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幼馴染みの災難

誤字報告いつもありがとうございます。

 トリシャの爆弾発言その二で、止まった時が再び動き出したのは、それから数分後のことだった。


「...本当なのか?」


 トリスタンが重々しく口を開いた。その目は射殺さんばかりにベルナンドとジルベルトの二人を睨み付けている。一方、全く身に覚えのない二人は、驚愕のあまり口をパクパクさせている。その顔色は真っ青だ。


「えぇ、正式に婚約を結ぶのはこれからですが、私達の意思は固まっております」


 トリシャがしれっと嘘を付き続ける。


「...幼馴染みと聞いたが?」


「えぇ、幼馴染みです。子供の頃から遊び相手として過ごして来ました。そして成長するにつれ、お互いに淡い恋心を抱くようになりました。ですが身分の差というのは残酷なものです。お互いが好き合っていても、家のためにと言われれば泣く泣く別れるしかありませんでした。貴族に生まれついた者のさだめとして受け入れるしかなかったのです。やがて月日は流れ、貴族社会の荒波に翻弄され傷付いた私達は、傷心を癒すため領地に戻りました。そこで運命の再会を果たしたのです! なんと彼らはまだ私達のことを慕ってくれていて、恋人も作らず私達を待っていてくれたのですよぉ~! これで燃え上がらないはずがないではありませんかぁ~! ど~ですか、奥さん!」


 トリシャは自分の嘘に完全に酔ったようだ。身振り手振り交えて熱く語り出した。全員ドン引きである。特にベルナンドとジルベルトの二人は、真っ青通り越して顔が真っ白になっている。ただこの二人に関して言えば、アイシャとトリシャに淡い恋心を抱いていたのは事実なので、また話がややこしくなりそうだ。それと奥さんって誰?


「...そうか...良く分かった...私達は公務があるので...これで失礼する...邪魔したな...」


 そう言ってトリスタンは、まだ何か言いたそうなランドルフを促して席を立った。ここは仕切り直すしかないと判断したのだ。王子二人が退席してやっと我に返ったトリシャは、


「ハッ! ご、ごめんなさい! 私ったらまた...」


「はぁ...」


 アイシャは深いため息を吐いて、ベルナンドとジルベルトの二人は完全に放心状態になった。



◇◇◇



「やられたな...まさかあんな隠し球を用意してたとは...」


 王宮へと戻る馬車の中で、トリスタンは忌々しげに呟いた。さすがに疲れ切っていたので帰りは馬車にした。


「まずはあの二人の経歴、趣味嗜好を早急に調べます」


 ランドルフが切り替えるように言う。


「頼む。しかし、領地に居られるのは厄介だな...元婚約者のバカどもと違って監視し辛い...」


「手の者を何とか忍び込ませてみます」


「あぁそれと、枕絵本も何種類か用意しておいてくれ」


 枕絵とは男女の秘戯を描いた絵のこと。要するにエロ本のことである。


「ジャンルはどうしますか?」


「そうだな...姉妹丼、親娘丼、寝トラレ、不倫、あとBLも。これだけ揃えればどれか引っ掛かるだろ」


「あのバカどもみたいに簡単に釣れればいいんですが...」


「それとハニートラップも用意しておこう。都合の良い女は居るか?」


「調べておきます」


 黒い相談を続けながら馬車は王宮へと向かう。王宮に着いた後、公務をすっぽかしたことで、父親である国王からこっ酷く叱られることを二人はまだ知らない。




 

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