惚れたおっさん、人柱
私、リリカ・リリーナ・アリステラ。
ただの文学少女です。あ、一応魔法もできますよ?
そんなわけで毎日のように王立図書館に通っているのですが、最近気になる人ができました。
その人は別にこっちをちらちらとわざとらしく横目で見てはいつ気づくかと期待してる第三王子や、眼鏡をかれこれ33回あげては二時間ほど片手で本を持ち続けてる魔法研究所の教授でもない。
そこで本をせっせと片付けてるいかにも冴えていないおっさん、それこそが私の本命。
あのところどころ跳ねた髪と無造作にひとつ結びした後ろ髪、のほほんと呑気な顔立ちで若干低い背丈。私の好みに完全どストライクな彼の名はルーク・ブライアン。
この王立図書館の司書、38歳独身、産まれは西地区商業街の書店の一人息子。既に両親は他界し、親戚などもいないので現在は北地区総合住居にて一人暮らし。──え、知り尽くしてるじゃないかって?まあそれはともかく、誰に対しても愛想を振りまいている彼を見ていれば分かる。
あの人は、多分この国で最もお人好しだ。
だから必然だったのだろう。それでもあんなことになるなんて。
突然図書館の入り口側が騒がしくなった。
一体何事だと誰もが入り口に視線を集中すると、わらわらとまるで蟻のように兵士達が集まってきた。
これに一番驚いたのはあの第三王子と魔法研究所の教授だ。しかし兵士達は彼等を素通りしてその奥にいた彼、ルークに声をかけた。
「ルーク・ブライアンだな?」
「え……ええ、はい。そうですが……」
「巫女姫より城上げの令状が下されている。我々と共に来てもらおう」
「はあ……」
なんと、あの巫女姫が彼を呼び出したと。
巫女姫とは1年程前に行われた異世界召喚の末に呼び出された最後の異世界人だ。他二人はどちらも男で、一人は冒険者として旅立ったがもう一人は城仕えの騎士として城に残っている。
しかし最後の異世界人、つまり巫女姫となった少女を我が国は最も欲していた。何しろ異世界人の少女は特に強い魔力を兼ね備えている可能性が高い。
そして彼女が召喚され、魔力鑑定を行った結果予想していたよりもはるかに質の高い魔力量を誇っていた事が更に彼女の価値を高めた。
おかげで、かの巫女姫は王城の一角にある聖域で安心安全絢爛豪華な日々を謳歌している。
しかも話によれば数多の男と恋に落ち、それを囲っているという。その男達はどれも才能に溢れ若く美しいというのに対して巫女姫の呼び出しを受けたルークは平凡極まりなく、ましてや美丈夫という訳でもない。
……嫌な予感がした。
あの巫女姫は自分の思い通りにならないと我儘を言う女だ。
以前にも自分が囲う男の婚約を揉み消し、相手方を没落にまで追い込んだと言うのは私達の間では有名な話だった。本当は、誰もがあの巫女姫を見捨てたいと、見限りたいと思っている。
けれど、キッカケがなかった。彼女は私達にまだ何も手を出してはいない。
それでは契約に反してしまう。
故に、私達は機会を伺っていた。あの巫女姫を見限る絶好の機会を。
「カース」
「はっ……はい!」
傍で同じように不安に駆られていた第三王子を呼び付ける。気づいてくれないと思っていたのか私が呼んだ事にたいそうご機嫌になってる辺りやはり恋愛対象としては見れない。うん、残念。顔は良いのにね。
と、もう一人悔しそうに歯軋りしていた魔法研究所教授のルシオも呼んでおく。というよりも、この二人にはこれからの事を話しておかないといけないのだ。私の話を聞いた二人は予想通りに顔を青ざめ、はくはくと魚のように口を開閉する。
「何、私がそんなお人好しに見えた?でもこれは約束の内容の通り。先に破ったのはあっちなんだから自業自得じゃない」
「ですが、それでは我々は……!」
「というか多分私の予想があってれば全員の怒りを買うことになるわよ、あの巫女姫」
「な、」
だからどちらに着くのか、それをはっきり決めなさい。二人に告げた言葉があまりにも残酷だという事は知っている。けれどこの二人だって、私にばかりかまけて家族や仲間の暴走を止めなかったのだから仕方がない。
二人も勿論それを分かっているらしく、同じく私を慕う者達への言伝を請け負った。
……後で、少しは慰めてあげないととちょっぴり可哀想に思いながら、私は城へと向かう。
***
「ひとばしら……?」
目の前の愛らしい笑みを浮かべる少女の言葉に、私は世界が真っ白になったかのように見えた。
「そうです。この度貴方は女神の選択により人柱に選ばれました。この国の為、民の為、どうかその身を捧げて下さい」
人柱。それは、女神に選ばれた人間が身体を、心を、全てを捧げる儀式。長らく行われなかったはずの儀式が、何故か自分の代で回ってきた。
しかもその対象が自分だというのだから開いた口が塞がらない。
巫女姫はつらつらと如何にこの人柱の儀式が国の為に必要かを説いているが、私は既に儀式について詳しく知り尽くしていた。司書の仕事や、趣味がまさかここで生かされるとは思ってもみなかった。
そして知り尽くしているからこそ、それが決して間違いを起こしてはいけないものだとも。
「……恐れながら、巫女姫様」
「はい、なんでしょうか?」
「ひとつだけお尋ねしたい事がございます。私をお望みになられた女神とは、どの女神なのでしょう」
「不思議な事を言いますね。女神は一人だけではありませんか」
がつんと頭を横から殴られたような錯覚に陥る。ああ、ああ!この巫女姫は知らない!知らずに口にしているのだ!
