<オムツ交換>
介護職の代表的な「排泄介助」「入浴介助」「食事介助」という三つのうち、この話が最も注目度が高いと思いましたのでこの話を最初にさせていただきます。
介護職における3K、危険・汚い・きついの代表的な存在としてこの排泄介助が挙がるかと思いますが、実際にやってきた身としましては、この排泄介助に世間で言われているほど3Kというものを感じることはありませんでした。なぜなら排泄介助用のエプロンや手袋を着用しているので自分が汚れるということがほとんどないからです。
そのうえ、オムツ交換と書いていますが正確にはオムツの中にあるパットの交換といった方が正確で、尿がしみ込んだり、便(大便)が乗ったり付いたりしているパットを交換すればオムツ交換自体は済むのです。
後は入所者のお尻に付着している排泄物を容器に入れたお湯をチョロチョロとかけながら、手袋をした手で擦り落とし、最後に専用の布で拭き清めれば終わりという簡単なものなのです。
たまに、手間のかかる例としては下剤で便が大量、便のあとに尿をしたなどで拭き清める範囲が広くなったり、これらによってパットから漏れてズボンとオムツ本体を交換する必要があるということもありましたが、これはたまにしかないことで慣れてしまえば流れ作業のように簡単に行なうことできます。
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実際、排泄介助はこのようなものであるため、個人的にこの排泄介助を介護職の3Kの象徴やイメージとして持つというのは不正解だと私は思います。先ほども話した通り排泄介助の際に汚れるといったことはないうえ、エプロンと手袋でほぼ汚れることが無いからです。
では、全く汚れる可能性はないのかというと実はそうでもありません。「不正解」に対しての「正解」もありますし、私が言いたいのは汚れたり3Kとなったりということが「排泄介助」ではほぼないということです。
排泄介助は本人がトイレに行きたいといった時のほか、食事後など決まった時間にすべての入所者に対して一斉に行われます。ベッドで寝たきりの人はその人の部屋に行ってベッド上でパットの交換をし、歩くことができて共有スペースにいる人は一度トイレへ誘導してパットの確認・交換を行なうのです。
そのため、この排泄介助の時間はこの排泄に対応するための備品が充実しています。お湯や拭き清めるための布、交換のためのパットなどが備品室からトイレに出してあるのです。
つまり、一番の問題は「排泄介助」以外での排泄なのです。
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これは私が実際に体験したことなのですが、ある日認知症の入所者が笑顔で私に向かって歩み寄ってきました。
「なんだ、ここにいたのか」
この入所者はそう言いながら私に向かって両手を差し出してきました。何度か同じように声をかけられることが何度かあったので、私はいつも通りその手を取るために何の疑いもなく両手を差し出します。
「いますよ。もうすぐお昼御飯ですから席に座りましょうか・・・」
私が話していると、その人は私の両手を掴んできました。しかし、私はその時になってようやくその臭いに気が付いたのです。見ればその人の手は茶色く汚れており、独特な臭いを放っています。
「○○さんが便いじりしちゃってます」
私はその状態で周りの職員に聞こえるように声を出しました。この状態で私にやれるのはこれ以上の汚染を防ぐことであり、ほかの職員が排泄介助用のエプロンと手袋をし、なおかつトイレにパットやお湯、拭き清めるための布を用意する時間を稼ぐことです。
このような場合、放っておくと本人には手が汚れているという自覚がないので、そのままほかの入所者に触れてしまったり、壁やこれから食事をするはずのテーブルに便を塗ってしまったりする可能性があるのです。
その後完全防備をした職員にその人を任せ、私は手を洗い始めました。すでに分かっているかと思いますが、私がその人と手を触れたとき手袋をしていませんでした。すでに排泄介助の時間は終わって昼食の準備に移っていたからです。
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やはり認知症の人にはこのようなことが多くありました。便を持ったまま施設内を歩き回ったり、オムツの中にある便を触って汚れている手という自覚がないままいつも通り平然としているのです。そのほかにもテーブルに何か茶色いのがあると思ったらそれが便だったり、手についた便を泥だと思って服で拭いたりということが普通にあるのです。
また、この話を聞いてトイレに備品を常備できないのかと思う人もいるかもしれません。しかし実際できないのです。常において置こうものなら認知症の入所者がその備品をどこかへもっていってしまうので鍵のかかる備品室に毎回片付けるしかないのです。
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最後に話はそれますが施設へと面会へ来られたご家族の方へお願い、というより面会後はしっかりと手を洗っていた方がいいことをお伝えしておきます。実際このようなことがあったすぐ後にご家族が面会に来るということがありました。面会前に手を洗って便を洗い流すということをしてはいるのですが、爪の間に入り込んだ便をきれい洗い流すということまではできませんでした。
面会では久しぶりに会うということもあり、お互い手を取り合ったり、綺麗な柄の服ということで入所者が家族の服に触れるなどしていましたが、ついさっきまで便を握りしめ、爪の間にはいまだに便が付いたままなのです。
さすがに「さっきまで便を握っていたので・・・」などとこちらからは言える雰囲気ではありません。認知症のご家族の方はそのようなことがあるということも理解したうえで面会後はしっかりと手を洗っていただきたいと思います。
また、こういった認知症の入所者は自分とは関係のない赤の他人の家族でも気軽に接してきて触れ合おうとしてくることがあるので、接触されるときは注意が必要です。
そしてこのようなことがあった直後ではありませんが、入所者のお孫さんを連れてきたご家族もいます。もしも、子供を祖父母に見せに行ったときに頭を撫でたりということがあった場合にはしっかりとお風呂に入った方がいいかもしれません。