第23話 魔界で強くてニューゲーム
「ここは……」
シュウ達とエンディングを迎えた直後、睡魔のような感覚に襲われた。
一度目の魔王人生で勇者に倒された時と同じように強くてニューゲームの選択を問われたので、僕は迷うことなく強くてニューゲームを始めた。
「強くてニューゲームって言うけど全然別の世界じゃん……」
目の前に広がるのはどんよりと赤黒く染まった空と荒廃した大地。遠くの方からは犬や猫とは思えない獣のようなうめき声が聞こえてくる。
日本から遠く離れたという意味では合っているかもしれないけど、ここは間違いなく僕らが中学生として過ごした世界とは違う。僕に魔王の力を与えた世界。僕が少しずつその勢力を広げていった魔界そのもだった。
「魔界みたいな場所からスタートしてるけど体は元のままだ」
強くてニューゲームというより、クリアデータでエンディング後のエピソードをプレイしているような感覚があった。
「ナル達はどこだろう」
強くてニューゲームを経験しているのは僕とナルだけ。ナルなら絶対に強くてニューゲームを選択していると信じてその姿を探す。
「おーい! ナルー!」
心当たりはあるけど全く知らない土地であることを失念していた。うかつに大声を出したことで、この世界の支配者達に存在を気付かれてしまった。
「グギャアアアアアアア!!!!!」
巨大な翼とクチバシを持つ鳥のような魔物が僕に向かって突進してくる。普通の人間なら足がすくんで身動きが取れないだろう。だけど僕には魔王の力がある。
「お前に恨みはないけどごめんね」
直線的に突っ込んでくるので右側に跳ぶと、鳥はそのままクチバシを地面に刺してしまった。
よほど悔しいのか鳴き声を上げようとするものの、クチバシが開かないので怒りが喉元につかえているように見える。
「僕が完全な魔王なら殺しちゃうんだけど……」
今は魔王の力を持つ中学生だ。いくら危険な生物とは言え殺すのは気が引ける。クチバシが地面に刺さったままでもいずれ死んでしまう。
「お前を助けたらもう襲わないって約束できる?」
言葉が通じるなんて思っていないけど一応確認をしてみた。怒りで血走る目で僕を睨みつけていたけど、次第に落ち着きを取り戻していった。
「襲われても僕が勝つと思うけど……」
強くてニューゲームを選択するのは二回目。三度目の人生で力の衰えを心配していたけどそんなこともなく、むしろシュウとの戦いを経験にして魔力操作がうまくなった感覚が残っている。
「いいか? 引っこ抜いたあとに襲ってくるんじゃないぞ? せっかく助かった命なんだから」
鳥は鳴くことができないので、なんとなく視線で肯定の意志を読み取った。
クチバシを両手で掴んで、そのクチバシを割らないように力を込めて地面から引き抜いた。
「ンゴギャアアアアアア!!!」
地面から解放された瞬間、歓喜とも受け取れる大声を上げた。バサバサと上空に羽ばたいていくと僕の頭上を旋回する。どうやら攻撃の意志はないようだ。
「僕じゃなかったら殺されてたかもしれないんだぞ。もう無暗に人を襲うなよ」
「グエエエエエエ!!」
相変わらず不気味な声ではあるけど、たぶんイエスの意味だろう。他にどれだけの魔物がいるかわからないけど、ひとまずこの鳥がナル達を襲うことはなさそうだ。
「シュウも魔王の力を持ってるはずだけど、カタワとチヨは大丈夫かな……」
強くてニューゲームの経験者であるナル。二度目の人生でボスとして君臨して、魔王の力を授かったシュウ。この二人ならどうにか生き延びられるはず。
「こんな時にカタワがいれば変態犬の嗅覚でみんなさを探せるのに」
あまりにこの魔界と思しき世界についての情報が足りな過ぎてガクッと肩を落とす。そもそも強くてニューゲームを開始しているかもわからない中、ノーヒントで人を探すのはあまりにも途方のない話だった。




