第37話 男の娘だって魅了されます
シュウの元に不良風の男が現れたのと同じ頃、勇者であるナルは魔力の揺らぎを感じた。
まるで世界から一部が切り取られて新たな生命が誕生したような大きな動きだった。
「ナルちゃんどうしたのー?」
「いや、少し空気が変わったような気がしたのだが……周りに気配はない。思い過ごしだろう」
変にチヨを不安にさせまいと誤魔化した。
パッと見は前回の人生と変わらぬボーイッシュな女の子だが、股間にはしっかり男性の象徴が付いている男の娘で勇者の双葉成。そんな彼女(彼?)に妙になついているのが男嫌いで男に好かれる体を持つ田口千夜だ。
「ナルちゃん、変なモノが付いてるけどやっぱりかわいいなー」
顔をまじまじと見つめ、ナルの頬をそのしなやかな指でなぞりながらつぶやく。
「むしろ、ナルちゃんみたいな可愛い子に付いてるなら将来の心配もないのかなー」
股間を見つめるその表情はおよそ中学生とは思えない恍惚なもので、一度目の人生で勇者として成長した時の自分を思い起こさせた。
「もしかしたらボクもチヨが嫌うような野蛮な男になっているかもしれないよ?」
「ナルちゃんならいいよー。ゴツゴツもギトギトもしてないから全然男の人っぽくないー」
元々ナルは中性的な顔立ちとショートカットだったが、生物学的に男に分類されたことで逆に女の子らしくなっていた。
「素直に喜んでいいのか困ってしまうね。前は男っぽいと言われて、今は女っぽいと言われる。ボクの中身は変わってないと自負しているんだけど」
「ナルちゃんはナルちゃん。わたしはナルちゃんだから好きなんだよー」
強くてニューゲームを始めた際に少し成長したこともあり、元々あった二人の身長差がさらに広がっている。チヨはナルの顔をグイっと胸に引き寄せた。
「むぐっ!」
「どう? わたしのおっぱい。ナルちゃんドキドキしてる?」
心臓の鼓動は間違いなく早くなっていた。ただ、その理由が、甘い香りと柔らかさから来る包容力のせいなのか、生物的に男だから性的な魅力を感じているせいなのか、自分でもわからないでいた。
「ふふ。こんな風にされたらチヨを好きになる男子の気持ちがよくわかるよ」
「ここまでするのはナルちゃんだけだよー。わたしに踏み込んでいいのはわたしが好きな人だけー」
嫌いだからこそ、ギリギリで許容できる範囲のエサを蒔くことで一線を超えさせない。その行為はクラスの女子達から軽蔑されるものだったが、理由が明らかになってからはむしろ味方になってくれた。
「そんなにボクを気に入ってくれたのは嬉しいよ。だけどボクは……ん!?」
シュウが向かった方角によく知っている魔力の爆発を感じた。魔王が放つドス黒いオーラの輝きも一瞬見えた気もする。
「まさかシュウが大魔王と戦闘を!?」
「ピンチなのー? 急がなきゃー」
危うく自分の気持ちを吐露しそうだった。ある意味、魔王に救われた形だ。
「ボクは魔王に助けられてばかりだね」
「どうしたのー?」
「なんでもないよ。シュウのところに急ごう」
勇者なのに魔王と手を組み、お互いに利用するのではなく本当に助け合う関係がおかしくてつい独り言が漏れてしまった。
「あまり自分で言いたくはないが、今のボクの体は男だ。だけど緊急事態だから」
ひょいっと自分よりも背の高いチヨを軽々とお姫様抱っこする。かつては自分の体も女だったのに、それとは全く別物のなめらかさと柔らかさに反射的に股間が反応してしまった。
「……少しの間だけ我慢してくれ」
「えへへー。ナルちゃんにお姫様抱っこされるの嬉しいよー」
己の股間に言い聞かせたのだが、チヨはその言葉を自分に向けたものとして受け取った。まるで王子様のような対応にご満悦だ。
こうして、せっかくの手掛かりを気絶させてしまった魔王のところに勇者一行は向かってしまうのだった。




