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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
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第7話 犬はゲス野郎に懐きません

「ちょっ! なんでそれを知ってるんだよ!」


 僕が、木下(きのした)は小柄な女の子を犬みたいに飼いたい願望を持つ変態だと言い放つと、無言を貫いていた木下が声を上げて立ち上がった。


「否定しないってことは認めてくれるんだね?」

「くっ……!」

 

 今までのクセなのか拳を振りかざすが、木下はそこで躊躇(ためら)う。


「……そうだよ。菱代(ひしよ)さんみたいな小さい子なら絶対に俺に逆らえないだろうから、そういう子をペットにしたいんだよ。クソっ! なんでお前が俺の趣味を知ってんだよ!」

「本人の前で趣味をバラすようなマネをしてごめん。でも、こうでもしないと信じてもらえないと思ったから」

「信じるって何をだよ! こんな目に合わされて、お前なんて信じられるか!」


 木下の言うことはもっともだ。でも、これだけじゃまだ足りない。僕はなぜか菱代さんの気持ちも知っている必要がある。


「さっきも謝ったけど、もう一度謝っておくね。恥ずかしい思いをさせてごめん」

「う、うん。ちょっとビックリしたけど大丈夫」

「ごめん。今度は菱代さんのことについて話さないといけないんだ」


 木下の前ではまだ真面目なクラス委員長として振舞(ふるま)う菱代さんには本当に申し訳ないことをする。でも、僕が魔王の力を持って強くてニューゲームを始めていることを信じてもらう方法がこれしか思い浮かばなかったんだ。


「実は、菱代さんって犬になりたい願望があるんだ。願望だけじゃなくて、今は実際に犬になってるんだけど。学校を休んでる木下くんは知らないでしょ?」

「は? 何言ってんだ?」


 木下はチラリと菱代さんを見るとツバをごくりと飲み込んで赤面する。犬姿(いぬすがた)の菱代さんを想像したようだ。一方、学校に犬になることを公言している菱代さんは全く動じていない。ただ、動じない理由は公言してるからではない。もっと大きな理由があることを僕は知っている。


「木下くんと菱代さんってすごく相性が良いと思わない? お互いの趣味が一致してる。こう言っちゃ悪いけど、変態同士が出会えるなんて運命だよ」

「…………」


 木下は僕を睨みつつも少しだけ口元が(ゆる)んでいる。運命の出会いというフレーズに心が躍っているのかもしれない。それに対して菱代さんは新しいご主人様候補の登場にピクリとも反応していない。


「でも、ダメだったんだ。僕は知ってる。僕は一度、魔王になり世界を支配した。その時に二人を引き合わせたけどダメだったんだ」

「おい。急に何言ってんだ? 魔王になって世界を支配した? 急に強くなったのは認めるけど夢でも見たんじゃねーか?」

「そうだよ烏丸(からすま)くん。急にどうしたの? 魔王になったって言うなら、今の烏丸くんは魔王なの?」


 二人から疑問の声が上がる。そりゃそうだ。僕はただ木下の性癖をバラしただけ。これだけならストーキングでもすれば掴める情報だ。


「僕の話はここからが本題だ。なんで二人の組み合わせがダメだったのか、それは、菱代さんは飼いたい人に飼われたいんじゃなくて、ドン引きしてる人に蔑みの目で見られたいからなんだ」

「うぅ……なんでそれを知ってるの」

「信じてもらえるかな? 僕は魔王の力を持ったまま二度目の人生をスタートさせてるんだ。今回は魔王になってないけど、みんなの性格や嗜好(しこう)は変わってない。だから二人の趣味を知ってるし、相性が良さそうで実はダメなことも知ってる」


 僕が強くてニューゲームを始めたことを信じてもらうにはこれしかない。二度目の人生だからこそ知っている情報を暴露する。相手を恥ずかしめることにもなるけど、こうして少しずつルートを変えるしか僕に未来はない。


「……じゃあ何か? お前が急に強くなったのは魔王の力とやらを持ってるからだって言うのか? だったら何で今までやり返さなかったんだよ! あの日突然、俺が積み上げてきたものを壊しやがって!」


 顔を真っ赤にして大声を上げる。だが、手は一切出してこない。僕に対する恐れなのか、自宅だから自重(じちょう)してるのかまではわからないけど。


「僕の人生が分岐したのがあの日なんだ。一度目の人生で、僕はあの日に魔王の力を手に入れた。そして、その力で好き放題にやってきたけど最後は勇者に倒されてしまったんだ。なんだか今の木下くんに似てない?」

「似てる? ふざけるな! お前は力を持ってる! 俺は全てを失った! 全然違うだろ!」


 言われてハッとした。僕と木下の境遇が似ているように感じて救おうとしたのはただの自己満足なのかもしれない。いや、元々は勇者に倒される運命を変えるための行動だ。僕自身、二度目の人生というアドバンテージを自分のために使うゲス野郎なのかもしれない。


「……そうだね。正直に言うよ。僕は一度目の魔王人生で木下くんを力付くで下僕にした。だから、今回は対等な友達になったら運命が変わると思ったんだ」

「はっ! そうかよ。力があるやつはいいよな。他人を自由に操れるんだから」


 かつて自分がそうだったことを忘れたのような言いぶりに腹が立ったけど、今の僕はその怒りをコントロールできた。


「ごめんね。突拍子のない話をして。でも、もし気が変わって僕と友達になってくれるなら、その時はよろしく」


 力関係が逆転した相手といきなり友達になれと言われても難しい。そんなことはわかっていた。一度目の魔王人生では、十日目くらいで木下、ゲスを下僕にしていたはず。それが今回はケンカ別れみたいな状態だ。ほんの少しルートが変わったはず。


「木下くん、さっき烏丸くんが言ってたことは本当よ。私、自分より弱い人間をペット扱いするようなゲスには懐かないから。犬にだって人を選ぶ権利はあるの」


 菱代さんは僕のカバンから首輪とリードを取り出すと、自ら首に付け始める。


「どう? 似合う? 私のこんな姿を見られて嬉しい? でも、私はあなたを喜ばせたくてこんな恰好をしたんじゃないの。気持ち悪い。変態だって蔑んでもらいたいの。そういう趣味を持ってる木下くんには無理だよね」


 そう言い残すと菱代さんは部屋をあとにした。犬スタイルを見られたらどうするんだ! 

 

「急にごめんね! また来るから!」


 僕は慌てて菱代さんのあとを追う。たまにどっちがご主人様かわからなくなる変態犬だけど、連れてきた意味はあったと思う。

 今日のことが長い目で見た時に運命の別れ道になってくれればそれでいい。


***


「ねえ、烏丸くん」

「うん?」


 どうにか菱代さんのバストアップを見られずに木下家をあとにした僕らは空中散歩で帰路についていた。


「一度目の魔王人生で私と木下くんと引き合わせたって言ってたじゃない? そんなに相性が悪かった?」

「ああ、うん。さっき菱代さんが言ってた不満をそのまま爆発させてたよ。あと、それ以上に困ったのがさ……」


 僕は菱代さんを優秀な秘書にしたかったのに、やることなすこと裏目に出て変態犬へと加速させてしまった。


「他の男に無理矢理飼われるところをご主人様に見られるのは、それはそれで興奮するとか言い出したんだ」

「あ♪ そのシチュエーションはちょっといいかも。ハァハァ」


 菱代さんの変態性は日を追うごとに加速していく。もしかしたらルート分岐はできないのかも。そんな不安に襲われる一日になってしまった。


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