聖夜の夜に
今日はクリスマス、世間ではカップルがデートに繰り出し、その愛を確かめる日。
そんな日に私は、1人となったこの部屋で彼女へと贈る予定だったクリスマスプレゼントを眺めながら、ボンヤリとしていた。
「気晴らしにカラオケにでも行くか…」
いつまでもこうしてはいられないと思い、そそくさと服を着替え外に出た。
少し歩いていると、何組かのカップルを見かけた。
みんな幸せそうな顔をしていて、他愛もない話をしながら歩いている。
その光景を見ていると何故か心が締め付けられるような感覚がした。
そうこうしているうちに行きつけのカラオケ屋についた。
ここはいつも客が少なく、他人に気を使う必要が無いので重宝している。潰れてしまわないか心配になるが。
いつものように注文し、店員に部屋の番号を案内された。
部屋へ向かう途中、何組かカップルを見かけたが、気にはならない人数だ。
部屋に入り、上着を脱いでハンガーに掛けた。
「さて、何を歌おうかな」
何曲か歌ったあと、お気に入りの曲を選ぶ。
この曲は私が小さい頃に発売され、今でも多くの人が聴いている名曲だ。何十年経とうと色褪せないだろう。
カラオケに来れば毎回この曲を歌っている。
いつものように、その曲を歌いだした。
気持ちよく歌っていると、その曲のサビに入った。
その瞬間、彼女との思い出が脳裏をよぎった。
ちょっとしたふざけあい、そしてそれを笑顔で返してくれる「君」。
その笑顔だけで日常で尖った心を丸くすることができた。
私にとっての「君」の存在の大きさや大切さ、そして「君」の声
全てが走馬灯のようによぎった。
歌い終わると、私の目は涙で濡れていた。
私はその涙に任せ、しばらく休むことにした。
どれぐらい経ったか分からないが、涙が引いた頃には時間切れを告げる内線電話の音が響いていた。
「…帰るか」
会計を済ませ、私は外に出ると軽く伸びをした。
すでに日付は変わり、1人きりのクリスマスは終わっていた。
聖夜の夜に大の大人が1人でカラオケなんてテンプレのような悲しい話だが、私にはそれで十分だった。
私は夜風に震えながら、家路についた。
さようなら、「君」。
私は「君」の声を抱いて、歩いて行く。