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11 クロウ

 とりあえず、恰好だけは魔法使いになった。

 初級魔法の本を貰ったから、少しづつ魔法を覚えていこうと思う。

「この、補助魔法も覚えた方がいいよね?」

「そうだな。ないとは思うが、逃走する時にエスケープがあると便利だ」

「エスケープ………戦闘および危険からの逃走、脱出ね」

 魔術書の一文を読み上げる。

 魔術書は中古で、ところどころ書き込みがある。字が拙い。子供が使っていたのかもしれない。初級だしね。

 あ、これなんだろう。

「………クロウ………?」

「なんだと!?」


 ジークはわたしから魔術書をひったくると、クロウと書かれた場所を探した。

「どうしてこんな魔術書に………?クロウ………鴉………他にはないか?」

 必死に、何かを探しているジーク。ただし、焦り過ぎてうまくページがめくれない。

「カフェで少し休んで行こう。こっちだ」

 カフェが何だかわからないまま、ジークについて行く。

 看板には、ダリアのカフェと書かれていた。店先までテーブルと椅子を並べ、多くの人で賑わっていた。黒い液体を飲む人と、お酒を飲む人に分かれている。

「あれは何?薬草のお茶?」

「あれはコーヒーだ。コーヒー豆を炒って粉砕した物を、お湯で濾して飲むんだ。うまいぞ」

 そう言ったジークは、まだ動揺しているようだった。


 謎の飲み物コーヒーと、他にも注文を済ませると、ジークは魔術書のページをめくり始めた。

 テーブルには、コーヒーとお酒のジョッキが並んだ。またお酒………ジークってば、本当にお酒が好きね。 

「飲んでみろ。昔は、神の飲み物と言われていたんだぞ」

「ええ!神様がコーヒーを飲むの?」

「いや、ただの言い伝えだよ。いいから飲め」

 カップにそーと口をつけると、こうばしい香りが鼻腔をくすぐる。ただし苦味が強く、甘い物が欲しくなった。

「………わたしには合わないみたい。苦いわ」

「そうか」

 笑われた。


 ジークはしばらく魔術書をめくっていたけれど、目当てのものは見つからなかったみたい。溜息をついて本を閉じた。

「ねぇジーク、クロウって何なの?」

「その話は、宿屋へ行ってからだ。人に聞かれるとまずい」

 そう言って、ジョッキを一気に煽るジーク。

 どうして酔わないのかしら。わたしは、すぐに酔ってしまうのに。


「さて。クロウと言うのは、この国の暗部のことだ」

 宿屋の部屋に着くなり、ジークはそう切り出した。

「ル・スウェル国の陰になり、人目につかないよう仕事を片づける連中のことだ」

「そのクロウが、どうして魔術書に書かれていたのかしら」

「わからん。これは子供の字だが、子供が知っているはずはない。それが妙なんだ」

 妙と言えば、あの鏡も妙だったわ。鏡の中の少女が、ヴァルヴレイヴを忘れないでと言ってきたこと。

「ねえジーク、ヴァルヴレイヴを知っている?」

「それがどうした。エウレカ教のご神体だろ。神の心臓とか言われてる」

「あ、有名なんだ?」

「そうだが、ヴァルヴレイヴなんてどこで聞いたんだ?レイニーは信者じゃなかったはずだが………」

 言葉を切って、ジークは窓の外を覗く。


 わたしに手招きして、窓の外を指さした。そこには、小高い丘と、そそり立ついくつもの尖塔。中でもひときわ大きな塔の上には、鐘がついていた。

「あれがエウレカ教の総本山だ。中にはヴァルヴレイヴ、神の心臓が祀られている。おまけに、神の声を聴くという神の御子ツヴァイがいるな」

 ジークの説明によると、ル・スウェル国には国教としてエウレカ教があり、アインス教皇の教えの元、教義を広めるべく牧師達が各地に散っている。エウレカ教では、教会内の順位に応じて名前が決まっていて、順番にアインス教皇、ツヴァイ御子、ドライ枢機卿、という具合になっている。枢機卿より順位が上のツヴァイ御子は、神の声を聞くそうよ。

 エウレカ教には専属の騎士団もあって、各地の安全に役立っているそうよ。

 ヴァルヴレイヴは、エウレカ神の心臓と言われる宝物。信者にとって最も大切な物なんですって。


 ちなみに、エウレカ教の教義は人々の幸福。福音を奏でることが、信者の喜び。意味は、喜びを伝える良い知らせを奏でると、いうことかな。

「で。ヴァルヴレイヴがどうした」

「それが………鏡を覗いた時に、少女が『ヴァルヴレイヴ』と言うのが聞こえたの。すぐに消えてしまったから、それ以上は聞けなかったわ」

「………それ、いつの話だ」

「ええと。レ・スタット国の町にいた時だから、3日前?」

「俺に聞くなよ。そんな怪しい話、どうして黙ってた」

 あれ。怒ってる?

「ごめんなさい。言い出すタイミングがなくて、言えなかったの」


「………わかった。レナも怪しいと思ったから、人のいる場所で言えなかったんだろう。それは仕方ない。だが、今度からは、すぐ言ってくれ」

「ええ、そうするわ」

 大きく頷いた。

「ヴァルヴレイヴと言ったのは、ドレスを着た少女だったわ。とても必死な様子で、『覚えていますか』と言っていたわ」

「どういうことだ。まるで、前にも現れたような言い方だな」

「それもそうね。でも、覚えていないわ」

 記憶をなくす前に会っていたのかしら?それなら、残念だけど思い出せないわ。わたしは、復活の泉の力で記憶喪失になったのだから。

「とりあえず、ヴァルヴレイヴを見に行くか。なにかわかるかもしれないぞ」

「はい!」


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