第36話 木下衆の魔王の生き様
オウ達と別れたものの、シュウは誰とも遭わないどころか建物すら見つけられないでいた。身体能力は魔王のそれなので疲労は感じないが暇すぎて辛い。
「あー、可愛い幼女が俺の犬になってくれねーかなー」
元の世界でこんなことを叫んだら通報されそうなものだがここは魔界。それも誰もいないので何のお咎めもない。
「ショトレちゃん可愛かったなあ。例え歳が五百歳でも見た目がロリなら幼女なんだよ。オウはそれがわかってない。歳でマウント取って反抗してきたらそれはそれでそそるし」
そんな妄想をすると思わずヨダレがこぼれる。完全に不審者であるが周囲には誰も居ない……はずだった。
「へへへ。ガタイのいいガキって聞いてたが、たいしたことねーな」
視力、聴力、さらには魔力感知まで備えている魔王の警戒を物ともせず突如二人の男が現れた。
二メートルはあろうかという強面の男達。肌はこんがりと日焼けしていて髪は汚い金色。全く同じ顔がシュウを見下ろしている。
「物陰もないのにどこから出てきやがった」
今まで自分が逃げてきた学校の先輩をさらに恐くしたような雰囲気に、自問自答するように小声でつぶやくことしかできない。
「魔王の力って言っても大魔王様には及ばねえな。俺らに気付かないなんてよ」
およそ魔界には似合わないただの不良みたいな男ではあるが、その体からは禍々しい魔力を感じる。
「ビビるな俺。俺は今魔王なんだ。体の小さいオウだって俺に向かってきただろ。オウにできて俺にできないはずがない」
「お前、いかにも怯えた顔だぜ? そんなんでよく大魔王様に歯向かおうと思ったな」
「そのままバカでかい鳥として幼女でも探してりゃよかったんだ」
まるで今までの行動を知っていたかのような口ぶりで煽られシュウは冷静さを失ってしまい。
「んだとコラァ!!」
何も考えず突っ込んでいくとひらりとかわされ、腹に一発カウンターを入れられてしまう。
「んぐっ!」
「ギャハハ! チョロいな。大魔王様の手を煩わせるまでもない」
「こんなザコで人質になるのか? ゴミの処分をして感謝されるかもな」
自分よりも確実に弱い相手にはマウントを取り、少しでも強そうな相手からは逃げる。そうすることで偽りの強さに浸っていたシュウは実際以上のダメージを負っていた。しかし、
「……誰がゴミだって?」
「!?」
「いや、ゴミか。自分より小さいやつをイジめて優越感に浸って。一回負けただけで引きこもって、それを救われて。本当にどうしようもねえ」
ただの中学生の木下衆ならこのまま倒れてやり過ごした。ある程度いたぶって満足すればどこかへ行く。それは自分がよくわかっていたから。
「でもな、こんな俺を友達って言ってくれたんだ。それに応えなきゃ魔王じゃねえよ」
だが、魔王の力を手に入れ周りからシュウと呼ばれるようになった男は違った。
「俺はロリが好きだからよ。お前らみたいなデカブツは苦手なんだ。だから、ちょっと縮んどけ」
むくりと立ちあがったかと思うと、シュウはまるで鳥のように高く跳び上がる。そして、上昇した時よりもさらに加速をして落下する。突然の出来事に男達は逃げることもできない。
「「うわあああああ!!!」」
二メートルを超える巨体は地面にめり込み、シュウを見上げる形になっている。
「あー悪い。小さくなっても好みじゃねーわ。幼女じゃねーし」
地面からはみ出している頭をゴツンと殴り気絶させた。
「……こいつらどの方角から来たんだ? ちくしょー! 大魔王の手掛かりなのに! 起きろ!」
せっかくの手掛かりを倒してしまい結局ノーヒントになってしまった。恥ずかして助けを求められないもう一人の魔王はしばらくこの場所で待機することになってしまうのだった。




