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十三話 吸血鬼少女と服選び(中編)



あと、活動報告に今後の予定を書いたので、できればご覧になってください。

「シルヴィちゃん、だったっけ?」

「は? 何言って……?」


 背後から今し方部屋の中に消えていったエルフィの声が聞こえた。


 いったい何をしたいんだこいつは、と呆れながら振りかえって見るも、そこにはエルフィはいない。


「どっから聞こえてんだ?」


 到底ボロ小屋の中にあるとは思えないこの設備と部屋の数々。

 俺はこの仕組みを知っていた。


 これはエルフィの使う空間魔法で、この場所と別の場所とを無理矢理つなげているのだ。ワープホールを扉につなげていると考えれば、イメージがつきやすいかもしれない。


 だから、ここに音が聞こえるなんてこと、あり得ないはずなのに。


「ええ、はい……」


 少し遅れて、戸惑うようなシルヴィの声が聞こえた。


「だからいったい……」


 何なんだ。その言葉が口からでるまえに、俺の疑問は氷解することになった。

 先ほどエルフィとシルヴィが入っていった扉の、その前。


 小さな額のようなものが飾られている、その場所に、向こうの部屋にいるはずのシルヴィとエルフィが映っていたのだ。




「ふうん、シルヴィ、シルヴィちゃん、ね」


 何が楽しいのか分からないのか、にこにこと笑った様子でエルフィは言う。 そんな彼女の様子を、シルヴィは警戒するような面持ちで眺めていた。


「そんなに怖がらないでよ。何も今すぐ取って食おうって訳じゃない」

「……それは」

「どういう意味だって聞きたいのかい? ……ちょっとばかし複雑なんだけどね。ーーじゃあ、ボクの質問に正直に答えたら、いろいろ話してあげようかな」


 謳うように、騙るように。

 ゆらゆらとした口調でエルフィはそう言った。


「質問、ですか」

「うん。質問。そのあとにちゃんと服も見せてあげるよー。でも、今はまだだ」


 そしてエルフィは続ける。

 俺が今までに一度も聞いたことのない、ぞっとするほどに冷たい声で。


「あいにくだけど、ボクは君のこと、Ⅰミリも信用しちゃいないんだ」


「ーーッ」


 心臓を鷲づかみにされたかのように全身がこわばり、冷たい汗がさっと全身を覆った。


 長いつきあいをしてきた俺たちだったが、彼女に恐怖したのはこれが初めてかもしれない。


「いやぁ、信用しろって言う方が無理な話なんだけどね。ボクは慣れているけど、家の前に倒れている女の子がいたら助ける前に疑うよ? 普通。そこらに関して言えば、ルネスくんの方に問題はある。ボクの影響でそうなってるなら、ボクにも問題があったのかな?」


 そう言ってエルフィはちらりとこちらを見る。

 やはりこの件の仕掛け人は彼女のようだった。


 シルヴィから何を聞き出したいのか。

 それとも俺に何かを言いたいのか。


 ただ、彼女は何か彼女なりに思うところがあるらしい。


「ま、そんなことはこれからの質問には余り関係ないよ。だって、ボクが君に「どうして家の前に倒れていたの?」って聞いたって仕方ないだろ? 聞いたからってみたされるのは、ボクの知識欲だけだ」


「じゃあ、どんな質問なんですか?」


「まぁ急かさないでくれ給えよ。君のこともあって、ボクは今、体調が芳しくないんだ」


「その様子で言われても、説得力に欠けますよ」


「……これは痛いところを突かれてしまったかな」


 よく分からないステップによく分からない手振りを加えながら言うエルフィに、シルヴィから鋭い指摘が入った。

 その後の反応から見るに、どうやら彼女にもその自覚はあったらしい。


「ま、そろそろ疲れてきたのは本当だからさ、ちょっと椅子にでも座ろうか」



「……わかりました」


 じゃあそんなに無駄に動くんじゃない。


 と言いたかったが、俺の言葉が向こうに届くわけでもないので、思うだけにとどめておいた。


「ボクが君に聞きたい質問は三つだけだよ。それ以上でも、それ以下でも、ボクは君を知りすぎてはいけないし、知らなすぎてはいけない」


「……どういう意味ですか、それ?」


「じゃあ、一つ目の質問だ」


 シルヴィの質問をあからさまに無視して、エルフィは口を開いた。


「君はどうして、ルネスくんに恩を感じているんだい?」


「「は……?」」


 画面の外と中の声が、見事に重なる。


 エルフィの意図が分からない。

 どうして、そんなことを聞かなくてはならないのか。


 ただ、そんな俺たちの心を見透かしたかのように彼女は続けた。


「うんうん、良いねその反応。でも、それも不思議なのさ。だって、常識的に考えても、『吸血鬼が人間に感謝をする』なんてこと、あり得ないんだよ」


――あり得ない?


 エルフィの言葉は、しかしにわかには信じがたい言葉だった。


 だって、現にこうやってシルヴィは俺に向かって感謝の気持ちを示してきている。


「君だって心当たりがないわけじゃないだろう? 運が悪ければ、ルネス君は吸血鬼を助けたばっかりに、その助けた相手に食い殺されてしまう可能性だってあった。――いや、むしろそっちの方がほとんどなんだよ?」


「そんなことッ! ……私は、しません」


「――そうだ。君はしてない。でも、他の吸血鬼はきっとする。だからボクは心配でたまらないんだ」


 いつか君が、ルネス君を殺すんじゃないのか、って。


 ハッとしたかのような表情で、最初は強く、しかし後になるにつれて弱々しくなっていくシルヴィの声。

 恐らく彼女には心当たりがあるのだろう。


 俺たちの知らない、吸血鬼の世界での事件を。


「……ま、いいや。次の質問に移ろう」


 もう十分だ、とでも言いたげにエルフィは続ける。

 まだシルヴィは一言しか発していないのに。

 その言葉には、確信めいた何かがあった。


「二つ目だ。確かに君はルネス・クーレライトという男に恩義を感じている。それは認めよう。でもね、それなら一体全体、あの()()()()()()()()はなんだい?」


「気持ちの…… 悪い……?」


 呆然とした様子で、シルヴィは聞き返す。

 ただ、それに対して、エルフィは大きく頷いた。


「そうさ。破綻した関係と言っても良い。どちらにせよ、ボクは端から見ていて気持ち悪かったよ。こればっかりは、ルネス君にも聞かなくちゃいけないんだけどね。まずは君に、と思ってさ」


 嘘だ。

 この会話は俺に聞かせるためのもので、そしてエルフィは、シルヴィから何かを聞き出そうとしている。


 少しずつ、この中継の狙いが分かってきた。


「出会って数日程度の君たちが、どうして互いに信頼し合っているのか。『命を助けられた』なんていうチープな理由じゃ、納得できないんだよ。もしそれが恋愛感情だったとしても、割に合わない」


 エルフィの話は、まだ続く。

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