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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
18/44

第18話 勇者視点の第17話

 (おう)がオムライスを作っている間、(なる)は部屋の中を(あさ)る……わけではなく物思いにふけっていた。


「ふぅ。烏丸(からすま)くんが良い人で本当に助かった。いや、困ったというべきかな。あれじゃあ魔王に変貌(へんぼう)しても倒せないじゃないか」


 桜が夕飯の支度に向かった後、成は天井に向かってひとり言をつぶやく。

 魔王が現れた時に実家は破壊された。それから考えると数年ぶりの我が家となる。自室のレイアウトは少し違うものの、なんとなく懐かしい雰囲気を感じるのは桜の人柄なのかもしれない。


「それにしても、あんなにも簡単に言いくるめられるなんてね。ボクが倒した魔王はもっとゲスで狡猾(こうかつ)だったよ」


 魔王になった木下(きのした) (しゅう)はその体躯(たいく)は元より、本来抱えていた『自分より弱くて小さい者を支配したい』という歪んだ欲望が、彼をより邪悪な存在へと変えていった。

 そんな魔王を倒すまでの過程で多くの戦いを経験してきた。中学生だった成も時間の経過と共に成長し、勇者としてだけでなく一人の女にもなっていた。



双葉(ふたば)さーん! できたよー! 双葉さーん?」


 成の耳にはハッキリと桜の声が聞こえていた。ただ、彼女は大人しく返事をしない。ただ観静(せいかん)の構えを見せるだけなく、おもむろに着替えだした。


「いいタイミングで脱ぎかけるのは難しいな。いっそ服は全部脱いでしまおう」


 成の肌が露わになる。小柄なボクッ子ということで胸がないと思われがちだが、剣道部の間では『意外とある』と話題になっている。


「魔王は非道の限りを尽くしてたくさんの女性が被害に遭っていた。烏丸くん、キミはボクの体を見てどんな反応をするか見極めさせてもらう」


「双葉さん、寝てるの?」


 桜はノックもせず、いきなりガチャリとドアノブを回す。

 ノックくらいはされるものと思っていたので成も一瞬だけ心のほころびが出た。


「……っ!」


 だが、ここで『キャー!』なんて声を上げるわけにはいかない。体は中学生でも、中身は一度大人の女を経験している。あくまで魔王に対してマウントを取るために平静を保つ。


「あー、ごめん。いつまでも制服っていうのも落ち着かないから着替えてたんだ」

「ご、ごご、ご、ごめん!」


 桜は慌てて部屋を出ていった。その様子を見て成はホッと胸を撫で下ろす。

 もしかしたら発情した魔王に襲われていたかもしれない。その時は問答無用で実力行使するつもりだったが、それはしたくなかった。


「烏丸くんは本当に男子中学生なんだね。ただ魔王の力を持っているだけの」


 ドアの向こうに居る桜には聞こえない程度の声量でそっとつぶやく。


「やはりキミはボクが倒すべき魔王ではないようだ」


 持ってきた部屋着に着替えながら、成は自分の鼓動が速くなっていることに気付く。


「本当ごめん。自分の部屋みたいな感覚で……って、僕の部屋なんだけど、全然気を遣えてなくて」

「構わないよ。設定的には親戚なんだし。それにしても烏丸くんは純粋だね。まるで中学生だ」


 この鼓動の正体は着替えを見られたからだ。自分から見せていても、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。自分も女子中学生みたいな一面が残っているんだなと自嘲気味に笑う。


「それで、いきなり部屋に入ってきて何の用だったんだい?」

「ゆ、夕飯できたから呼びに来たんだ」

「わざわざありがとう。魔王の手料理がどんなものか楽しみだよ」

「温かいうちに食べてほしいから早く来てね」


 まるで家族のような、あるいは同棲を始めたカップルのような会話だ。

 勇者と魔王の対立を予想していたけど、そもそも桜は自分が倒すべき魔王ではない。それならば、今の関係は何もおかしいところはない。成は自分にそう言い聞かせた。


「二度目の勇者人生か。この平穏がこのまま続くといいのだけど」


 成が部屋を出ると、ふわっと卵の焼けた良い香りが漂ってきた。


「こんなに温かみのある匂いはいつぶりだろう」


 食欲を刺激するその香りに成の胸は高鳴る。この感情はきっと空腹のせいだ自分に言い聞かせた。


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