第29話 次に会うのは
岩場で何も発見できなかったシュウが戻ってくる。
「カタワ! その尻尾と犬耳、可愛いな!ああ、理想のロリ犬だ」
「シュウくん、このおかなしな世界でも変わらずなんだね」
呆れたようにため息を付くと同時にカタワは安堵の表情を浮かべていた。
「その尻尾と耳は……」
「強くてニューゲームを始めますか? って聞かれた時にはいって答えて、目が覚めたら生えてたの。尻尾も耳も自分の意志で動かせるんだけど、たまに勝手に反応しちゃうんだよね」
ぴょこぴょこと動く姿はやっぱり可愛い。
「ちなみに聴こえてるのはこっちの耳。犬耳は飾りみたいなものみたい」
「魔界らしいと言えば魔界らしいのかな。カタワはちゃんと理性があるみたいだし、このままでもいいかな」
「オウくんとシュウくんは何ともないの?」
「実は……」
僕には何も体の変化がないこと、シュウが巨大な鳥になって襲い掛かってきたこと、ショトレさんが強くてニューゲームの原因であり、彼女の息子である大魔王を倒せば元の中学生活に戻れることを説明した。
「そっか。私はもちろんオウくんに付いていくよ。私は忠犬だからね」
「うん。友達として付いてきてほしいかな」
「なら俺の犬に……」
「それは嫌です」
犬耳や尻尾が生えてもオウに対する当たりは強い。自分を蔑んで見てくれる人の犬になりたいというカタワの信念は変わらないようだ。
「ところでカタワ、その果物は」
「ああ、これはね。木に生っていたのを拝借したの。周りに家はないし、この雰囲気だと警察もいないかなって」
真面目な委員長でもあるカタワにしては豪快な行動だと思ったけど、状況を冷静に分析して生きるための行動をするのはカタワらしくも感じた。
「尻尾と犬耳が生えてるのに気付いた時点で何かおかしいとは思ったの。それで思い切れたっていうか……誰かに見られるスリルはなくて残念だったけど、この体のおかげでマーキングもできたし」
「うん。カタワも変わらないね」
安心していいところなのかはわからないけど、おかげでこうして再会できた。
「それとね、ナルちゃんの匂いもかすかに感じたの」
「ナル? チヨじゃなくて?」
「うん。あの汗が混ざったような匂いはナルちゃんだよ。チヨちゃんはもっと大人っぽいっていうか、判断力が鈍くなるような甘い匂いだから」
犬要素が強くなっているせいか匂いの解説が詳しい。一度目の魔王人生で僕の側近として働いていたカタワと同じ能力だ。
「カタワがそこまで言うならナルで間違いなさそうだ。だけど……」
今までのルートを辿るならこの後はチヨと再会するはず。二度目の人生でイレギュラーな存在だったナルではあるけど、ここにきて違うルートを進み始めていることに違和感を覚えた。
「ちょっと気になることはあるけど合流が先決だ」
「うん。ナルちゃんは勇者だから大魔王に狙われてるかもしれないしね」
カタワの言う通り、勇者の力は魔王の天敵だ。強くてニューゲームのスタートに干渉できるのならナルに何かしている可能性は高い。
「ほら、シュウ。いつまでカタワに見惚れてるんだ?」
「な! べ、別に見てねーし」
そう言ってヨダレを拭きとる姿は見苦しい変質者そのものだった。
「私、シュウくんを元の中学生活に戻すのが不安なんだけど」
「僕もだよ。こいつはここに置いていった方が良い気がしてる」
「酷いこと言うなよ! 俺だって元の世界で幼女との可能性に賭けたいんだ!」
こういうところが不安なんだけど……。とにかくまずは大魔王を倒さないことには元の生活には戻れない。ルートが変わって未来予測が難しくなることへの不安も覚えつつ、僕らはカタワの嗅覚を頼りにナルとの合流を目指す。




