祝福の日
この世界には祝福というものがある。
全ての子供は15歳になると教会で洗礼を受け、自分が持つ祝福がどういうものなのかを知ることになるのだ。
そして私、ミナもつい先程洗礼を受け、自分の祝福を確認し…絶望した。
………………
私の名前はミナ、村娘なので名字は無い。
歳は15歳で母親ゆずりのふわさらな金髪が自慢の平民です。
今私は、同じ村から洗礼を受けに来た友達とカフェで話をしている。
ちなみに内容は当然祝福の話だ。
「ねぇミナちゃんの祝福はなんだったの? 私はねぇ、《天使の手》と《慈愛の光》だってさ! すごくない? さっきなんて教会に聖女候補になりませんかってスカウトされちゃったよぉ」
確かにすごい、天使の手なんてSランクの祝福だし、慈愛の光だってAランクだもんね、しかも2つとも回復特化だし、そりゃスカウトもされると思う。
それに比べて私の祝福ときたら…。
「私の祝福は…《暴虐の力》と《破壊神の剛腕》それと《狂戦士の魂》だったよ…」
「……そっか」
やめて…気持ちはわかるけど、そういう反応はやめて。
そりゃこの祝福のレパートリーじゃ、冒険者や傭兵とかの暴力を生業にする職にしかつけないだろうけどさ。
「でもほら! 超レアな祝福ばっかだし、全部冒険者とかが喉から手が出るくらい欲しがる強力なやつだから上手くいくと思うんだよね!」
「でもミナちゃん身長132cmしかないし…体重も27kgしかないじゃない、その超絶ロリ体型じゃ、ろくに仕事貰えないと思うんだけど…」
「…そうだね、確かに私はカンナみたいに背高美人でおっぱい大きくないけどさ、ケンカに負けた事はないから大丈夫だもんね! カンナのばーか! おっぱいお化け!」
「あ! ちょっとミナちゃん!」
私はそう捨て台詞を吐きカフェを出て、その足で冒険者ギルドへと向かった。
…………………
私は冒険者ギルドに着くと、冒険者達に舐められないようにと両開きのドアを勢いよくバン! と開けて、ズカズカと茶髪の美人受付嬢の前まで歩いた。
「いらっしゃいお嬢ちゃん、今日はどうしたの? パパとママは一緒じゃないのかな? 」
「私は15歳、お嬢ちゃんじゃない、今日は登録に来たの」
「あらそうだったの、じゃあはい、この紙に必要事項を書いてね」
受付嬢はそう言うと、私をカウンター越しに抱っこし膝の上に乗せると、机の上に紙とペンを置いた。
「普通にイスに座って書きたいんだけど」
「遠慮しなくていいのよ、えっと…ミナちゃんだけに特別サービスよ、皆羨ましがるんだから」
受付嬢が紙に書かれた私の名前を見て、頭を撫でながら親しげに呼んで来た。
そしてギルドの酒場にいる冒険者たちは膝の上の私を見て確かに羨ましそうにしてるのが見えた。
「はい書き終わった、降りるからイス引いて」
「あらまだ質疑応答が残ってるからダメよ」
「普通そういうのって対面に座ってするんじゃないの?」
「はい始めるよ、じゃあ私は受付のメリル、ミナちゃんは…あらすごい、祝福を3つも持ってるのね、えっと暴虐の力に破壊神の剛腕、狂戦士の魂って…完全に狂戦士じゃない、しかも全部ランクSの祝福とか…」
受付のメリルさんは私の言葉を完全無視して話を始め、狂戦士呼ばわりし始めた。
「じゃあ志望動機とか聞いちゃおうかなぁ」
「志望動機は友達のカンナに馬鹿にされたから有名な冒険者になって見返してやろうと思ったの」
「そう、立派な理由だと思うわ、じゃあ合格ね、はいこれギルドカード、ランクはFからだからね」
「ありがと、じゃあ魔物退治に行ってくるから」
私はそう言って膝から降り、ギルドの入り口に歩く。
…………………
私はイース、またの名をメリル、グラスの街の冒険者ギルドの受付嬢をしている元Sランク冒険者だ。
何故辞めたか、それは単純に飽きたから、魔物は弱いし山賊も私の名前を聞くと抵抗もせずに投降、つまらない、つまらなすぎる。
だから辞めて偽名で受付嬢になったけど、これも正直飽きてきた、下品な目で見てくる馬鹿な男の冒険者に、私に嫉妬する愚かな女冒険者、毎日こいつらの相手をするのは苦痛でしかなかった。
だけど今日はとても面白かわいい子が来た。
名前はミナ、外見は9歳位にしか見えない小生意気な感じの子だった。
ちなみに髪はふわふわでまるで赤ちゃんみたいだった。
なのに祝福は超攻撃特化の狂戦士仕様の構成というちぐはぐさ、私は久しぶりに面白いと思った。
私の予想だとあのぷにぷにのおててで繰り出される一撃はドラゴンの鱗をも砕き、短い足から繰り出される蹴りは、オーガを木っ端微塵にするだろう。
そして恐らくあの子はこの街ですぐに有名になる。
私はその過程を楽しもうと思う。