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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
20/44

第20話 魔王と友達になれますか?

「と、言うわけで、みんなで木下(きのした)くんの家に行こうと思うんだけど都合は付くかな?」


 双葉(ふたば)さんとの同棲生活を始めた翌日、僕は菱代(ひしよ)さんと田口(たぐち)さんに二人で話し合ったことを説明した。


「そ・ん・な・こ・と・よ・り!」

「そんなこと!?」

「双葉さんとどんな夜を過ごしたの!?」

「ふふふ。ボクは完全に烏丸(からすま)くんの(とりこ)になってしまったよ」

「オムライスが美味しかったっていう話だよね!?」


 僕の人生だけでなく、下手したら世界の存亡も掛かっているけど菱代さんは昨夜のことの方が気になるらしい。それを双葉さんがひょうひょうと茶化(ちゃか)すから話が逸れていく。


「本当に何もなかったから! ほら、僕から双葉さんの匂いしないでしょ?」

「くんくん。確かに。烏丸くんは無実だね」

 

 顔を近付けて匂いを嗅がれると、自分の匂いよりも菱代さんから漂う甘い香りの方が気になってしまった。なんで女の子はみんな良い匂いがするんだよ。


「あー、いいなー。わたしも嗅ぐ―」


 なぜか田口さんも僕の匂いを嗅ぎ始める。そのたわわな胸が僕の腕に当たってるんだけど、これはきっとわざとだ。他の男子に対してこういう行為をしなくなった分、特別感が出てきて気恥ずかしい。


「相変わらず烏丸くんはモテるね。こんな姿を木下くんが見たら闇堕(やみお)ちしそうだ」

「恐いこと言わないでよ!


 双葉さんの恐ろしい予想は不安だけど、僕が自分で動かなければルート変更は怒りそうもない。意を決して魔王軍と勇者は木下の家に向かうことにした。


***


 ピンポーン


 インターホンを鳴らすと木下の母親が出てきた。この前よりも人数が、それも女子が増えてかなり驚いた表情を見せる。


「また遊びに来てくれたのね。それもこんなに女の子が。なんだか青春が始まりそうで安心だわ」

「突然こんなに大人数ですみません」

「いいのよ。(しゅう)なら部屋にいるから上がって」


 そう言って僕らを迎え入れて木下の部屋まで案内してくれた。


「おもてなしはできないけど、ゆっくりしていってね」

「お構いなく。ありがとうございます」


 あくまで和解のために来たけど、もしも木下が魔王の力に目覚めたら僕もろとも双葉さんに殺してもらう手はずになっている。覚悟を決めたつもりだったけど、いざ親御さんの顔を見るとそれが揺らぎそうになる。


「何も行動を起こさなければ、あと数年はこの平和な生活が続くと思う。高校を卒業して大学生にはなれるだろう。それでも別のエンディングを目指すんだね?」

「うん。魔王になった時は好き勝手できて楽しかったけど、でも、それを続けても結局何も残らなかった。僕をいじめた憎い相手でもあるけど、あんな気持ちを味わってほしくない。これが、僕が強くてニューゲームの選択肢を与えられて意味だと思うから」


 双葉さんの問い掛けで再び決意を取り戻せた。背中を押されたわけではなく、自問した結果辿り着いた答えだ。


「衆くんかー。なんか恐い感じだけど、わたしは何かされたことないかなー」

「それはきっとご主人様が年上の女性っぽいからよ。木下くんは自分よりちっちゃくて弱い女の子を飼いたいみたいだから」

「ふーん。世の中にはいろんな男の子がいるんだねー」


 田口さんに迫られたら木下もたぶん鼻の下を伸ばしてたとは思うけど、自分の体が武器として通用しない事実に少し驚いているようだった。


「部屋の前でこんなに騒いでたらたぶん木下くんもボクらの存在に気付いてるとは思うけど、向こうから出てくることはなさそうだね」

「それはそうだよ。前に来た時は『木下くんは僕の下僕(げぼく)だったんだ』なんて言ったんだから」

「でも事実だから仕方ないだろう? ボクの世界では魔王になったけど倒されたわけだし」


 自分のエンディングを変えるために始めた強くてニューゲームだけど、もしかしたら木下のエンディングを変えるためのものなのかもしれない。今まで他人を暴力で支配してきた報いと言えばそれまでかもしれないけど、反省して償えば良いエンディングを迎えても良いと思う。


「それじゃあ行くよ。友達になるために」


 ドアをノックして、声を掛けても反応はない。数秒待って、僕はドアを開ける。

 するとそこには、かつて僕が魔王になった時にまとった黒いオーラに身を包んだ木下がいた。


「……マズいな」


 いつも淡々と冗談を交えながら話す双葉さんが本気で焦っているように見える。


「うぐっ!」

「烏丸くん、大丈夫!?」


 木下の黒いオーラにあてられたのか、体の中に魔力が宿る感覚が蘇る。このままだと、一度目と同じようにまた魔王になってしまう。これから分かり合おうと思ったのに、何もできずに終わってしまうのか。


「烏丸くん、木下くんと戦ってみるのはどうだろう」

「……ハァ……ぐぅ……」


 魔王への変貌(へんぼう)に抗うのに精一杯でまともに返事ができない。


「烏丸くんは魔王の力で木下くんを圧倒した。でも、今は木下くんも魔王の力を手に入れようとしている。つまり互角だ。これこそ対等な関係と言えるじゃないか」

「フゥ……フゥ……」

「もしどちらか、あるいは両方の魔王が世界を滅ぼそうとするなら勇者であるボクが責任を持って倒す。なりたての魔王に遅れは取らないよ」


 絶望的な展開の中で見えた一筋の光明。やっぱり双葉さんは勇者なんだな。魔王なのに彼女の言葉に救われてしまった。

 よし、それじゃあ思い切りケンカしよう。お互いに魔王の力を持ってるからズルくもなんともない。拳と拳で語り合おう。対等な友達になるために。


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