なんて愚かなんだろうか。恐らく、巫女姫の知る女神に選ばれたのは彼女の背後に控える数多の男の誰か。けれど私がそれを口にする術はない。問いかけたが最後、私は不敬罪で死ぬ事になるだろう。
どちらを選んでも、私の後ろには死が続く。
ならばなるべく被害の少ない方へと回れば良い。
「……仰せつかりました。私の身がこの国の為に役立つというのなら、この身喜んで捧げましょう」
「まあ!ありがとう!」
そう言って微笑む巫女姫の笑顔が歪んでいる事に、私は気づかないふりをした。
聞けば儀式はすぐに始まるという。ぎりぎりまで代役を探していたのだろうか?何という執念深い少女なんだろう。
周囲の男は不安そうな顔などひとつも浮かべていないところを見ると、少女が大丈夫だと言い聞かせでもしたのかもしれない。……全く大丈夫ではないというのに。
深い青で染められた湖の真上に架かる一本橋。まるで落ちる為だけに作られたそれの上で、私はじっと水面を見つめる。
人工的に作られたあの青は全て身体を溶かす毒であり、入ったが最後ものの僅かで死に至る。だけど、ああ、書物で読んだよりも美しい色だ。
最期に、あの人を一目見ておきたかった。私を失ったらどう思うだろうか。魂だけとなった私でも、ちゃんと見つけてくれるのだろうか。
「(願わくば、もう一度──)」
「ルーク・ブライアン!さあ、前へ!」
巫女姫が高らかに、歌い上げるように命令を下す。
震える足先の感覚を無視して、私は宙へと躍り出た。
一秒、二秒。
三秒────?
……おかしい、あの高さならすぐに湖に落ちる筈なのに、私はまだ息をしている。
いやそもそも、妙に浮遊感が続くような。
「あ……貴女、誰!?」
巫女姫の叫びに恐る恐る両目を開いた。きつく閉じていたせいか、急に入ってきた光はやけに眩しい。しかしそんな事よりも目の前にあの人の顔がある事の方が驚いた。
「テ……テーラ、様?」
「やっ、愛しい子。もう、勝手に死のうとしちゃ駄目でしょ?」
絹のような白銀の髪に艶やかな浅黒い肌はこの世界の誰も持ち合わせない色。ただ一人、大地を司るこの方だけが許された色だ。
「何故、ここに。いえそれよりも!テーラ様がいるという事は……」
「そ、私達も気付いてる」
「……よく、間に合いましたね」
「間に合うも何も、私ルーちゃんのこと影ながらずっと見守ってきたんだよ?姿変えまくって」
「お待ちください。テーラ様、それはストーカーというものでは」
「あはは、細かい事は気にしなーい、気にしない」
談笑に近い会話を湖の上で繰り広げる二人を他所に、その頭上ではわなわなと震える女が一人。
「なんで!なんでここで死なないの!あんたが死ななかったら、小説通りになっちゃうのに……!」
「……はぁん、成る程ね?つまりこういう事だ、巫女姫。そこにいるルークイット・グリフィスを助けたいが為に代役を立てた、と」
私を伴って巫女姫の前に降り立ったテーラ様は、何処となく怒りを含ませた口調で淡々と語りだす。
「そりゃ、愛した男が突然女神の人柱に選ばれるなんて驚くね。嘆いて喚いて、その運命を捻じ曲げようとするのはよぉく理解できる。
けど、まあ。私は理解するだけだ。可哀想なんて思いはしないよ、巫女姫ちゃん。
貴女とてよく理解してる筈。この世界は運命の通りに動いてる。そしてその強制力が止むのも、もう目前だったという事に」
