ご馳走荒らしの正体
本に書かれたらしい自分、その本をなくした私は、森をさ迷っていたとき出会った星雪姫と、ともに森を抜けようと歩き続けるが、寒さと空腹と疲れも限界にきた頃、一軒の小屋をみつけた。そこに用意されていた御馳走を、星雪姫は自分のためのものと言って構わず食べると、さっさと一人寝てしまう。私も食べようかと迷っていたとき、その小屋の主の森の小人たちが姿を現し、私に盗んで食べた疑いをかけ、迫ってきた・・・。
「皆さん、聞いて下さい」だしぬけに星雪姫が声をあげた。「その方を責めるのはおよしになって。その方はわたしと共にこの森の中で遭難したのですから。その方だけを責めるのなら、どうかこのわたしもお責めになって下さい。いいえ、二人して無実の罪を背負うことは、あまりに酷い。ひとりでいい。もし罪が二人にあるのなら、罰はこのわたし一人がお受けします。だからどうか、その方を責めるのであれば、このわたしをお責めになって下さい」
「そんな滅相もござんせん!」
「ああ、なんとあのご令嬢は心の中までああも美しいのだ!余は感動で身の震えが止まらん!」
星雪姫の言葉に、小人たちは足を止め、感極まっていた。
「どういうことだい?」オリーブ色のポンポン付きフードの小人が、ひとり水を差した。「なあ、ウィサーゴの先生、なんで泣いてるのさ」
「余に話しかけるのは止めてくれたまえ」黒灰色のフードの先生が、はねつけて言った。
「なあ、ヘイスティの兄さん、誰がご馳走たべたことになるんだい?」オリーブ色のフードが食い下がって訊いた。
「うるせえっ、頭目に訊けよ!」灰青色のフードの巻き舌の小人が、つかまれた腕を払った。
「ああ!」星雪姫が思い出したように口を開いた。「そういえばさっき、尻尾を生やした毛むくじゃらの、こーんな怖ろしく尖った爪を持ったやつが、テーブルの上をバタバタ歩きながら、ご馳走を食い荒らしてるのを見たわ!いま思い出した。あれがグルートかしら」
「なんですか、そんな化け物がいなすったんで?」頭目が目を丸くした。
「おい、お前のことか!?毛むくじゃらなのか?尻尾生えてるのか?ケツ見せてみろ!」オリーブ色のフードの無邪気な調子の小人が、ずんずん迫ってきた。「ほら、見せろってば」
「尻尾なんてありません!毛むくじゃらでもありません!見たらわかるでしょ、ほら!」私は小人たちのほうにお尻を向けて、ペンペンとはたいてみせた。
「服を脱いでみろ」
「え!?冗談じゃない!さっきから言ってますけど、私だって女のコなんですから」
「そんな髪短いのにか?」
「文句ある!?」立って小人と相対してみると、子供みたいな背丈の彼らに、私は怖れる気持ちが消え失せ、大きな態度に出ることができた。そのとき「グゥ~」とお腹が鳴った。私は両手を腰にかけ、お尻を小人の方へ向けて立っていた。
「あ、オナラしたな!」
「なんて下品な娘なんだ」
「違う、違う!」大きく手を振って私は必死に否定した。「いまのはオナラじゃなくてお腹が鳴ったの!」
「ウソつけ!」
「ウソはいけねえよ」
「ほら、そうやって匂いを消してるズラ」
「いけませんな嘘は」
「ウソじゃない!だってほら、匂いしないでしょ!」
クンクンと、小人たちは鼻を宙にひくつかせ、匂いを嗅ぎまわりはじめた。
「ね、ね、オナラじゃないでしょ」
突如、ベッドの上の星雪姫がケラケラと笑い出した。お腹を抱えながら、あっちこっち寝返り打って、とどまることなく笑い転げている。
小人たちは動くのを止め、星雪姫の様子をみて自分達のことを省みたのか、一人また一人とつられて笑いはじめた。
私もおかしくなってきて、自然と笑いがこみ上げてきた。