狂戦士ミナ
じゃがいも、にんじん、たまねぎ、お肉…。
じゃがいも、にんじん、たまねぎ、お肉…。
私は今日の夕飯のおつかいをしに市場に来ている、何でも砂漠地方のスパイシーな珍しい料理を作るとフィリアが言ってたのだ。
私はスパイシーな物が好きだからおつかいに即立候補した。
保存食のピリ辛のビーフジャーキーとか大好きだし、まあこの前非常袋に入ってたの食べたらカンナに怒られたけどね。
「やめて下さい!」
ん? 何だろう、喧嘩かなぁと悲鳴が聞こえた方を見ると、鎧を来た人がうじゃうじゃいて、食堂の中で給仕のお姉さんにセクハラしてた。
ありえねー、何処の国の兵士だよ、まじモラル崩壊してんじゃん。
食堂の前の野次馬の中には冒険者らしき人もいるけど、助けに行く感じは無い、ちょっと人数が多いからって見て見ぬ振りなんてとんだ腰抜けどもだ。
私は行く、なぜならセクハラは犯罪だから、確か婦女暴行罪だったっけか…確かそんなニュアンスのやつだった筈。
「そこの鎧野郎! セクハラは犯罪だから今すぐやめなさい!」
「あ? 何だこのガキ、それ俺らが誰だか分かって言ってんのか?」
「どうせ山賊とかでしょ! いいからやめろ!」
私は強い口調でやめさせようとする。
何故強い口調かというと、その方が威圧感があると前にフレア姉が言ってたからだ。
「いい度胸だガキ、俺らはグレル王国の禁軍だ、もう謝ってもおせぇぞ」
そう言った男は腰から剣を抜くとゆっくりとこっちに近づいてくるが、あまりにも隙だらけだったから背中のハルバードを突き刺してやったら、鎧を貫通してそのまま痙攣して死んでしまった。
「…弱、いや大口叩いておいてそんな弱いの? グレル王国の禁軍って大した事無いね」
ハルバードを肩に乗せた私が、苦笑しながらそう言うと、雄叫びをあげた残りの奴等が武器を抜いて襲いかかって来た。
《ミナが1人での戦闘を開始しました、自動スキル、孤軍奮闘が発動、全能力が4倍になります》
《ミナが格下との戦闘を開始しました、自動スキル、雑魚散らしが発動、攻撃力が5倍になり、防御力が1割減少します》
弱い、私はまず先頭の男の足を掴み上げぐるぐると振り回して投げると、すぐ後ろにいた数人を巻き込んで食堂の壁を突き破った。
その後、壁の穴を見て放心していた男をハルバードで突き刺し、そのまま横にいた最後の1人を斧の部分で胴体を半分にしてやった。
《ミナが10人のグレル禁軍を排除しました、祝福、暴虐の力と狂戦士の心によって、特殊スキル、皆殺しの狂戦士を強制発動、全能力が50倍になります、尚、このスキルはグレル禁軍を殲滅するまで止まりません》
《王への侮辱は血による贖罪でしか贖えない》
その声が頭の中に響き、そこで私の意識は途切れた。
………………………
ミナがおつかいに行った頃、フィリアとフレアはグレル王国の元王子、クリストが居るとの情報のあった屋敷の前に居たが、そこに広がっていたのは異様な光景だった。
「なんだこりゃ…死体だらけじゃねぇか」
「ええ…この鎧は禁軍ですね、一人一人がAランク冒険者並みの能力を持つ、グレル王国の最終兵器です」
「へぇ、それは是非手合わせ願いたかったけどな、まぁ誰がやったか知らないが、もう生き残っているのは居なそうだな」
2人はそう言って屋敷の中に入ると、目に飛び込んで来たのは大きく煌びやかだがいたるところが破壊されボロボロなホール、そこに転がる多くの死体、そして腰を抜かしている男に、ハルバードを肩に担いだ血塗れ幼女…ミナがそこに居た。
「ミナ!? お前ここでなにしてる!」
「待ってくださいフレア、様子がおかしいです」
ミナは怒鳴るフレアをじっと見ている。
「邪魔しないで」
「邪魔はしません、ですが何故このような事をしているのかを教えて下さい」
「…この人達は生きている価値が無いと、私…いや、これだと君達に誤解を与えるね…まぁ祝福が判断したということだよ」
「あなた! ミナ様の体を乗っ取っているのですか! 返しなさい! その体を今すぐ返しなさい!」
フィリアは目を充血させ激怒する、その姿は噂で聞く聖女とは思えないほどの物だった。
「怖っ! そんな怒らなくてもこの最後のグレル禁軍を殺したらちゃんと返すよ…まぁ私もミナという存在の一部だからその言い方はおかしいんだけどね」
「なら早く殺しなさい、そしていつものミナ様を早く、一刻も早く、一瞬でも早く返しなさい」
フィリアは自分の兄を冷たい目で睨みつけながら指を指して尋常じゃないくらい急かし始めた。
「ふぃ、フィリア、俺はお前を探して…」
「うるさいです! 黙って早く殺されなさい!」
「まぁまぁ、話くらい聞いてあげようよ」
「あなたも早く殺しなさいよ! 」
「フィリア! 俺はお前を新たな王国の王妃に…」
クリストがそう言った瞬間、ミナのハルバードが振り下ろされ、クリストの首が吹き飛んだその瞬間、ミナが崩れ落ちた。
《グレル禁軍の完全殲滅が完了しました、特殊スキル、皆殺しの狂戦士を終了します》
フィリアが急いで抱き抱えて見たミナの顔は、とても安らかな寝顔だった。
…………………
「あれが魔王の力の一端か……素晴らしい…なんという力強さ…そしてなんという美しさだ!」
フィリア達が去った後の屋敷の中で男は顔を真っ赤に染め、震えるように自分の体を抱きしめながらそう呟いた。
「あの少女…いやあの御方こそ我等の王に相応しい、あの御方の圧倒的な力なら全ての魔族の統一も夢じゃない! まずは御目通りをしなくては、どんな服を着ていけばいいか…いや買いに行くか、あの御方の前に立つのに失礼にならない様に」
そう呟いて男はそわそわしながら闇の中に消えていった。