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十一話 吸血鬼少女と魔法使い

「俺と一緒に服を買いに行こう」


 満を持して、俺はシルヴィにそう言った。

 いつまでも妹の服のままというのは、シルヴィとしても気疲れするものだろう。

 第一、妹の子どもっぽいデザインの服が、大人びた雰囲気のあるシルヴィにに合っているとはどうしても思えなかった。


 しかしーー


「……ルネスさん、お気持ちはありがたいんですが、私はーー あまり外に出ない方がいいと思うんです」


 ーーほら、私って、《吸血鬼》じゃないですか。


 少し表情を暗くして、シルヴィはそう言う。

 その言葉に乗った感情は、今までの『遠慮』とは少し違うものだった。


 服を買うということになれば、昨日のようにフードを被ったままでいるわけにはいけない。

 そうなると、その美しい銀髪は否応なく目立ってしまうだろう。


 吸血鬼と歩いているところを見られれば、俺に迷惑がかかってしまう。


 シルヴィはそれを心配しているのだ。

 ただ。


「甘いな、シルヴィ。俺だってそのくらいの考えをある」


 チッチッチ、と指先を振って、俺は続けた。

 吸血鬼と見ただけで切り掛かってくる集団もあるのだ。シルヴィがこの街で白い目で見られるであろうこと、そのリスクは十分に承知していた。


 だが、それが全員でないことも、俺は知っているのだ。


「当てがあるんだよ。大丈夫、あいつなら安心できる」

「あいつ、とは……?」


 不思議そうな顔で聞いてくるシルヴィに、俺はとびっきりの笑顔で返してやった。


「会えばわかる! 会わなけりゃわからん!」


 その時の一層困惑した様子のシルヴィの表情は、実に愉快で、可愛らしいものだった。


 ◇◆◇


 俺の言うところの〝あいつ〟ーーエルフィンフォードと名乗り、自分で大賢者を語る、少し頭のネジの飛んだ女魔法使いのことを、口頭で伝えるのは、少しばかり骨の折れる行為だ。


 何せあの女には決まった姿ってものがない。いや、決まった姿はあるのだろうが、それは本人にしかわからないと言った方が正しいのか。


 まあ何にせよ、彼女が『出会うたびに見た目が変わる』特殊な人間であることは間違いないだろう。


 魔法なのか、それとも単にふざけているだけなのか。


 俺くらいの年齢の見た目になっていたこともあれば、シルヴィよりも若い姿で、俺の前に現れたこともある。


 そんな怪しい人物を、俺がなぜ信用し、当てにしているかといえば、それはひとえに、彼女がおれのししょうとも呼べる人物だからだ。


 七年前、当時極めて貧しかった俺達は、路地裏で悪漢どもに絡まれていた。

 そこにたまたま通りかかった彼女が、なぜか俺たちに

 勉強を教え、そして帝国騎士団に入団できるまでに鍛え上げてくれたのだった。


 ちなみになぜ助けてくれたのか、その理由は何度も聞いているのだが、はぐらかされていて未だその答えを知るには至っていない。


 ただ、それでも彼女は俺と妹にとっての恩人であり、師匠であることは間違いなかった。


「……なるほど。でも、やはりルネスさんが吸血鬼(わたし)といることを知ったら、驚くんじゃないでしょうか?」


 俺の話を聞いても、半信半疑といった様子でシルヴィは言った。


 まあ、無理のないことだ。

 第一俺も、あいつについてそこまで要領のいい説明ができたとは思えない。


 ただ、それでも俺が確信を持ってシルヴィを連れて行っても大丈夫だと思える、一つの理由があった。


「ーーま、これは見てもらった方が早いか」


 町外れにある一軒の古びた小屋。


 外からみれば廃墟にしか見えないその場所に、俺とシルヴィは到着した。


 万一にも髪の色を見られないように、シルヴィはフードのついたマントを深々と被っている。


 今までの話は、道中、歩きながらしていたものだった。


「ここだ」

「ここですか」


 シルヴィは神妙に相槌を打つ。


 どう反応すればわからないのも仕方ない。


 ただ、扉を開ければ全ての疑問は氷解する。


「エルフィー、開けるぞ」

「ルネスくん、以前も言ったが、ボクのことはエルフィンフォードと呼んでくれ」

「わっ!?」


 ドアノブに手をかけた瞬間、耳元で声が聞こえて、俺は慌ててその場から横に飛び退いた。


 耳元にかかった息の感触がおもった以上に気持ち悪い。


 ただ。


「あはははっ、いやぁ、君はいつ見てもいい反応をするね! ボクとしてもからかい甲斐があるよ」


 慌てて振り向く。

 後ろにいたのは、妹くらいの年齢から俺よりも年下に見える、つまりは16〜22歳くらいの少女だった。


 顔だけ見れば、以前あった時と同じ人物には見えない。ただ、一目見ただけでそれが誰かを理解させられる。


 それが、《魔法使い》エルフィンフォードという人物だった。


「ところでルネスくん? ここにいるかわいいお嬢さんは、君のお友達かな?」


 いきなり現れた会人物にすっかり怯んでいた様子のシルヴィは、その言葉でふっと我に帰ったのか、そそくさとこちらの方によってくる。


「あんまり怖がらせるなよ、エルフィ」

「それは悪かったね。……立ち話も何だし、一旦中に入ろうか」


 その時、彼女の視線がシルヴィのフードの中に注がれていたのを、俺は知る由もなかった。

次話は夕方ごろに投稿します

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