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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
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第4話 犬の散歩で本気出す

 菱代(ひしよ)さんによる監視は学校内に止まらないらしい。


「先生からは学校だけでいいって言われてるんだけど、放課後は私の意志で一緒にいるってことでいいよね?」

「う、うん?」


 断る理由もないというか、魔王時代と同じルートを辿るなら何を言っても付いてきそうだから諦めた。

 問題は、今は中学生として生活している点だ。校内でも奇異の目で見られるのに、外で首輪を付けた女の子を連れ回してたら人生が詰む。

 はあ、せっかく魔王の力を持ってるのに生き辛いな。


「私ね、親や先生の期待に応えるために一生懸命努力してきたの。でも、こんな姿を町の人に見られたら人生終わりだよね。そのスリルを想像するだけで……ハァ……ハァ……たまらない」


 重い話でも始まるのかと思いきや変態のつぶやきだった。前みたいに魔界の浸食を受けている世界ならまだしも、今のところは僕らがこれまで過ごしてきた世界だからな。どうしたものか。


「菱代さんって高いところは平気? ジェットコースターとか」

「うーんと……実は乗ったことないんだよな。ほら、身長制限がさ……」

「あ、ごめん」

「いいの。気にしないで。それより急にどうしたの? まさか遊園地で多くの人の晒し者にハァハァッ!


 一体どんな人生を送ればこんな中学生になってしまうんだろう。まさか菱代さんは犬でニューゲームを始めたんじゃないだろうな?

 そんな風に考えてしまうくらい、魔王になったあの日以前とそれ以降で菱代さんの印象が違う。ルート分岐という意味ではやっぱりあの日が非常に大きな意味を持っている気がしてきた。


「ほら、学校内ではこうして犬を連れるのはギリ平気としても、やっぱり騒ぎを無理矢理押さえ込んでる状況な訳でしょ? 校外では目立つ格好は避けた方がいいと思うんだ」

「そう言って烏丸くんは私の監視から逃れるつもりなんでしょ? もし逃げても、私の鼻からは逃げられないワン」

「ははは、逃げるつもりなんてないよ。ただ、普通の散歩はやめておこうって話」


***


「と、飛んでる!?」

「飛ぶっていうより跳ぶかな。鳥みたいに一定の高さを保てないから、空気を足場にして追加でジャンプし続けてるんだ」


 魔力があれば飛ぶこともできるんだけど、それは今の僕にはできなかった。脚力は魔王の時と変わらないのでこうやって空を何度も蹴って空中歩行をしている。


「それにこれ、お姫様……」

「僕らの身長差だとおんぶは難しそうだったから……ごめんね」

「う、ううん。むしろこっちの方が……ごめんなさい。犬の分際で!」


 変態とばかり思っていた菱代さんの中にも乙女な部分は残っていたらしい。僕もちょっとだけ恥ずかしいけど、お姫様抱っこは好評だったみたいだ。

 あんまり高く跳ぶと飛行機にぶつかるかもしれないし、酸素も薄くなる。低くても騒ぎになる。人目に付かなそうな場所を選びつつ、適度な高さで散歩を続けるのは力をコントロールする良い訓練になった。


「こんなことができるなんて、烏丸(からすま)くんはスゴイね」

「うーん。自分の力と言っていいのか微妙なところだけど」


 前回の自分が魔界から与えられた力を最初から持っている。この力は魔界のものなのか、以前の自分からの贈り物なのか、改めて考えさせられる。

 魔王の体には何の負荷もペナルティもなく使えていたこの力も、今の中学生の体にはどう影響するかわからない。単純な俺TUEEEEEEで済ましていいのか不安もわいてきた。


「烏丸くん、どうしたの? 表情が暗いよ?」

「ううん。なんでもないよ。菱代さんは平気? 恐くない?」

「最初は恐かったけど、烏丸くんと一緒なら絶対に落ちないってわかったから大丈夫!」


 なんて(まぶ)しい笑顔なんだ。これで首輪とリードを付けたがる変態犬じゃなければ青春が始まりそうなのに……。


「ん? 菱代さん、捕まって。方向転換」


 人の気配には細心の注意を払っていたのに油断してしまった。

 左足で横に蹴りを入れて右折する。急かーブで菱代さんを落とさないようにギュッと抱きしめると、魔王の手で感じられなかった柔らかな温もりが伝わってきた。


「……私は平気だから、烏丸くんの行きたい方向に跳んで」


 頬を赤らめ、僕を信頼しきったキラキラの瞳で見つめられると何も言えなかった。

 人目から遠ざかるために加速したけど、本当はそんな必要はなく、ただの照れ隠しだ。

 

 それにしても気になるのはさっきの人影。油断していたとはほとんど気配を感じないくらい生気(せいき)がなかったのは木下(きのした)だった。

 元々はあいつが僕をいじめていたのが原因とは言え、こうして強大な力を得ると余裕が生まれてくるのかちょっと気を掛けたくなる。


「くちゅんっ!」

「大丈夫? 冷えてきた?」

「う、うん。ちょっと」

「この時間なら人通りも減るだろうし、急いで帰ろう」


 菱代さんの家に到着すると、まずは首輪とリードを外した。よしっ! 自然な流れで僕の手元に来たぞ! これで犬プレイは今日で終了だ。


「送ってくれてありがとう。ちゃんと真っすぐ帰ってね。放課後まで見張っておいて何かあったら、私の責任でもあるんだから」


 何か問題があるとすればこの首輪とリードなんだけどな。とは口に出さずにおいた。手元にある犬グッズに意識を向けさせてはいけない。


「そうそう、首輪とリードはまだまだいろんな種類があるから楽しみにしててね。鎖や縄もあるんだ」


 どうやら作戦は失敗したようだ。むしろ、この可愛い首輪とリードの方がまだマシなのかもしれない。

 空中散歩ができても飼い犬に一本取られる。中学生活って大変だ。


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