよ~」

 声をかけると、ルオは立ち上がって嬉しそうに尻尾をぶんぶん振った。わたしに駆け寄り、頭をすり寄せてくる。

 わたしも嬉しくなって、ルオの頭を撫でた。

「おや、先ほどのお嬢さんでしたか。どこから出ていらしたんですか?」

 修道士様が、不思議そうな顔をしている。

「ええと、中の人が裏口に案内してくれたんです」

「そうですか。親切な人がいて良かったですね」

 良かった!適当に言ったけれど、本当に裏口があったんだ。

「お世話になりました。それでは、失礼します」

 ジークが、普段は言わない丁寧な言葉使いで言うと、頭を軽く下げた。

「ルオを見てくれて、ありがとうございました」

 にっこり笑うと、修道士様は照れたように笑った。まだ若く、20代前半くらいに見える。優しそうな笑顔を見ていると、こっちまで優しい気持ちになる。

「そういえば。修道士様は、ツェーン枢機卿をご存じですか?」

「レナ!?」

 突然の質問に、ジークが驚いた声を上げた。

 

 でも、驚くようなことを言ったかしら?枢機卿の行先を知っているとしたら、やっぱり教会関係者でしょう。

「もちろん、存じておりますよ。昨日もお見掛けしました」

「「え!」」

 思わず、声が揃う。 

「ええと。ノヴァク自治区の本屋です。あの方は読書がなによりお好きですから」

「ちょっと待ってくれ。さっき、1週間も教会に来ていないと聞いたんだが、なにかの間違いでは?」

 ジークは、すっかり元の言葉使いに戻っている。修道士様は気にするそぶりもない。

「あれ?そうですね。確かに、教会ではお見掛けしていません。ですが、本屋でお見掛けしたのは間違いありませんよ。これでも、記憶力には自信があるんです」

 わずかに胸を張って、自信ありげに答える修道士様。


「それは、どこの本屋だ?」

「ええと、教会を出たらまず東の宿屋を目指して、そこから………」

 わたしは行き方を聞いても覚えられないので、ジークに任せることにした。

 それにしても、こんなに早くツェーン枢機卿の手がかりが掴めるなんてラッキー。

あ、そうだ!ルオに追跡をお願いできないかな?魔物だし、普通の犬より鼻が効くんじゃないかしら。

 そうと決まれば、さっそく確かめてみなくちゃ。

 ルオの目を見つめながら、そっとしゃがみ込む。

「ねえルオ。人の追跡はできる?」

「うぉん」

 その答えに満足して、うんうんと頷く。

 

 するとルオが、わたしの耳元に口を寄せてきた。 

「追跡対象の匂いがないと追えません。ありますか?」

 小声で話したので、修道士様には聞こえていないみたい。

「そういうものなの?」

 聞くと、大きく頷くルオ。

 そこで、もう一度、修道士様を頼ることにした。

「修道士様、少しよろしいでしょうか?」

「はい。なんでしょう?」


「わたし達はツェーン枢機卿様を探しています。このルオが匂いを追跡できるので、なにか枢機卿様の匂いがついた物をお貸しいただけないでしょうか?」

「困りましたね。急に言われましても………そうだ。本屋で、このハンカチを落として行かれたんです。お渡ししていただけますか」

「はい。もちろんです!」   

 そうしてハンカチを預かり、とりあえず本屋を目指すことになった。

 優しい神官様に手を振り、わたし達は教会を後にした。

 本屋への道順はジークが覚えているので、わたしはジークについて行くだけ。


リーン ゴーン リーン ゴーン


 6時の鐘が鳴った。

 あたりはほの暗く、夜の足音が聞こえる。

 店が閉まる時間だった。

「今日は宿屋へ行って、明日の朝出発するぞ」

 修道士様に教えてもらった、東の宿屋へ行くことになった。

 この宿屋に食堂はなかったけれど、お風呂がついていた。嬉しい!ジークが生活魔法を使えたおかげで、服や体を清潔に保つことはできていたけれど。やっぱりお風呂に入ってさっぱりするのは特別よね。

 お風呂から部屋を戻ると、ジークはベッドに腰かけていた。ルオはもうひとつのベッドの足元あたりに丸くなっている。

 そう。ここは2人部屋なの。だけど小さな部屋に、無理やりベッドを2つ並べた分、他の家具はない。ノヴァク自治区は土地が狭いので、どの宿屋でもこんなものらしいわ。


「ねえジーク。そろそろ、ご飯を食べに行かない?」

 この宿屋は食堂がない。そもそも、客室を増やすために、ノヴァク自治区の宿屋は、どこも食堂がないそうなの。その分、近くの飲食店は遅くまで営業していて、どこも繁盛しているみたい。

「そうだな。行くか」

「良かった。もうお腹ぺこぺこだったの」

 そうして、夜の町へ繰り出すことになった。 

     

「火事だ!!」

「水の魔法を使える者は集まれ!」 

「早くしないと、火事が広がるぞ!」

 燃え盛る炎に飲み込まれて、さっきまでくつろいでいた宿屋は火の海と化していた。どうしてこんなことになったのかわからない。

 木造の建物が多いノヴァク自治区では、一旦、火事が起きれば町全体が危機にさらされる。普段から火事に備えているはずなのに、どうして建物全体が火に包まれるまでほおって置かれたのかと言うと、火事が爆発的に広がったから。魔法による放火かもしれない。

 幸い、死者は出ていない。軽い火傷が5人だけ。それもヒールで回復済みだった。

「ウォーターを打てるか?」

 ジークの問いに、勢いよく頷く。

「もちろん!」


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