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山小屋の主

本に書かれたらしい自分、その本をなくした私は、森をさ迷っていたとき出会った星雪姫と、ともに森を抜けようと歩き続けるが、寒さと空腹と疲れも限界にきた頃、一軒の山小屋をみつけた・・・・。



「はーあ、わたしもうお腹いっぱいだわ。それにたくさん歩いて疲れたことだし、今日はもう休ませて下さい」


 星雪姫はけだるそうに立ち上がると、居並ぶベッドの一つを選び、その身を横たえた。けどベッドが小さすぎて、星雪姫の両足は足板につかえてしまった。


「これじゃ足が折れて痛めてしまうわ」しばし沈思して言った。「ねえ、あなた悪いんですけどそちらのベッド、わたしの方へ寄せて下さらないかしら」


 私を途端につまらない気分がおそった。自分の寝床くらい自分で面倒みたらいいのに。私がムッとして星雪姫の方を見やると、彼女の瞳は光るようにうるおい、その目を足首に落として呟いた。


「ああ、歩きすぎたせいかしら、骨が砕けるように痛いのよ。ダメね、こんなことでは。これでは、いつか恵まれない子供たちにパンを配って歩くという夢など、とてもじゃないけど叶えられない。こんなか細い足ではどだい無理な夢物語なのかしら」


 その話を聞いて、私は自らの大人げ無さをいたく恥じた。そうして(わずら)わしいからといって、つまらない顔をしている私と、貧しく不幸な身の上にある子供たちを救わんとして、自分の痛めた足をかばいながら、苦しい顔ひとつ見せず微笑んでみせる星雪姫との心根の違いに、胸が張り裂けそうになった。そもそもこんな山奥で一晩過ごさなきゃならないのも、森の中をさんざ歩きまわしたのも、全てこの森に不案内だった私のせいなのだ。


 ベッドは軽々と動いた。ほとんど真四角な寸詰まりのベッドを横に二つくっつけて並べると、側面を頭にした星雪姫の身の丈はぴったりおさまった。


「ちょっと腰のところですき間が気になるけど、仕方ないわね、ありがと。じゃあお先に失礼して、おやすみなさい」と言うと、星雪姫は余韻も残さぬうちに、スース―寝息をたてて眠りこけてしまった。


 星雪姫が寝てしまうと、私は何故だかわからないけどホッとして、開放感に満たされると、一日の疲れがどっと押し寄せてきて、ずっと立ちっぱなしだったことにようやく気づき、なにせ星雪姫の食欲に圧倒されてしまったし、はたしてこの小屋が本当に遭難した姫君のために用意されたものなのかどうかが気がかりだったからで、ともかく私は小さな椅子のひとつに腰かけ、せっかくだから私も目の前のお皿の上のチーズの一切れでもいただこうかと思案しながらテーブルにもたれて、このチーズの匂いは山羊の乳だろうな、なんて考えているうちに、とろとろ眠気におそわれ始めた――


――今日は骨の折れる一日だった。でもなんでこんな深い森の中へ迷い込んでしまったんだっけ。何か探し物をしてたんじゃなかった?そうだ、本だ。私は森の中で本をなくしてそれを探してたんだった。そのとき星雪姫を怖ろしい猟師から救ったんだった。それだけでもよい行いをした。有意義な一日といっていい。でもそもそも森へ入った理由がわからない。やっぱり何か探してたんじゃなかったっけ?きっとそれも本に書いてあるんだ。それじゃその本はどこにある?――



 動物的直観というのか、眠りながらも何かを察し、はっと目覚めて顔をあげると、私の鼻先に剣の切尖(きっさき)が一つ、左右のこめかみに一つづつ、怖る怖る肩越しに周りを向いてみると、脇腹の左右にも一つづつ、ちらっと背後を(うかが)ってみると、首と背中を狙う切尖(きっさき)が二つあった。


 気づけばテーブルはすでに取り払われている。「おい、動くな」横にいる男が言った。


 目の焦点を、剣の切尖(きっさき)から次第にそれを構える腕へと移していくと、私の目前にいる、カーキ色のフードを被った髭モジャの(いか)つい顔の男が、壁のランプに照らされてできた陰影によって、眉間から目尻のシワとその()りの深い造作を強調され、異様な迫力をもって私を見据えて立っている姿に行きついた。


 私は恐怖にすくみあがり、息をのんだ。でもよく見ると、髭モジャの男の顔は大きく見えるのに、身体は椅子に座る私と同じ高さなのだ。どうも小人らしい。


「あんさん、何者だい。何故ここにいるんだ?」目前の髭モジャの男が、地響きするような低音の声をゆっくりと発した。


「あの、私は」言葉をつまらせながら必死で述べた。「私は森をさ迷っているうちに、帰れなくなって、そしたらこの小屋に辿り着いて、それで、」


「小屋だと!」始めに口を切った右横にいる男が、目前の男とは対照的に巻き舌の早口でまくし立てた。「てめえバカにしてやがんのか、この森の山荘のことを!」どうもこの男も小人らしい。


「あんさん、あたしらの御馳走を食いやしたね」目前の男は重く響く声を私に落とすように言った。


 それはそうと、さっきから、あんさんって呼びかけは、娘の私に使う言葉じゃないと抗議したいけど、聞く耳持ちそうにない。「私は食べてません!」










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