第27話 ゲス魔王
僕の願いはただ一つ。たいていの事は魔王の力で叶えられるけど、今この状況から元の中学生活に戻るには改めて強くてニューゲームを始めるしかない。それを叶えてくれるなら僕はショトレさんの要求を飲む。
「もちろんじゃ。お主達がエンディングを迎える条件を『わしの息子を倒す』に設定した。そして強くてニューゲームを選択すれば、また中学生として生きられることを約束しよう」
「お願いします。こればっかりは魔王の力でもどうにもならないので」
本来なら僕が頭を下げる必要はないけど、相手の中身が年上ということもあり反射的にお辞儀をしてしまった。今の自分が魔王の力を持つだけの中学生であることを確認する。
「ほら、シュウ。起きろ。カタワを探しに行くぞ」
気絶しているシュウの頬をペチペチと軽く叩くと、幸せそうな顔を浮かべて起き上がった。
「あれ? ここは……あっ! エルフの幼女! 俺の奴隷にするんだ!」
「だからやめろって」
ショトレさんに抱き付こうとするシュウの首根っこを掴んで制止する。こいつをこのまま元の中学生活に戻していいものか少し迷ってしまう。
「なに!? カタワもこの訳の分からない場所に来てるのか?」
「たぶんね。僕やシュウみたいに強くてニューゲームを選択してればだけど」
「ここはどう考えても日本じゃない。つまり好き放題しても……うひひ」
「ああ、そうだった。お前はそういうゲス野郎なんだよな」
一度目の魔王人生でシュウを配下にしてカタワの相手をさせた時も酷いものだった。ほぼ同じルートを辿るなら次はカタワと会えるはずだけど少し心配だ。
「それでショトレさん、息子さん……大魔王の弱点とか知りませんか?」
「うーむ。弱点どころかお主達にとっては悪い情報しかないのお」
申し訳なさそうに肩を落とす姿はまるで子供で、なんというか怒ったり責めたりという感情が失せるくらい可愛い。
「わしは息子のエンディング条件を解除した。だが、今度は息子自身が『死んだらエンディング』という条件を自分に付けている可能性はある」
「え? 自分自身にはその力を使えないんじゃ?」
「あくまで可能性の話じゃ。エルフの力と魔王の力、本来交わることのない二つの力を融合させた息子ならあるいは……」
倒してもまた強くてニューゲームを始められたんじゃ、いつまで経っても僕らは元の中学生活に戻れない。純粋な力比べではダメな場合、何か別の方法を探さなければならない。
「なあ、だったらエンディングにならないようにすればいいんじゃね?」
さすがに理性を取り戻したシュウが唐突に発言した。
「俺らが名前で呼び合ったのがエンディングだったんだろ? それでエンディングを迎えないようにするとか何とか言ってなかったか?」
「それだ!」
シュウが引き継いでいたのはとんでもない性癖だけじゃなかった。ちゃんと経験したことも覚えていて、すごくいいヒントになった。
「大魔王を倒すっていうのは、何も殺す必要はないんですよね? 例えば力を完全に奪って無力化するとか」
「う、うむ。それができるのなら。わしとしても元の息子に戻ってくれるなら嬉しい。向こうはわしをどう思っているかわからぬが……」
さすがに殺すのは気が引けるし、ショトレさんにもそこまでの覚悟は決まっていないようだ。それならいい方法がある。
「シュウとの戦いは無駄じゃなかった。僕がシュウの魔力を吸い取ったあの技を堕魔王に使えば……」
「殺さずに無力化できるってか。俺と戦ったおかげで編み出した技なんだから感謝しろよな」
「僕がただ魔王の力を手に入れるだけじゃダメだったんだ。二度目の人生、シュウ達と友達になるエンディングが必要だったんだ」
もし二度目の人生が魔界からスタートしていたら、力付くで大魔王を倒して後味の悪いエンディングを迎えるか、返り討ちにあっていたかもしれない。強大な力で思い通りの人生を送るだけじゃなかった。この力を手に入れた意味を見出せた気がする。




