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少女との邂逅

「―――さあ、殲滅(パーティー)を始めよう」


魔法を幾つも連続的に発動させているリューが宣言する。


周りを見回すと、見ていたよりも多くの『ゴ・ウルフ』が睨み付け地面に切られたり凪払われていたりして血を流し絶命している。


愚かな。

『ゴ・ウルフ』の血液は同族を呼び寄せる。それを理解していなかった事には驚きと呆れを隠せない。


『ガルァ!!』

「遅いな」


突進してくる『ゴ・ウルフ』を横に飛んで避け、地面を転がりながら魔法を発動させる。


『キャイン!?』

「発想力が足りないよ」


次の瞬間狼は転び立つことが出来なくなる。


リューが行ったことは単純。鏡面氷歩(ミラースケーティング)の対象を狼にすることで地面を滑らせているのだ。

『ゴ・ウルフ』の爪では滑る地面に上手く突き立てる事はできず、俺は起き上がる事が容易にできる。


『キャイン!?』

『キャン!?』

「……バカだな」


滑って立てない『ゴ・ウルフ』を助けに行った他の『ゴ・ウルフ』を無表情で不可能の衝撃が吹き飛ばす。


「鈍い」


すぐさま鏡面氷歩で滑るように移動しながら白い光と共にすれ違いざまに両断する。


そしてその肉体を掴み『ゴ・ウルフ』に投げつけ視界を覆いその隙に接近し肉体ごと刺し穿つ。


「おい!誰だか知らんが助けてくれ!」

「自分で何とかしろ」


剣士の呼び掛けをリューは当然のように拒否する。そして剣士たちがどれだけ助けを請いてもリューは振り返らず屍の山を築いていく。


リューの目的は『ゴ・ウルフの殲滅』。『冒険者を助ける』とは言われていない。それ以外のことはできたら程度でしかない。

そしてリューは冒険者を嫌悪している。嬉々として攻撃に巻き込む。そんな相手に助けを願ったところで意味がないのだ。


『ワン!ワン!!』


数多の血で身体の殆どを濡らし始めた頃、一匹の『ゴ・ウルフ』が吠えたと同時に慌てた様子で一斉に森の中に帰っていく。


自分達が相手をしているのは森の守護者にして支配者の唯一の眷属にして代行者であることに『ゴ・ウルフ』たちは気がついた。そして、それを相手にすると言うことがどれだけ恐ろしい事かも理解してしまった。


彼ら、彼女らには逃げると言う選択肢しか存在しなかったのだ。


「よし、勝った!」

「……一掃せよ」


隣で喜ぶ槍使いをよそにリューは眼を瞑り幾つもの衝撃を森に向けて放ち続ける。


何としてでも殲滅しなければならない。

リューにとって殲滅することや命を奪うことに何の枷も存在しない。それこそが、リューが生まれもった資質である。


故に、逃がすこともなく魔法を同時に使用してまで砲撃のように不可視の衝撃を撃ちまくる。


「……終わったな」


天の眼(スカイアイ)を解除した目を開け自分に付与していた魔法を解除する。


そして状況を確認したリューは崖の下に戻ろうとする。

殲滅を完了したリューにここに留まる理由はない。さっさと湖に戻って釣りをするつもりである。


「ねぇ、しっかりして!」

「おい、大丈夫か!?」

「頼む!生きていてくれ!」


崖から飛び降りる直前、涙声が背後から聞こえ振り返る。


剣士、槍使い、弓使いが取り囲み傷ついた少女の傷の手当てをしていたのだ。


無理だ。リューは確信を持って心の中で呟いた。

少女の肩の傷は深く、重要な血管を切っている。

体内の血液は少なく元から白かったであろう肌が白くなっている。

意識も朦朧としており呼吸もひどく不規則。これでは空気を十全に吸うことは出来ていない。


すぐに死んでしまう命。それを助ける義理はない。


だが、


「……!」


少女は諦めていなかった。


その瞳には力強い意思を宿し壊れかけの杖を全身の力を振り絞り痛みに耐えていた。


リューには冒険者を助ける義理はない。


だから、これはただの気紛れに過ぎない。


「退け」

「な、何をするんで」

「邪魔をするな。……殺すぞ」


襟を掴んで投げた弓使いからの抗議を一睨みで封じ込める剣士と槍使いに向けた後少女の服を剥ぐと薄い胸に手を突き魔力を流し始める。


魔力の精製する力は殆ど枯渇気味。生命力も傷と共に外に流出している。心臓の鼓動も少なく死にかけが相応しい。

四属性全てを使い適切な治療をしなければ命を助ける事は不可能だろう。


リューがいなければ、の話しなるが。


「癒えろ。治せ。……救え」


短い単語を呟いた瞬間魔法陣と共に少女の身体は白い光に包み込まれる。


治癒系魔法、その最高。無属性魔法『ワイズマン・ストーン』である。その効果は……ありとあらゆる『害』の治癒。全ての『害』に対する絶対的な癒しの光である。

だが、普通の人間には扱えない。この魔法には呪文が存在しないのだ(・・・・・・・・・・)

これを使うには純粋かつ精密な魔力操作の技術が求められるのだが、普通の人間はそれを行うだけの技術は持ち合わせていない。

人間は誰でも魔法を使えるように呪文を開発した。これによって、多くの人が魔法を使えるようになった代わりに魔力操作の技術が衰退していった。

だが、竜種やリューはそれを行うだけの精密な魔力操作技術を保有している。


ならば、使わない手はない。


「……完了」


数分後、傷を完全に癒し終えたリューは胸から手を離し馬車の中に身を隠す。


リュー自身自分の身体に使ったことはあれど他者の身体に使ったことは一切無いのだ。そのため、それを見守る事にしたのだ。


「君はいったい誰なんだい?」


馬車の中に置かれていた木箱の中を物色していると槍使いが馬車の中に入ってくる。


その身体には傷が幾つもついており革鎧にも引っ掻き傷が幾つも残っている。だが、そこまで大きな傷はないようだ。


「森の守護者にして支配者。その代行者だよ」


槍使いの質問に端的に答えると木箱の中から一枚の布を取り出す。


白い竜と黒い竜が入り交じるような布だが、服のように切り込まれている。

肌触りはとても良いため、とても良いものだと予想できる。


「あ、それはこの先の領主様に渡す代物だよ。まぁ、渡す商人はいなくなってしまったけどね」

「……そうか」


御者であり商人だった男の死体はどこにもない。最初に襲われたとき、深い傷を負って死んでしまったため森の中に埋葬したらしい。


森に不法に棄てる事をせず森の養分に変えてくれたため危害を加えない。


以前、森に死体を捨てた商人たちは皆殺しにして捨てた死体と共に地面に埋めている。


「それと、君は服を着た方が良いよ?」

「必要性を感じないのだが」

「まあまあ、取り敢えず身体を洗ってきて」

「……分かった」


槍使いの押しに諦めるように馬車を出てこの近くにある泉に向かう。


リューとしては服を着ても着なくてもそこまで大差はないのだが、服を着ると言うことに興味を持ったからである。


「……仲良くなるつもりはないのだがな」


他者と話していると気分が高揚する事に違和感を感じながら湖に頭から入るのだった。

服を着る、と言うありふれた概念を楽しみにしながら。

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