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魔王様は強くてニューゲームを選択しました  作者: くにすらのに
二回目の中学生
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第12話 はじめましてのクラスメイト

 ナンパ野郎達を一人で倒した女の子の剣技を見て、魔王としてのエンディングを迎えた時の記憶が蘇る。

 人間では到底発揮できない身体能力をさらに魔力で強化し、雷や炎、風、氷、さらに闇属性の魔法まで使った。それでも勇者はその剣で全てを打ち破り、僕の頭上へと跳び上がった。これまでの幾度も戦ってきたが上を取られたのは初めてだった。

 攻撃に使っていた魔力を防御へと回し結界を張る。

 だが、勇者が突きを繰り出すと、勇者自身が巨大な光の剣となり僕の体に激突する。敗北を悟った。

 意識が薄らいでいく、そして僕は強くてニューゲームを選択した。


 魔力を失っている僕と違い、勇者は技のキレや威力が落ちていないように見える。一度負けている上に、こちらは当時よりも能力がない状態だ。今戦えば間違いなく倒されてしまう。やっぱり同じエンディングを迎える運命なのか。


「ちょっと! あの子、こっちに向かって来てるよ。わたし達をめっちゃ(にら)んでるし。(おう)くん、逃げようよ」

「ダメだ。ここで逃げても絶対に追い付かれる。魔王と勇者、能力は勇者の方が上なんだ」

「でもー!」


 勇者と思われる彼女は一歩一歩力強い足取りで僕らに歩み寄ってくる。竹刀を構えたままのところを見ると、もしかしたら向こうも僕が魔王と気付いているのかもしれない。


「二人は下がってて。僕はともかく、二人はただの中学生なんだから」


 一度目の魔王人生では僕が強引に配下にしただけ。今はただの友達だ。もし勇者ならただの中学生は傷付けないはず。


「ダメだよ! 烏丸(からすま)くんを一人で置いていくなんてできない。私は見張り役だもん」

「わたしだって。彼女なら大変な時こそ側にいないとね」

菱代(ひしよ)さん、田口(たぐち)さん……」


 中学生としての僕はずいぶんと二人に気に入られたようだ。僕は同じエンディングを迎えるとしても、二人には幸せな人生をこのまま歩んでほしい。

 僕は万が一の戦闘に備えて全身の筋肉に力を込めて、勇者の姿を見失わないように凝視(ぎょうし)しつつ周囲に気を配る。

 可能なら話し合いに持ち込んで、無理なら勇者に大人しく倒される。数年先の話だと思っていたけど仕方ない。


「ねえ」


 この一言をきっかけに戦いの火ぶたが切られると覚悟した。が、そうではなかった。


「ボクのこと、知ってる?」

「え?」


 彼女は意外な疑問を僕らに投げかけた。一度目の人生も含めて初対面のはず……あれ?


「どうしてだろ。なんで双葉(ふたば)さんのことを忘れてたんだろう」

「わたしもー。ずっと同じクラスなのにねー」

「……」


 菱代さんと田口さんは彼女を知っているらしい。同じクラス? こんな女子、一度も会ったことがない。


「剣道部の(なる)ちゃんだよねー? 男の人を三人も倒せるなんてやっぱり強いなー」

「双葉さんの強さを忘れるなんて、これはお仕置きが必要だと思います。ハァハァ」


 本当に二人は彼女を知っているようだ。ならなぜ『知ってる?』なんて質問したんだろう。記憶をすり替える勇者の能力だとしたら厄介だ。僕に関わる記憶を操作されたら味方がいなくなってしまう。


「烏丸くんはどう? ボクを知ってる?」

「ごめん。ちょっと学校を休んでる間に記憶が曖昧になっちゃって」


 知ったかぶりをしてボロが出るより、正直に知らないと言った方が賢明だと判断した。


「ダメだよ桜くん。彼女以外のクラスメイトもちゃんと覚えておかないと」

「クラスメイトを忘れたのは申し訳ないけど、彼女ではないからね!」

「私も人のことは言えないけど忘れちゃダメだよ?」


 二度目の人生で大まかな未来を知っているはずの僕が知らない人物。勇者にしろ、そうでないにしろ、僕のエンディングを決める重要な存在になりそうだ。


「本当にごめん。それにしてもすごい技だね。どうやって練習したの?」

「それを言ったら烏丸くんだってすごいパンチを打ったじゃない」


 双葉さんから飛び出す言葉の一つ一つが僕の心を削っていく。彼女は一体何者なのか、どうして僕以外の人は彼女を知っているのか、疑問だけがどんどん膨れ上がる。


「双葉さんケガはない? いくら強いと言っても女の子なんだから傷は厳禁だよ?」

「ありがとう。大丈夫。それにボクは傷の治りが早いんだ」

「ダメだよー。ちゃんと見てあげる。ほら、こっちにおいでー」


 両手を広げてその豊満(ほうまん)な胸で包み込もうとする田口さんを双葉さんはジト目で見つめる。

 遠目(とおめ)からだと小柄な男子にも見える双葉さんだけど、ここでそんな反応ができるのは女子特有だと思う。あの嫉妬(しっと)と諦めが混ざった目は男にはできない。


「ボクは平気だから。あ、竹刀の手入れをしないと。この技を使うとささくれちゃうんだよね」


 竹刀を袋にしまうと大事そうにしっかりと抱える。男三人にも怯まない度胸があるのに、その姿は小動物のようで可愛らしく、僕の命を狙う勇者である可能性を忘れて見惚れてしまった。


「みんな、また明日ね」


 小さく手を振って別れを告げる双葉さん。たまたま勇者と太刀筋をが似てるだけのスーパー中学生なのかも。そんな考えが脳裏をよぎると同時に、双葉さんが僕の横を通り過ぎた。


「二人きりになったら覚悟してね」


 宣戦布告とも受け取れる発言に動揺しつつも、変にリアクションをすれば菱代さんと田口さんに怪しまれるかもしれない。

 一度目の人生には居なかったはずのクラスメイト・双葉 成。彼女とは覚悟を決めて二人きりになる必要があるのかもしれない。

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