やれやれ、と首を振るテーラ様の背後に控えながら巫女姫の顔を覗き見た。わなわなと震え、怒りで今にも怒鳴り散らそうな雰囲気を漂わせながら、先程名を呼ばれた青年を守ろうと果敢にもテーラ様の前に立ち塞がっている。
警戒すべきは、そちらではないのに。
「巫女姫、貴女は多くの間違いを起こした」
「嫌よ!ルークイットは渡さない!全員私の大好きな人なの!皆愛してるの!」
「第一に、貴女は運命力をねじ伏せようとした。しかし運命はとある地点までいかないと変わる事はない。
第二に、貴女はルーク・ブライアンを人柱にしようとした。他の人間なら、まだ罪は軽かったかもしれないのに。
何せ彼は私の加護下にいる人間の中で最も愛された子だから。
第三に、貴女は愛しすぎた。
全員が幸せになるなんて、到底無理な話だったのに。
そして最後に──
……貴女は、女神を裏切った」
その瞬間、悲鳴が響き渡った。
悲鳴の主は守られていた筈のルークイット。見ると頭上まで持ち上げられており、まるで宙吊りの状態に巫女姫の顔色がどんどん青ざめていく。
「ルークイット!やだ!やめて!お願いします!私はどうなってもいいから!だからルークイットを降ろしてぇ!」
「ああ、それは無理。だってあれは私じゃないから」
「……え、」
巫女姫がもう一度ルークイットを垣間見た時、漸くその姿が現れる。
彼を持ち上げるのは透き通るガラスのような肌の女性。流れるような金色が神々しく輝いている様は、正しく女神そのもの。
「めがみ、さま」
「……叶。そなたには失望した。全てを愛するならば、一人を切り捨てよ。私はそう告げたのに、そなたは欲を優先した。
愚かな、愚かな愛しい子。だからせめて、妾の手で裁きを下そう」
「い、や……いやぁ……ルークイット…………」
ルークイットが投げ出される。その先にあるのは、青い湖。
その身体が湖に飲み込まれた途端、ぼこりぼこりと青と赤黒い色が混ざった泡が湧き出る。悲鳴をあげさせる時間もないまま、青年の命は途絶えた。
「ああ……!あああ……!」
絶望か、はたまた発狂か。
巫女姫が地に伏せ、ぶつぶつと青年の名を呼び続けるのを傍に、巫女姫の真の名を呼んだ女神がテーラ様の前に降り立った。
「さて、テーラ。そなたは如何する?」
「そんなの決まってる。運命力の力も消える今、漸く私も自由に動けるからね」
「ならば、そうか。寂しくなるな」
「こっちも面倒毎押し付けてごめん」
「構わん、元より全ては私の責任だ」
二人の話にいまいちピンとこなかった私は、次の瞬間テーラ様に再び抱き抱えられた事で漸く事態を理解する。
「それでは諸君!私は、否、大地の女神テーラは此れより運命の女神デステニアの下から旅立とう!
悲しい事にこの地へ長く分け与えていた我が加護は消え去るが、そもそも先に私の愛し子に手を出した貴方達が悪い。詰まる所、自業自得ってもんさ」
巫女姫は聞こえているかどうか分からないが、他の男達は何やら喚き立てている様子が遠くから見てもよく分かる。そんな光景にテーラ様は呆れたようにため息をついた。
「ああ、ついでに言うと。他の女神も同意見らしいよ?残念だねえ、本当に残念だ!
貴方達は無様に滅びを迎えるしかない!泣こうが喚こうが!女神に許しを乞おうが!
