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三話 吸血鬼少女と朝食

沢山のブックマーク、ありがとうございます!

「そんな…… わるいですよ」

「駄目だ、安静にしておいてくれ」


 簡単な自己紹介をした後、俺は再びシルヴィを布団に寝かせた。

 彼女は大丈夫だと言っていたが、押し問答をしているとやがては折れた。


 昨日の夜まであんなに血が出ていたのだ。例え傷が塞がったとしても、失った血液はそう簡単に戻るわけではない。


 あと数日間くらい横になっていないと、本調子には戻れないだろう。


 そんなことを考えながらソファに座っていると、何か言いたげな顔でシルヴィがこちらを見ているのに気がついた。

 そうか、確かに近くに人がいたら、休めるものも、休めないだろう。


「何かあったら言ってくれ」そう言って部屋から出ようとする。

 

 すると……

 

 ぐー、と。

 可愛らしい音が鳴った。


 音の方を見ると、シルヴィが顔を耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いている姿があった。

 なるほど、じっと見ていたのは、腹が減っていたのを言うべきか否か迷っていたのか。


 遠慮しなくても良いのに。

 

「何か食べるか」

「じゃ、じゃあ、私が作ります!」


 そう声をかけると、シルヴィはがばっと布団から身を起こしてそう言った。


 待ち構えていたような勢いだった。

 自分も何かしたいという意志の現れなのだろうか。


 しかし、それには了承できない。


「駄目だ。今日くらい安静にしといてくれ」


「で、でも…… 料理なら私もできますし、それに…… こんなにして貰ってばかりで、悪いです」


「何言ってるんだよ、せっかく起きたのに、またぶっ倒れられたら困るから言ってるんだ。第一、キッチンの場所すら分からないだろ? おとなしく待っていてくれ」


 それに、と俺は話を続ける。


「君は俺の『復讐』に手伝ってくれているに過ぎないんだから、別に気を遣わなくても良いんだよ」


「……そうですか」


 少しキツい物言いになってしまったかもしれない。


 しかし、心配しているから、などと言ったら、シルヴィは無理矢理にでも何か自分の仕事を探そうとするはずだろう。


 今日ばかりは、それは避けたかった。


「分かりました、じゃあ、お言葉に甘えます」


 その作戦が成功したのかどうかは分からないが、今度もシルヴィは折れてくれた。

 自分の体力的に考えても厳しいと思ったのかもしれない。


「じゃあ、何かあったら呼んでくれ」


 さっきも同じようなこと言ったな、と思いながら部屋のドアノブに手をかける。


 思えば俺も、昨日の夜家に帰ってきてから何も食べていない。

 朝食のこともいつの間にか意識から抜けていた。


 何の食材があっただろうか、とキッチンの棚の中身を思い出す。

 パンやら、野菜やら、肉やら。

 朝食に使えそうなものは一通りそろっていたはずだ―― と、そこまで思い出して、気がついた。


「なぁ、吸血鬼って何食べるんだ?」


 御伽噺から考えれば、吸血鬼の主食は人間の血液なのだろうが、実際は何を食べるのだろうか。


 話によると、吸血鬼が血を吸うのは戦闘中に魔力の補給がしたくなったとき程度のもので、普段は何を食べているのかよく分からない、と聞いたことがある。


 血を吸うことによって能力を奪い取ったり、身体を強化したりはできるが、身体に必要な栄養源としての役割は、血液では到底まかなえない。

 騎士団内で吸血鬼について研究している奴が、そんなことを言っていた。


「ルネスさんと同じもので大丈夫です。基本的に言って、人と食べているものは大差ないはずですから」


 案の定というか、以外というか、シルヴィから返ってきたのはそんな答えだった。

 わかった、そう返して扉を閉める。


 さて、何を作ろうか。

 

   ◇◆◇


 朝ご飯、とはいうものの、窓から見える実際の時間は昼に近いように見えた。


 つまりは丸一日近く何も食べていないということだ。

 そりゃあ、腹も減って然りだろう。


 作るものは、もう決めていた。

 作るのに時間がかからなくて、あまり調理が手間ではなく、腹もふくれるような食べ物。


 トマトソースのパスタでも作ろう。

 丁度、吸血鬼がいることだし、赤色が合うことだろう。

 赤いから吸血鬼っぽいと思うのも、それはそれで短絡的なのだろうが。


 鍋に水を入れ、火にかける。

 湯が沸くまでの間に、玉葱を刻み、トマトを切る。


 良い感じに沸騰してきたところに塩を入れ、乾燥したパスタを二人分、投入した。


 みじん切りの玉葱を平鍋に入れて、トマトと共に火にかける。

 ぐつぐつという音と一緒に、だんだんと玉葱の色が飴色に変わっていった。


 塩と胡椒で味をつけ、ついでに以前買ったベーコンも刻んで入れておく。


 そうこうしているうちにパスタが茹で上がったらしい。一本とって口に含んでみると、少し芯の残った、丁度良い堅さになっていた。


 まずは器にパスタを盛り、その上に出来上がったソースをかける。


 見た目もそこそこに、わずか十数分で一品の料理が完成した。

 これがパスタの良いところである。


 二つの皿を盆に置き、鉄製のフォークを備えておく。


 今すぐ食べたいという気持ちを抑え、シルヴィの待つ部屋へと向かった。


  ◇◆◇


「わぁ……」


 感動したような声が、耳に入ってきてこそばゆかった。


 ベッドとソファの間に机を用意して、そこに二つの皿を置く。


 シルヴィはベッドの端に、俺はソファにそれぞれ向かい合って座るような形になった。

 召し上がれ、といって、フォークを渡す。

 そこから先の勢いはすごかった。


「いただきます!」


 叫ぶように言うや否や、シルヴィは凄まじい速度でパスタを口へと運び始める。

 一口を飲み込んでいる途中に、もう一口を口の中に放り込んでいるのではないか。

 そう思えるほどの速さで、口へと掻き込むシルヴィを見ながら、俺もまけじとフォークを動かすのだったが……


「ふぃ…… 美味しかった……」


 結局、俺が半分食べきったくらいのところで、シルヴィは全てを喰らい尽くしていた。少し多めに作ったつもりだったのだが、この分だと、3人前作っても良かったかもしれない。


「すごく美味しいです! これ、なんていう料理ですか!?」

「トマトソースのパスタだよ、ちなみに俺が作れる最速の料理だ」

「こ、今度作り方を教えてください!」

「わかったよ、あと……」


 先ほどまでの冷然とした感じとは違う、見た目相応の少女のようなシルヴィの様子に、ほほえましいものを感じながら、俺は近くにあった紙を、シルヴィ口元に持って行く。


「口周り、汚れてるぞ」

「――っ! じ、自分で拭きます!」


 顔を真っ赤にしながら口元を拭う彼女に、また今度作ろうと、俺はそう決心した。

 

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