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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

flow不死

作者: にしぇあ。


飼っていた犬が死んだ





悲しかったけど





死んだら何処に行くの?

僕はお父さんに尋ねた



「遠い所に行くんだよ」

お父さんはそう答えた




飼っていた猫が死んだ





もちろん寂しかったけど





「死んだらどうなっちゃうの?」

僕はお母さんにそう尋ねた





「お星様になって皆を見守るのよ」









僕の家族が死んだ









不思議だった









ねぇ、あのさ

「もう大空の彼方に....」









死ぬってどういうこと?









俯いたまま黙り込む大人を

僕はただ、純粋な目で見つめていた









チャイムが鳴るいつもの日常

騒がしい笑い声が教室中に響き渡る


「まじで先生うざかった!!」

「分かる、あいつ臭いし早く死ねよ」


「あの芸能人って捕まったらしいね」

「未成年の子に手を出したんでしょ?」

「えーー最低、死んで欲しい」



今日も皆は簡単に[死]を使う



「あの学級委員すぐ先生に媚び売る」

「きもすぎ」

「点数稼ぎは死ね」




死ぬってどういうこと?


「ツ....タモ..タモツ....モ...ツ」

「おい!タモツ!」

僕はハッとして頭を上げた

「ちゃんと寝ないと学力上がらないぞ」

「俺が宿題見せるの何回目だよ」

僕の唯一の友達であるハキくん

勉強にストイックで黒縁眼鏡が特徴的

噂だと全国模試で2位だったとか....



あ、ごめーん

ぼーっとしてた

「馬鹿か、どうせまた寝不足だろ」

言い方はキツイけどハキくんは優しい



ハキくん、唐突だけどさ

死ぬってどういうことか

そういうことって考えたことある?



「本当にタモツって変わってるよな」

苦笑いでそう言い放つと

静かに教科書を読み始めてしまった


頭の良いハキくんなら分かると思ったのにな


「そういえば、死ぬで思い出したんだが」

「ここの村の外れの森に」

「不老不死がさまよっているらしい」


不老不死.....?


「しかしあの森は薔薇のトゲが多い」

「人を襲うカラスも住み着いている」

「怪我人が出るから立ち入り禁止だ」

「だから誰も不老不死を見たことがない」



僕は半信半疑でその話を聞いていた

正直、ただの都市伝説だと思う



でも僕は[死]について興味がある



会ってみたい





僕は放課後、例の森に行った

重いランドセルを芝生に置き

大きく深呼吸をして薔薇の木の枝を踏んだ

涼しい風が少し冷たく感じる

辺りは薔薇のトゲだらけで歩きにくい

まるで僕を敵視しているみたいだ


「ガァアァアァアアアーー!!!!」

カラスのような鳴き声が森に響き渡る

物凄く嫌な予感と悪寒がした

東の方から荒い羽音がする

これはかなりまずい、早く逃げないと...

でもこの状態で速く走るのは危険すぎる

きっと足や腕が血だらけになる

そうしたら立ち入り禁止区域に

入ったことが村の皆にバレてしまう

「ガガガァガァアアガァアア!!!」

どんどん鳴き声が近くなると思うと

ガサガサと木の陰から出てきたカラスが

勢いよく僕に向かって飛んできた

僕は咄嗟に目をつぶることしか出来なかった




「やめろ!」




僕は誰かに抱き抱えられた

カラスはその子に襲いかかると

満足して飛び去ってしまった

背中から流れる血が地面に垂れる

僕のせいでこの子は.....

震えた声を必死に絞り出して言った


病院代なら出します、助けてくれて

ありが.......と.....ご....


その子の背中が何やら黄色く光っている

僕の鼻の上に白い羽が落ちた

「うっ...うぅっまた死ねなかった」

しばらくすると背中の傷は治っていたが

地面に滴り落ちた血はそのまま残っている

「大丈夫だった?」

肌の白い美少年が僕を見て笑った

「こっちは安全だから、おいで」

僕は状況が飲み込めないまま手を引かれた



そこには大きな湖と樹木があり

さっきの森とは似ても似つかない

大自然が広がっていた

「綺麗でしょ?ここ大好きなんだ」

そう言って湖で顔を洗い

背中にある白い羽を整え始めた

僕は思い切って話しかけてみることにした


あぁっ、あのっ!助けてくれて....

ありが..とう....ございま...す...

えと..あの......

もしかして........


不老不死さんですか?


美少年は一瞬キョトンとした顔をしたが

「正解」

の一言の後、ニコッと微笑んだ

「僕の名前はシトセ」

「君は確かタモツくんだっけ?」

何で僕の名前を知ってるの?

「自分も一応、村の住民だからね」

「だったと言うべきかな」

シトセくんはどうやらあることがきっかけで

森で生活をすることになったらしい

シトセくんの家族が世間の目を気にして

家を追い出してしまったみたい

そのあることは教えてくれなかった

「こんな姿になったのは自己責任だけど」

「自分を捨てた家族を見返したい」

「だからこっそり模試だけは受けてるんだ」

シトセくんはとても頭が良いらしい

模試も1位ばかりだと言った

「この白い羽を隠すために変装しないと」

「村に行けないからなかなか不便だけど」

「英才教育ばかりだった幼少期よりも」

「不老不死になった今の方が自由かな」



僕はシトセくんとすぐ打ち解けた

シトセくんは今まで会った中で1番

喋りやすくて面白い

そして楽しい

シトセくんと話してる時の僕は

何故かぼーっとしない





突然、会話の中で沈黙があった

その時、シトセくんの綺麗な横顔から

見える笑顔が少し歪んだ気がした





しばらくしてシトセくんが重い口を開く

「でもやっぱり人として生きたいよ」

「だからさ、タモツくん」

シトセくんは僕の冷たい手を握った

「殺してくれないかな?」

シトセくんの手も冷たかった





一瞬、息が止まった





「不老不死は人間にしか殺せないんだ」

「いけないことだって分かってる...けど」



シトセくん.....?



