10 古着屋
「あの2人、ジークの昔の仲間なの?」
「そうだ。魔法剣士のアガタに、盗賊のウォルター姉弟だ。考えの相違があって離れたがね」
「そうなの。アガタさん、寂しそうだったわね」
「そうかぁ?さっきも言ったが、俺を追い出したのはアガタだ。今頃せいせいしてるだろう。それよりも、だ。ここは人目があり過ぎる。場所を移すぞ」
う~ん。アガタさんは、ジークと仲良くしたいように見えたけどなぁ。なにか、誤解があったのかもしれないわね。
「行くぞ」
そう言われて顔を上げると、ジークが歩き出した。慌てて後を追いかける。
でも、走らなくたって大丈夫なことくらい、わたしにだってわかるんだからね。ここ数日で、ジークの面倒見がいいことはわかっているんだから。
華やかな大通りをしばらく行くと、横道に入り、裏通りを進んでいく。客層が貴族から平民に変わり、客引きの声が熱を帯びる。大通り周辺は整頓された街並みだけれど、裏通りは雑多で入り組んでいた。1人なら、あっという間に迷ったと思う。
そんな裏通りに、ジークが目当てのお店があった。
「服屋さん?」
「そうだ。おまえは目立ちすぎる。少し顔を隠した方がいい」
つまり、フード付きのマントかローブ等の衣類を買って、顔を隠すということ。
仮面も考えたらしいのだけど、それは怪しいので却下したらしい。
「ここはリサイクルショップだが、質のいい物が結構ある。初心者ハンターにはありがたい店だ」
新品でも買えるくらいのお金は持っているけど、それは言わないほうがいいかしら。
「うぉんっ」
ルオが、不満そうに短く吠えたので笑ってしまった。
頭を優しく撫でる。
「ちょっと待ってくれ。店主を呼んでくる」
そう言って、ジークは服の山の中へ消えていった。
「おや、ジークじゃないか。いつ帰ってたんだい。久しぶりだね」
「やあ、レイニー。客がいるんだ。あんたが見繕ってくれないか」
そんな短い会話のあと、恰幅のいいおじさんとジークが現れた。
わたしをジロジロと見て、
「大した美少女だね。あんたに、こんな甲斐性があるとは思わなかったよ。あっはっは!」
ジークの背中をバシバシ叩き、大笑いするおじさん。
「………それはいいから。こいつの顔を隠せるような服はあるか?」
「せっかくの綺麗な顔を隠すのかい?もったいないねぇ。あぁ、男除けか。それなら賛成だよ。じゃあ、あんた、ついておいで。ぴったりのを見つけてやるよ」
勝手に勘違いして納得すると、腕をがしっと捕み、服の山の中へ連れ去っていく。
それから、着せ替え人形よろしく次々に服を着せられた。あまりの勢いに、楽しむ余裕もない。ただ、センスに間違いはないようだった。中には奇抜な物もあったけれど、どれもわたしに似合っている。その中でも、淡いブルーのフード付きミニマントが気に入った。
「よしよし。あんたも気に入ったみたいで、あたしも満足だよ。ふふっ、顔を見れば、気にいったかどうかわかるのさ」
わたしの姿を眺めて、満足そうに頷くレイニーさん。
「さあさあ。マントも決まったことだし、ジーク見せに行くよ。男ってのは、女の買い物にはすぐ飽きちまうもんだからね。待ちくたびれてなきゃいいねぇ」
店先には、暇を持て余したジークとルオがいた。良いコンビに見える。
「どうだい、ジーク。このマントは認識阻害の魔法がかけられてるんだよ。貴族のお嬢様が、こっそり出歩くために作らせたとかでねぇ。お嬢ちゃんにはぴったいじゃないかい?」
「認識………そがい………?」
「着ている者が、明確に把握されなくなるのか」
「どういうこと?」
話についていけない。
「つまり。レナだと気づかれにくくなるってことだ」
「すごい!かくれんぼしたら、最後まで捕まらないわね」
「いや、そういう使い方はしないでくれ」
ジークは呆れて溜息をついた。
けれど、すぐ気を取り直して、レイニーと支払いの相談を始めた。
「このマントと皮鎧は合わないな。皮鎧を置いていくから、マントをくれないか」
「そうだねぇ。負けてあげたいとこだけど、これは言ったとおり魔法道具だからね。ちょっと値が張るんだよ。これでどうだい!」
と、手で金額を表すレイニー。
同じようにジークも指の本数で金額を表す。
どうやら、ジークは値段を値切っているらしい。
もしかして、これが裏通りでのやり方かもしれない。そう思って、値切らなくても買えることを黙っていることにする。
何度かやり取りしたあと、勝敗はジークに決まったらしい。レイニーが悔しそうな顔をしてる。
「ぐぬぬぬっ。今回はお嬢ちゃんに免じて、わしが引いてやるよ。ただし、今回だけだからな!」
「まいどあり」
ジークは勝ち誇った様子で言い、支払いを済ませた。
買い物ついでに、杖屋で杖を買い、魔法屋で初級魔法を買った。攻撃魔法のサンダーとウォーターの2つ。一気に覚えても、使いこなせないと意味がないものね。
ちなみに、わたしみたいに呪文なしで魔法を使うことを、詠唱破棄と言うんですって。魔法屋のご主人が驚いていたわ。
「どうみても初心者なのに、詠唱破棄ができるなんて才能かねぇ」
と言われた。