あなたの願い、聞くだけ聞くよ
人間は儚いものだ。
そらを見上げながら僕は思う。
長くて100年、80年も生きれば十分だという。
そんな短い時間のなかで彼らは懸命に生きようとする。
僕はここから人間たちを見てきた。
時に争い、時に励まし、その人生を謳歌する。
人間を醜いと思う。
自分以外の存在を平気で蹴落とすし、嘯くし、騙す。
こんな不完全な存在を神はなぜ作ったのか。
そう聞くと「なんとなく」とだけ答えた。
神様も勝手だよな。
人間たちは神様に頼る。
形だけの神社にお金をいれて手を合わせる。
願い事が叶いますように、って
僕みたいな存在は願い事は叶えることはできない。
だって結局は自分のチカラでどうにかしなきゃいけないから。
ほら、またやってきた。
年端もいかないちっちゃな女の子。
学校帰りなのかランドセルを背負ってる。まだピカピカの赤いランドセルはちょっと大きそうだ。
握り締めた5円玉を賽銭箱に放り込んで、両手を合わせる。
「お父さんとお母さんが仲直りしますように」
目をギュッと瞑って、必死にお願いしてる。
そんなお願いをしても、僕はなんにもできないよ。
と、届かない声で伝える。
女の子は振り向いて、僕を撫でる。
「狐さん、お願いね」
といわれてもね。
女の子は少し元気をとりもどしたように軽い足取りで石畳を歩いていく。
翌日も、その次の日も毎日願い事をしに来た。
でもある日からぱったりとこなくなってしまった。
来るたびに僕を撫でていくのがうっとおしかったけど、まあ、悪くはなかったかな。
季節も変わり、葉が落ちてきた頃にまた女の子が来た。
今度は賽銭箱には行かないで僕に話しかけるように。
「おとうさん、帰ってこなくなっちゃった」
一言だけ。
まあ、そうだよね。
お参りだけで、全部が全部叶ったら神様も大変だからね。大体のことはかなわないよ。
と言ってもまだ君にはわからないか。
まあ、人生これからだよ。頑張ればいつか報われると信じて頑張ってみな。
一人ごとを言うと、首輪の鈴がチリンと鳴った。
女の子に伝わったのかわからないけど、「がんばる」とだけ一言。
僕は願いを叶えたりしない、聞くだけ聞くよ。
君たちは気づかないかもしれないけど、ずっとここで見守ってるから。
願い事はかなわないという前提で生きている。
でもできることはしておきたいかな、