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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
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第6話 魔王様の家庭訪問

 放課後、本人の要望通り首輪を付けた菱代(ひしよ)さんと木下(きのした)の家にやってきた。

 近所の人に目撃されたら木下家にも迷惑をお掛けするかもしれないと説得して、どうにか空中散歩でここまで来ることを許してもらえた。一体どっちが主人なのかわからない。


 元々の被害者は僕だったとはいえ、息子を壁ごと吹き飛ばした張本人の来訪を親御さんが許してくれるかどうか……暴力で支配しないことの難しさを感じつつインターホンを鳴らした。


「はい」

「突然すみません。木下くん……(しゅう)くんと同じくらいの烏丸です」

「……っ!?」


 ハッとした息遣いのあと、向こうから声は聞こえない。

 このまま無言で追い返されるのを覚悟したその時、ガチャリと玄関が開けられた。


「わざわざありがとね。さ、上がって。あら? 女の子のお友達も一緒なの?」


 出てきたのは魔王になった僕が瞬殺した木下の母親だった。

 ジムのインストラクターをしていたらしく、スラリと引き締まった体型をしている。今は引退して、母親オーラみたいなものが強い印象だ。


「クラス委員長の菱代です。おじゃまします」


 母親の登場にも動じずきちんと挨拶ができるのは委員長として気を張った生活を送ってきた賜物(たまもの)だろう。度が過ぎると心の中に変態が生まれるみたいだけど。


 木下の母親は終始笑顔だった。僕が木下にいじめられていたことや、息子を殴り飛ばしたことを知らないみたいに。


「あの、今回はすみませんでした」

「…………」


 あれだけ愛想の良い母親が何も答えない。きっと無理をして取り繕っているんだと察した。


「しゅうー? お友達が来たわよー」

 

 部屋の前に来ると母親が呼び掛ける。中から返事はない。


「まったくもう! いつも無視するんだから。勝手に開けて入っていいからね」

「え? いや、そういう訳には」

「……今までごめんね。うちの息子が。最初学校から連絡が来た時はビックリしたけど、因果応報だって思ってるの。その上、こうして会いに来てくれて」

 

 木下の母親は目を潤ませながら言葉を続ける。


「もしあのバカ息子を救えるとしたら烏丸くんしかいないと思うの。図々しいのは承知の上でお願いします」

「あの、そんな、頭を上げてください。僕だって全部を許せるわけじゃないけど、なんとなく衆くんの気持ちがわかるだけで」

「こんな風に言ってくれるお友達がいるなんて幸せ者ね。本当に勝手に入っていいから。遠慮しないで」


 木下の母親はそう言って立ち去ってしまった。

 それにしてもこの展開の違いには内心驚いた。木下は被害者であり、ちゃんと加害者であったことも認知されている。

 何があっても人殺しなんてしないけど、魔王の力を持つ中学生としての人生に少しずつ軌道修正されている感じがする。


「そうだ。菱代さん。これから木下くんと話す内容についてビックリしないでね?」

「? うん。わかった……けど、まさかエッチな話でもするの?」

「うーん……遠からず近からずかな」

「男子二人に卑猥(ひわい)な言葉で責められる……ハァハァッ!」


 こっちの犬は大丈夫だろう。問題は木下だ。ちゃんと受け入れてもらえるかな。

 

 コンコン

「ごめん。木下くん、入るよ?」


 親御さんの許可を得ているし、ノックをして一声掛けた。鍵がないのだからドアを開けて入るのは問題ないはず。そう自分に言い聞かせて部屋に入ると、ベッドに座る木下の姿があった。


「久しぶり。その、ケガは平気?」

「……」


 返事はない。そりゃそうだ。今まで弱い対象としてボコボコに殴ってきた相手から強烈な反撃を受け、クラス内で築いてきた恐怖政治を壊した相手に心配されてるんだから。


「木下くん、ごめんね。もっと早くに私が木下くんを止めてれば、普通にクラスに溶け込めたかもしれないのに」


 菱代さんの言葉にピクッと反応はするが返事はない。


「信じてもらえないかもしれないけど、僕は木下くんの気持ちがわかると思うんだ。強い力を持つと、その力で周りを支配して好き勝手したくなるよね」


 かつて魔王になった僕はそうだった。でも、力で支配して心が満たされるのは最初のうちだけ。だんだんと張り合いがなくなり、勇者に倒された時なんてホッとしたくらいだ。


「今から話すことは僕の妄想でもなく真実だ。菱代さん、木下くん。二人は恥ずかしい思いをするかもしれないけど、ちゃんと聞いてほしい」

「う、うん」


 さすがに木下の前だと「烏丸くんだけじゃなくて木下くんの目の前で辱めを受けるなんてハァハァ」と息を荒げない。今は真面目な中学生を装っているのもあるけど、僕にはあまり理解できない彼女なりの理由があるのを僕は知っている。


「木下くんってさ、自分より小さくて弱い女の子を飼いたいと思ってるんだよね」


 その瞬間、今まで黙って座り込んでいた木下が顔を真っ赤にして立ち上がった。

 さあ、腹を割って話そう。僕らは友達になるんだから。

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