幼馴染襲来
あれから、調査の報告をして家に帰る途中、私は遺跡で拾ってきた玉を出すのを忘れた事に気付いた。
「ねぇ、報告の時拾った玉出すの忘れちゃったんだけど…どうしよう?」
「ん? あぁ、あれは出さない方が良いぞ、詳しい事は言わないが、余計な騒動に巻き込まれる事になるからな」
「…なるほど、おかしいと思ってたのですよ、遺跡の調査にわざわざ六天を派遣するなんて、普通あり得ませんものね」
何だ? 陰謀の香りがする。
例えると、村に伝わる7不思議と同じ感じ。
やべぇ、わくわくしてきたんだけど。
「ふーん、流石は元王女、裏を読むのは得意みたいだな」
「まぁ…そういう世界で育ちましたからね、それより…あれは本殿なのですね?」
「ああ、その通りだよ、1つ付け加えるなら白の光神殿だがな」
光神殿って何? まずはそこの説明から始めようよ。
この2人は本当に初心者に優しく無いよね。
「ねぇ、光神殿ってなに? 話についていけないから教えてよ」
「おお、じゃあ優しいお姉ちゃんが教えてやろう、光神殿っていうのはな…」
「待ちなさい、ミナ様への説明はわたくしが手取り足取り致しますので、あなたは何処かに行っていていいですよ」
「おいおい、妹に物教えるのは姉の役割だろう、奴隷は引っ込んで家事でもしてろよ」
待て、何故こんな事で争いが始まるのさ。
心狭すぎじゃない? それとフィリア、教えるのに手取り足取りは必要ないからね。
「久しぶりミナちゃん、光神殿っていうのはね、白、黒、赤、青、緑、黄、紫の7つの本殿と、それに連なる14の神殿の総称だよ」
「ふーんそうなんだ、それと久しぶりカンナ」
背後から抱き上げられ、誰だと思ったら1歳の頃から付き合いのある幼馴染のカンナだった。
「うん、どこ行ったのか心配してたんだから、はい、久しぶりの挨拶のちゅー。」
「は?」
「あ?」
カンナはそう言うと、当たり前の様に抱っこしている私の口に普通にキスをして、幸せそうにしている。
「ちょっとあなた、何してやがるんですか? もしかしてわたくしに殺してほしいという、遠回りなアピールですか?」
「ああ、多分そうなんだろう、おいそこの淫乱女、首を出せ、2秒で地獄に送ってやるよ」
「えっと…ミナちゃん、この人達は?」
何が起こった? フィリアとフレアの殺気が半端じゃない事になってるんだけど…こめかみに青筋が浮かんでるし、目線だけで人を殺せそうだよ。
何とか空気を変えなければ…!
「えっと…この2人は、私の奴隷のフィリアと、姉になったフレア、それで今私を抱っこしてるのが、幼馴染のカンナだよ」
「カンナと申します、いつも私のミナちゃんがお世話になってます」
「これはご丁寧に、フィリアと申します、ちなみにミナ様はあなたの物ではございません」
「フレアだ、ミナは私の妹だ」
…空気が悪い。
うまく方向転換したと思ったんだけどなぁ。
「それより、何故ミナ様にいきなりキスなどしたんですか? 答えによってはここで死ぬという事を良くご理解頂いた上で慎重にお答え下さい」
おい何言ってんだ。
それ言葉が丁寧な脅迫だからね。
言われた方は威圧感しか感じないよ。
「? あぁ! あれはただの挨拶ですよぉ! 小さい頃からずっとしてきたんで、今も続けてるだけです、ね? ミナちゃん」
「うん」
「そんなの不健全…」
「待って下さい!」
フィリアがフレアが何か言おうとするのをすごい剣幕で止めた。
「なんだよ?」
「よく考えて下さい、これってわたくし達も便乗できるのではないですか?」
「なっ!?」
「だとすれば毎日おはようのちゅー、おやすみのちゅーとかやり放題ですよ? フレア、あなたはこのチャンスを逃せますか?」
「いや、フィリアの言う通りだ、興奮してすまなかった」
2人の話し合いは終わり、早足で近づいてきたフィリアがカンナから私を奪い取った。
「ミナ様、わたくし達も挨拶のちゅーをしましょうか」
挨拶のちゅー? 今までそんなんしてないのに急にどうしたんだろう?
まぁ…いいけどさ、村ではカンナといつもしてたし。
「うん」
「じゃあ次は私とするか!」
なんだこの2人、テンションやばくない?
結局2人ともして、話を進めてもらう事にした。
横道に逸れすぎなんだよ。むしろ反対方向に言ってたと言っても過言じゃない。
「早く神殿の話続けてよ、私気になってるんだから」
「そうですね、じゃあ白の光神殿って事は…皇帝は宝玉を探しているのですか?」
「正確には皇帝が盲信しているデイライト教国が探しているだな、理由は…言わなくても分かるよな」
わからんわ。
誰でも5教えて10理解出来るわけじゃないんだよ。
私とカンナは1教えたら1しか覚えられないんだよ。
教えと覚えの比率が同じな一般人なんだ!
「ふーん、召喚した勇者に必要ってことかな? 」
カ…カンナァァァ!
あなたは私と同類だと思ってたのに!
裏切られた…許さんぞ!この、インテリ巨乳が!
「まぁそうだろうな、全く…勇者なんて何の役に立つんだかなぁ」
「ですね、あの教国もうさんくさいですし、関わりたくないですね」
「じゃあこの玉どうする? 探してる人がいるなら元の場所に返してきた方がいいのかな?」
「そうだなぁ…そこら辺に埋めとけば良いんじゃないか?」
フレアがそう言ったので、すぐ近くの教会の花壇に埋めた。
よし、厄介事が1つ消えた。
そして家に帰った、何故かカンナも一緒に。
「ねぇカンナ、村に帰らなくて良いの? 彼氏のアレンが待ってるんじゃない?」
「何の話? 私彼氏なんて生まれてから一度も居ないんだけど」
「え? でもアレンがカンナと付き合うのに私がくっ付いてると邪魔だからカンナに近付くなって言われたんだけど」
「はぁ…だから最近少しよそよそしかったんだね、アレンの言ってる事は嘘だから気にしないで、あいつ後で絶対殺すから」
嘘だろ…って事はアレンが語っていたカンナが婚約者とか一緒に暮らす予定とか全部デタラメかよ!
アホか…15でまだ妄想の国の常連さんやってんのかよ、変な薬でもやってんじゃないだろうな。
なんか一周回って心配になってきたよ。