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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
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第21話 魔王VS魔王

 全身が熱いけど、それが少しずつ心地良く感じてくる。魔力を失ったんだと思っていたけど、どうやら僕の奥底で眠っていたらしい。魔法を使っていた頃の感覚も蘇る。まるでこの世の全てを自在に操れそうな万能感が満ち溢れてきた。


「う……がぁ……!」


 一方、木下(きのした)は自分の体から溢れ出る黒いオーラに苦しめられている。僕が初めて魔王になった時もそうだった。力が溢れてくるけど、それは手に余るもので制御しきれない。自分が自分でなくなる恐怖と、今の状況を壊せるという期待感の狭間(はざま)でもがき苦しんだ。


「人はこうして魔王に()ちていくのか。普通の人間なら恐ろしくて手が出せないが、勇者の力を持っている今なら二人同時に倒せそうだ」

「!? 双葉さん、烏丸(からすま)くん達を倒さないって」

「もちろんだよ。でもね、一度魔王に世界を……人生を壊された身としては、そういうエンディングを想像してしまうんだよ」

(なる)ちゃん……」


 だんだん魔力が体に馴染んでくる。だけど、姿形は中学生のままだ。二度目だからなのかと思い木下の様子を伺うと、同じく今までと変わらない姿だ。

 それでも間違いなく魔王の力を感じる。今殴っても、あの日のようにはいかない。かわされるか、耐えられるか、あるいはカウンターをくらうか。一撃で全てが終わるなんてことは絶対にないと確信できた。


「ふう……ふう……! てめー、こんな力を隠し持ってたのかよ。反則じゃねーか。でもな、元々お前より強かった俺が更に力を手に入れた。どっちが勝つかわかるよな?」


 目は血走り、怒りの形相で僕を(にら)みつける。その(こぶし)には魔力が宿っていて、これを放たれれば木下家が吹っ飛んでしまう。


「せっかく強大な力を手に入れたんだ。木下くんならわかるだろう。今なら空も飛べるって。誰にも邪魔されない雲の上で、全力で戦おうよ」

「あひゃひゃひゃひゃ! いいぜ。空ならお前のお友達も助けに来られないだろ。てめーを倒したあと……じゅるり」


 舌なめずりをして菱代(ひしよ)さんを見る。全てを支配できる力を手に入れると、人はああいう目になってしまうのだろう。鏡で見たことはないけど、一度目の魔王人生で僕はきっとあんな目をしていたと思う。


「それじゃあ、やろうか」


 窓をガラリと開けて周りを見渡す。どうやら誰にも見られていないようだ。窓から飛び出て足に魔力を集中させる。菱代さんとの空中散歩の要領で何度か空気を蹴り上げて空を掛け登っていく。


「あんなもん、俺なら一発で充分だ」


 物を踏み潰すような勢いで空中を思い切り蹴ると一気に同じ高さまで追い付いてきた。


「どうだ! おっと……蹴り続けてないと落ちちまうな」

「まだ魔力のコントロールはできてないみたいだね」

「んだと!?」


 脚力だけで空中に居続けるには常に蹴り続ける必要がある。でも、魔力が使える今なら、空気中の水分で薄い氷の床を作って、それを重力魔法で浮かせればいい。


「そんな小細工は必要ねーんだよ! 一発殴れば終わりなんだからな!」


 双葉(ふたば)さんに匹敵する速さで木下が突撃してくる。避けきれない。それならば受けるしかないとガードを固めたものの


「あがっ!」


 骨は折れてない。だけど、ずっしりと重い衝撃が腕から全身へと駆け巡る。


「どうだ。やっぱり一発で終わるのはつまらないからな。何度も何度も殴って、泣いて謝るまで続けてやる」

「泣いて謝っても止める気なんてないだろう? いきなり強大な力を手に入れたやつっていうのはそういうものさ。なぜなら、僕もそうだったからね!」


 時間魔法を拳に込めて木下の脚に放つ。これで多少はスピードを抑えられるはずだ。僕への攻撃はともかく、下にいる菱代さんをターゲットにされてもこれなら追い付ける。双葉さんがいるから心配はないだろうけど。


「うおっ! これも魔法か。足が思うように動かせねー。おかげでだんだんわかってきた。相手を苦しめるイメージ。それを思い浮かべながら攻撃すれば……!」


 手の平を僕に向けると、そこから毒々しい紫色をしたガスが噴出された。スプレー缶のように勢いよくこちらに向かってきたので回避が間に合わない。


「……っ! なんだこれ……目が……ま……わる」


 視界がぐるぐると回るため空中に居続けるのも難しい。神経を氷の足場と反重力に費やすため、(おの)ずと防御が甘くなる。


「おら! おら! おら! さっきまでの勢いはどうした? 俺が魔法を使えないと思って油断したか? 残念だったな。これでお前が俺に勝てる要素は一つもない。あひゃひゃひゃひゃ」


 毒さえ消えれば反撃に転じることができる。でも、幸運なことに、だけど今の状況を考えると、残念ながら一度目の魔王人生の中で毒に侵されたことは一度もない。強くてニューゲームの利点を活かすことができなかった。


「あーーーーやっぱりザコ狩りは楽しいなー。絶対に勝てる相手をボコボコにして味わう優越感たまんねー。あっ! この力があれば誰が相手でも勝てるか。全人類が俺のサンドバッグで俺の奴隷だ。あひゃひゃひゃひゃ」


 このままでは僕は木下に倒される。相手が違うとは言え、魔王が倒されるエンディングだ。そして、双葉さんは木下を倒すだろう。誰でも勝てる? バカを言うな。双葉さんは一度魔王を倒した経験を持つ勇者だぞ。だけど……。


「普通の中学生として生きるって結構大変なんだな」

「あ? 何か言ったか?」


 双葉さんが勇者の力で魔王を倒したら、一度目よりは平和な世界かもしれないけど、魔王を倒した勇者としての人生を歩み続けることになる。本当のところはわからないけど、それはたぶん双葉さんに幸せじゃないと思う。


「ねえ木下くん。キミも魔王の力を持ってるなら、僕が何をしてもズルではないよね?」

「はあ? 何をしたって俺には勝てねーよ。さくらちゃん」


 僕を『さくらちゃん』と呼ぶ時は満足して攻撃をやめる時だ。飽きたんだろう? 満たされないんだろう? 力で人を支配しても、後には何も残らない。キミの寂しさを知ったから、僕はキミと友達になりたいって思ったんだ。


「僕が勝ったら友達になってくれる?」

「あひゃひゃひゃひゃ! おもしれー遺言だな。いいぜ。友達でも奴隷でも何でもなってやる」


 男に二言(にごん)がありそうなやつだけど、一応言質(げんち)は取った。

 さあ、やるぞ。世界を支配するためではなく、友達を作るために僕は魔王の力を使う!


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