第28話 忠犬カタワ
魔界での目標、迎えるべきエンディングが決まったところで僕らはカタワを探すため歩き出す。
「オウ、待ってくれ! この幼女は置いていくのか?」
「うん。そのつもりだけど」
シュウの目から光が失われ、僕よりも大きい体がしゅんと縮んだように見えた。
「お兄ちゃんごめんね。わたし、ここでやらなきゃいけないことがあるの」
瞳をうるうるさせ上目遣いで話す姿は幼女そのもの。本当にやることがあるのかはわからないけど、もしショトレさんが戦いに巻き込まれて死んでしまったら強くてニューゲームを始められない可能性がある。
ここで安全に過ごしてくれるのならそれに越したことはない。
「仕方ないなー。その代り、この戦いが終わったら……じゅるり」
「死亡フラグみたいだからやめろ」
とりあえずシュウの頭を一発殴って強引に引きずっていくことにした。こうでもしないと何を要求するかわかったもんじゃない。
「わしの勝手なわがままを押し付けて申し訳ない。息子を……頼む」
「僕らも人生が掛かってますから。完全に巻き込まれた形ですけど、シュウ達と友達になれたお礼ということにしておいてください」
深々と頭を下げるショトレさんをあと、僕とシュウは当てのないない旅へ出た。
「ああ……ショトレちゃん」
「もう『ちゃん』なんて歳じゃないんだぞ」
「中身は関係ない。見た目がロリなら幼女だし、ちゃんと調教すれば中身も幼女として生まれ変わるはずだ!」
「……それ、元の中学生活に戻ったら言わないでね?」
いじめっ子でもなく、下僕でもなく、敵対する魔王でもない。友達として接するシュウは欲望が剥き出しでやっぱり最低なやつだけど、魔界でここまで自分らしくいられるのを見てちょっとだけ勇気がわいてきた。
「それにシュウはカタワが好きなんでしょ? たぶんそろそろ会えるから」
「カタワ!? 魔界なら何をしても……」
「…………」
もはやツッコむことなく無言で圧力を掛ける。中学生として強くてニューゲームを始めたら記憶を引き継ぐことを忘れてるわけじゃないだろうな?
「さっきから気になってるんだけどよ。ところどころ地面が濡れてるのは何なんだ?雨が降ったとは思えねーし」
「確かに。等間隔で濡れてる……まさか!」
カタワは一見すると真面目な委員長だし、その評価は間違いではない。しかしその中身は犬、それも変態的な意味での犬になりたいという願望をもつ残念な女の子だ。
「これ、マーキングなのか?」
大地は荒れ果て、魔界の住人どころか魔物すら見かけない。カタワにとってはあまり恥ずかしめにならず不満はあるだろうけど、僕らと合流するための道標を残してくれそうなのもカタワの性格なら有り得る。
「すげーなカタワ。こんなに何度もおしっこできるもんなのか」
「そこは気になるね。まるで本当の犬みたいだ。もしかしたらシュウみたいに変身した状態で強くてニューゲームを始めたのかも」
仮にそうだとしてもシュウと違って意識は残っていそうだ。さすがは魔王の秘書として側に置いたこともあるカタワだ。
この濡れた跡がカタワのマーキングと信じて歩を進めていくと、人が休憩するのに都合が良さそうな岩場を発見した。
「カタワがあそこに身を寄せている可能性もあるけど、誰かの罠かもしれない」
「魔王が二人揃ってるんだぜ? 誰が出てきても余裕だろ」
シュウは自信満々で油断しきっている。これから大魔王の元に向かうんだからもっと気を引き締めてほしい。そんな意味を込めて。
「じゃあシュウが先に行ってよ」
「え? やだよ。ここはお前、オウが先に」
「この魔界で再開する初めての人がシュウになるかもしれないんだよ?」
急にやる気を出したようでスタスタと岩場に向かっていく。わかりやすいエサがあるから助かる。よほどカタワの初めての人になりたいのか、慎重さは全くなく早歩きでどんどん一人で先走ってしまった。
「ちょっと! シュウ! 罠だったら危険だよ」
自分がけしかけたとは言え、さすがに罠だった場合に申し訳ない。大声で呼び止めたその時、
「よかった~。やっぱりオウくん達もこの世界にいたんだね。私のマーキングに気付いてくれるなんて、ご主人様はオウくんしかいないよ」
尻尾をフリフリしながら笑顔でこちらに向かってくるのは間違いなく変態犬願望をもつカタワだった。犬耳がピーンと立ってるところも可愛い。
「ねえ、カタワ。その耳と尻尾はどうしたの? どこかで拾ったの?」
「これ? なんか生えてたの。神様が願いを叶えてくれたのかな?」
たぶんその願いを叶えてくれたのは神様じゃなくて大魔王だよ。ひとまずその言葉は飲み込んだ。どうやらシュウだけなく、カタワも強くてニューゲームを始める時に何かされたらしい。
一方、鳥の姿に変えられた過去を持つシュウはカタワの存在に気付かないまま岩場の影を探索していた。