「死んだら生まれ変われる」

「もう一度、人間になりたい」

「お願い、自分を殺して欲しい」



せっかく友達になれたと思ったのにな



今日はもう遅いから明日ね

また学校が終わったら会いにいくよ



それから僕は毎日シトセくんに会いに行った

好きな食べ物は木苺

嫌いな食べ物はバター


バター美味しいよ?

「油っこいの苦手なんだ」


得意なことは木登り

苦手なことは編み物


編み物は意外だなぁ

「細かい作業が好きじゃなくてね」



シトセくんのこと、もっと知りたい

僕は学校を休みがちになった





全てを知りたい





シトセくんの誕生日

シトセくんの体重

シトセくんの視力

シトセくんの髪質

シトセくんの口癖

シトセくんの...



好みの人



シトセくんはどういう人に惚れるのかな

まず人を好きになったことがあるのかな


「髪の長い人が好きだよ」








シトセくんはいつも笑顔だけど

「ねぇ、今日は殺してくれるの?」

その言葉を僕に投げかけた時は

いつも嬉しそうに笑ってる









やめてよ

そんな目で僕を見るの

何か嫌だ









今日はもう遅いからまた明日ね









今日はテストがあったから学校に行った

久し振りの学校は変わらずいつも通り

皆が[死]という言葉を使っていた





シトセくんは不老不死

だから死なないよね?

僕が殺さない限り


ランドセルを投げ捨て森の中に駆け込む


早く会いたい

不安で仕方がない


林から光が差し込む

あそこを抜ければシトセくんに会える


シトセくん!!!!









そこで僕が見たのは

ハキくんがシトセくんの

胸ぐらを掴んでいる光景だった





ハキくんは泣きそうな顔をしていた

「タモツ...何でこんな奴に.....」

そんなことよりシトセくんを離してよ

「学校に来なくなった原因はこいつだな?」

「お前のランドセルが森の近くにある」

「それで俺は察したんだ」

「不老不死は本当に存在するのだと」

シトセくんを睨みつけるハキくんは

普段からは想像出来ないくらい怖かった





シトセくんをどうする気なの?





「殺すに決まっているだろ」

「不老不死は人間になら殺せる」

「そう聞いた」



[ガッッッ]

そう言うとハキくんはシトセくんの

首を勢いよく締め始めた

「ぐっ....」


やめてよ、苦しむシトセくんを見たくない

僕は必死に止めようとしたけど

泣き崩れてしまい思うように足が動かない



「ふふっ.....」

こんな時でもシトセくんは笑っている





やっぱりシトセくんは、死ねるなら

殺される相手は誰でも良かったのかな





「確か模試で2位だった子だよね?」

「1位も好きな子も取られて怒ってるの?笑」

息の荒いシトセくんの言葉を聞いて

ハキくんは顔を真っ赤にした


「不老不死がうるさいんだよ......」

「もう死んだような奴が...」

「人間に口答えをするな!!!!!!」


もうやめてよ.....殺さないでよ


やだあぁあああぁああぁ!!!!!





[ドンッッッッッ]

その時の記憶はあまりない

ただある力を振り絞ってハキくんに突進し

殺さないでと泣きながら縋りついていた

それだけは鮮明に覚えている





息を切らしたハキくんが口を開いた

「タモツ、髪伸びたな」

「男のくせに二つ結びとか」

「似合ってんじゃねーよ、死ね」

そう言うと涙を浮かべながら

ランドセルを持ち走って去ってしまった


僕はシトセくんと顔を見合わせる

途端に僕は色々な感情が湧き上がってきた









ごめんね、僕のせいなんだ

本当は殺す勇気なんかなくて

死んで欲しくなくてずっと嘘ついてた





シトセくんは僕を見て悲しく微笑んでくれた

「死んでもまた会えるよ」





それ、約束だよ


シトセくんの白い羽が僕を優しく包む

「約束は苦手なんだ、もう縛られたくない」


僕、シトセくんのことずっと忘れないよ









「実は不老不死になったきっかけはね」









シトセくんは笑顔で泣きながら

「タモツくん以外に殺されたくない」

と言ってくれた








シトセくんのこと大好きだったよ










「早く殺して」










震えた僕の手はシトセくんの首を掴んだ









僕は死ぬの意味が分かった気がする

死ぬって悲しくて一瞬の出来事だけど

ずっと心に残る傷のようなもの

思い出の数で傷の深さが決まる


実際、飼っていた犬も猫も

僕は世話をしていなかったし

家族と会話はほぼしかなった

だから傷が浅かったんだ

[死]を感じることが出来なかった


僕はあの日からまた空っぽになった

シトセくんは色の無い僕の世界にある

絵の具のような貴重な存在だったと思う





でもシトセくんが僕を好きになる

そんなことは最初から無かった

シトセくんが不老不死になった理由

それは今の僕と全く同じらしい









シトセくんの初恋の相手は

シトセくんの前の不老不死だって









だから僕のことは好きになれないって

僕の好意を知って弄んだんだって









それを泣きながら僕に教えてくれた

笑ってないシトセくんを見るのは

寂しいけどこれが最初で最後









「自分の初恋の相手は殺めちゃったけど」

「好きな人は今も心の中で生きてるから」

「タモツくんを好きになることは出来ない」





僕が殺した君は僕の中にいるよ

タモツくん、僕の初恋の相手

これからもずっと僕の中にいる









二つ結びの髪を解くと

僕の背中から白い羽が落ちた


໒꒱· ゜

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