第十話
気まずい沈黙だけがが流れていく。
私は軽く息を吸うと、気持ちを切り替えるためにパンッと手をたたいた。
「それじゃあ、ダンジョンに向かいながら自己紹介でもしましょうか!
私はリア。現在のランクはCで、一応ギルドランクは現在トップだよ。わからないことがあったら聞いてね。」
自己紹介を終えて、二人もするようにと目で訴えると、竜人族の方が口を開いた。
「俺はカイン。で、こっちのエルフがレイン。まだ二人とも登録したばっかだからランクはFだけど、VRMMOはいくつかやってる。やったことがないゲームはチュートリアルを受けるべきだってレインがうるさいから一応頼んだ。」
とても威圧的な自己紹介だった。
多分これNPCだと思われてるんだろうなぁ。言葉をどれだけ理解できるか試されてるのかな…。
まあいいや。
「そうだね、チュートリアルは大事…なんだけど、F?Eじゃなくて?適性試験は受けてないの?」
「待ち時間凄かったから先にチュートリアルをやろうかなって。ダメなのか?」
「い、いやぁ駄目じゃないけど前例無かったからね。驚いただけ。」
「そうか」
「良ければ私がついでに見てあげよっか?」
「いいのか?」というカインの問いに私は「うん」と返した。
それくらいいいよね。ミラさん達も大変そうだし。
「というか二人共凄いねぇ。竜人族もエルフもレア中のレアじゃん。特に竜人族なんて10憶分の1の確率だよ?」
私は緊張をほぐすためにフランクに話しかけた。
だって怖いもん。沈黙って怖いよね?
それに対してカインは嬉しそうに言葉を返す。
「それは俺も驚いた。事前情報に無かった種族だし種族の恩恵のおかげか攻撃のステータスが高いんだよ。あと俺もレインもスキルに飛翔があって飛べるっぽいんだ。これぞファンタジーって感じ!」
「おい、カイン。あまり情報を話すな。」
「いいだろ?別に減るモノでもねえし、俺たちは教えてもらう立場なんだぜ?」
どうやらレインは秘密主義のようだね。
そうしている間にダンジョンの入口に到着した。
「そうだね。私はどっちでもいいけど、飛べるならその練習もしようか。」
私の提案に「お!いいのか!?」と、カインが反応する。
かなり友好的だしもう怖さはない。緊張してたのかな?
「いいよ。私も飛べるし教えてあげる。
それから、パーティー登録をしようか。私のスキルに、パーティーメンバーの能力向上があるの。」
「へぇー。すげぇなそれは。どれくらい上がるんだ?」
「すべての能力値が、それぞれ1.5倍になるよ。本来は教えない方がいいんだけど、さっきちゃんと教えてくれたから特別ね。」
そういいながらパーティー登録を済ませ、私は収納魔法の中からメタルブーツと鋼の神器(拳)を取り出して装備した。
メタルブーツには[蹴撃攻撃力アップ]と敏捷1.05倍、鋼の神器(拳)は39階層でドロップしたもので、拳術スキルと力1.3倍が付与されていた。
余談だけど、39階層まではモンスターと戦わないことを想定して、今の私の脚では2日かかる。
そしてカインには神樹の剣を、レインには神樹の杖を貸した。初期装備よりも断然強いから効率も上がるんだよね。
神樹の剣は、自然の魔力を帯びていて攻撃力が格段に上がる。神樹の杖は、魔法の威力や範囲が大きくなり、魔力も節約できる代物だ。
カインとレインがそれを受け取ったのを確認して、私は先に進んだ。
だけどまだ入らない。気になることがあるからね。
「ずっと気になってたんだけどさ、レインは何をずっと考えてるの?」
「あ、いや、何でもない、です、よ。」
突然指摘され驚いたのか、レインはしどろもどろに答える。
「何でもないわけないでしょ。ずっと様子がおかしいし、中にはモンスターがいるんだからそんなんじゃ入るのは許可出来ないよ?」
「…いや、その、」
「なに?」
「……せっかく種族がついたんだし、話し方とかなりきった方がいいのかなぁ?って…」
そのレインの発言に私はそうだがカインも言葉を失ったようで黙り込んだ。
そして噴き出す。
うん。ごめんね、これは面白い。あとギャップでかわいいよ。
「え、レインずっとそんなこと考えてたのか?笑」
「そんなこととか言うなよ!いいよなぁお前は素で喋っても違和感なくて!」
笑われたレインは真っ赤だ。
「別にリアルのお前を知ってるのは俺だけなんだしやりたいようにやってもいいだろ笑」
違うよ。多分レインはカインの前だからこそ突然変えるのが恥ずかしんだと思うよ。
仕方ない。私があざとく悪乗りをしてやるか。
「何だにゃ?わたしもにゃーって言った方がいいかにゃ?」
そう言ったとき、二人だけでなく周りもシンと静まり返った。
滑ったかな?いや、でも周りの人の反応にしらけている様子はないし、大丈夫かもしれない。
「だめ、かにゃ?」
もちろん上目遣いだよ。
周りは死んでいた。完全に私の勝ちだ。
私ちゃんと知ってるんだよ。猫耳萌えってやつを。
「ま、まぁいいんじゃないでしょうか。私は反対しませんよ。」
「お前敬語キャラになりたかったのか?それならそうと言えばいいのに」
突然敬語キャラになったレインにカインがツッコミを入れる。
「まあまあ、きっと言うのが恥ずかしかったんだにゃ。エルフの敬語はしっくりくるからいいことにゃ。」
私はやんわりレインをフォローする。
「お前…それどうにかなんねえの?違和感の塊なんだが…」
「いやにゃ。このキャラで行くって今決まったにゃ。」
「でも…」
「文句言うなら教えてえてやらにゃあにゃ。」
私が引かないのを悟ったのか、カインは「わかったよ…」と言って諦めたので、私は気を取り直して中へと入った。
後に私達が四強と呼ばれるのは、まだ少し先の話である。
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