第24話 はじめまして
「動かなきゃ始まらないか」
右を見ても左を見ても知っている景色が見当たらない。それでも歩き出さなければ誰とも出会えない。意を決して進むことにした。
「魔王の力は残ってるから強くてニューゲームには変わりないんだろうけど……」
巨大な鳥と対峙した時の反射神経や、地面から引っこ抜いた時の怪力は普通の中学生ではありえないものだった。それに一度目の魔王人生や、二度目の魔王の力を持った中学生生活の記憶もしっかり残っている。
「場所は全然違うけど、もしこれが強くてニューゲームなら同じような展開になるはず」
だからみんなと無事に再開できる。二度目の人生ではこの法則を利用して問題を解決したこともある。都合の良い展開はそのまま、悪い場合は力でねじ伏せる。それが魔王のやり方だ。
「もし同じ展開ならそろそろシュウに……ん?」
視界に入ったのは小さな女の子だった。視界に入ったと言ってもまだ百メートルほどは離れている。いつ、どこから襲われるかわからない未知の土地で警戒心を強めていた。
女の子は自分より年下、小学生くらいに見える。エメラルドグリーンのボブカットはいかにもアニメやゲームに出てきそうな雰囲気を醸し出している。ただ、それ以上に気になったのは、
「耳……長いよな」
付いている位置は人間と同じく顔の横。ただ、その耳は長く尖っていた。
「エルフってやつかな?」
もしここが本当に魔界ならエルフみたいな空想上の生き物がいてもおかしくない。なんなら自分が魔王だし。だからエルフが視界に入ったこと自体はそこまで驚かなかった。
「……シュウが強くてニューゲームを始めてエルフになったってことはないよね?」
シュウは自分より弱くて小さい女の子が好きだ。そんな女の子をペットとして飼いたいという歪んだ欲求の持ち主ではあるのだが、それが高じて、か弱いエルフとして第二の人生を歩んだ可能性は捨てきれない。
「まずは話し掛けないと始まらないか」
僕は中学生の姿で強くてニューゲームを始めたから、シュウが記憶を引き継いでいるならすぐにわかってくれるはずだ。もし別人でもこの世界の手掛かりを聞けるかもしれない。
あまり警戒されては困るので魔王の力は使わず、人間の歩行速度でエルフに近付いていった。
「あの、すみません」
何も考えずに声を掛けてしまったけど、人間の言葉は通じるのかな? こういうのはだいたい言った後に気付くものだ。
「ん? ああ、オウか」
「やっぱり! シュウだったんだね。まさかエルフとして強くてニューゲームを始めると思ってなかったよ」
シュウと思わしきエルフはどうにも反応が悪い。もっとこうウザい感じで絡んでくると予想していただけに気持ちが悪い。
「どうしたの? エルフになって性格も変わった?」
「……わしはシュウではない」
「え? もしかしてカタワ? ご、ごめんね。シュウと間違えて」
さらに小さくなっているが体格的にはカタワが一番近い。今回は舞台が違うから全く別の人生が待っている可能性だってある。
「わしはカタワでもない。オウもうすうす勘付いてるはずじゃ。ここが今までとは別の世界。全く新しい強くてニューゲームであることに」
「あの、どういう……」
カタワは変態だけど、こういう時に冗談を言うタイプじゃない。それに口調だって外見に似合わず妙に年寄り臭い。キャラ作りにしてはすごく自然で、ずっとこれで生きてきたように感じる。
「わしの名はショトレ。お主達に強くてニューゲームの選択肢を与えた張本人じゃ」
ナルが言っていた倒すべき相手。僕らにとってのラスボスにゲーム序盤で出会ってしまった。まだ仲間と合流できてないのに。