全て無駄!全てが終わり!ははっ──もう、諦めるしかないね?」
阿鼻驚嘆というのは、此れを指すのか。そう頭の中でテーラ様の言葉にあらゆる表情をみせる彼等を横目にその腕に包まれたまま空へと上昇した。
息苦しかった聖域の森から脱出して、ふと下を見下げると彼方此方で煙が立ち込めている。
「……テーラ様、あれは」
「んん、多分私達が加護下の民へ神託を送ったんだろうね。此処から彼方此方へ亡命したり新たな国を発足したりするんだよ」
当たり前のように答えたテーラ様は、ひとつの民衆の前に立つ。民衆の最前には比較的まともだが、テーラ様を病的に崇拝してると噂の第三王子と魔法研究所の大教授がいる気がしたが、テーラ様は彼等の視線すら無視して話を進める。
「さて、これで全員かな?じゃあ出発しよう。目指すは南西、土にまみれた我が麗しの土地!」
老若男女の民衆の雄叫びが街の一角を震わせ、私達は前進する。
「テーラ様」
「なあに?」
「あの時の約束、忘れていなかったんですね」
私の問いかけに一瞬驚いたように目を丸くすると、直ぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「当たり前さ。いや、忘れるわけがない。あんな大事な約束をね。その時の光景は今でもはっきり覚えているし、あの瞬間この身が喜びに打ち震えたんだから!なんなら一回逝きかけたよ。あっこれは比喩的な表現で、」
「……あの、そういうのは確か変た、」
「さあ行こう!私達の世界が待っている!」
私の言葉を遮って高らかに民衆を鼓舞するテーラ様に呆れながらも、繋いだ左手をそっと握り返した。
***
ある世界の話をしよう。
そこは運命に翻弄された世界だった。誰も彼もが運命の通りに生きるその世界は、とある運命の女神が作り上げた世界だった。
彼女はその運命の通りに世界が進むのが嬉しかった。故に、彼女は世界全てを愛した。
しかし、時間が経つにつれて女神の力は徐々に弱まっていった。人間が増えた事により、運命の輪から外れるものが現れ始めたのだ。
危機感を覚えた女神は自分の片割れを生み出す。即ち、新たな女神である。
しかしその女神は別の力を持ちながらも、人には認識されることはなかった。
女神がどんなに新たな女神を生み出しても、その世界にとって運命の女神ただ一人が、彼らの女神でしかない。
数多に作られた女神は行き場所が無く、仕方なく運命の女神の背後で彼女を支えることしかできなかった。
だが、ある日の事である。
末端の女神として生きていた女神が運命の女神の指示により人間を観察するため、扮装をして地上に降り立ったのがキッカケだった。
人間のふりをして大地を闊歩していた女神は、ふと草原に寝転がり本を読みふける少年の横を通り過ぎた。
あっ、と。少年が声をあげる。
女神が何事かと振り返ると、すぐ傍に少年が近づいてきた。しかし彼は女神に見向きもせず、その足元にあった白い花へと手を伸ばした。
良かった、間に合った。そう言いながら、少年が指先に乗せたのはこれまた小さな蜜蜂。良く見れば翅が破れておりうまく飛ぶことが出来ないようだ。
もしや、このような小さな命が踏まれる事を危惧してこの私を止めようとしたのだろうか。
女神の思考は物の見事に当てはまる。少年が女神の歩みを引き止めたことへ謝罪をして来たからだ。
そこで女神は好奇心が湧いた。
この少年は私に意味を見出すのだろうかという、言わば存在意義への渇望。
さも日常風景の会話のごとく、女神は問う。
「少年よ、この世における神が数多いるとすれば、貴方はどうするのか」
すると少年は可笑しそうに笑う。
女神は一人ではないのか、本にはそう書いてあるのに。
途端に女神は詰まらないといった表情を浮かべる。無論、少年の位置からはよく分からない顔色だ。
この子供も、他の人間と同じなのか。僅かに期待していた分喪失感は計り知れない。
しかし、次に少年が口にした言葉に女神は彼から目を離せなくなる。
「でも、可能性はあります。そうだったら、僕はその他の女神様を一目見てみたい。だって姿形や、女神様の力を見ない限り、そこにいる事なんて誰もわかる筈がない」
少年の言葉は的確なものであった。
確かに、他の女神たちはただ生まれ落ちただけだ。その全能なる力を人前で晒したことはない。
そこで女神は、自分達の前提が違ったことに漸く気付く。気付いてもらうのを待ってから力を出すのでは無く、気付くように力を徐々に顕現させる。
そうでなければ、人間は神なんて存在に見向きもしないのだ。
少年はその前提を女神に教えた最初の一人であった。故に女神は乞う。
「貴方に我が名を与える事を許そう。
その名付け親の証としてそなたの願いをひとつだけ叶えよう」
随分と上からの発言であったが、少年は面白半分で彼女に名をつける。
「この草原を歩く貴方の姿は、まるで大地が貴方の物のようでした。
ですから貴方のことはこう呼びましょう。
──大地を歩く者と」
不意に、眩い光が少年の視界を覆った。
次の瞬間には彼女の姿は無く、しかし少年の耳には確かに声が届く。
「少年よ!私は今自己を得た!
私は正しく大地の女神、テーラそのものである。
ああ、この事を早く私達に伝えなければ
しかして少年よ。約束通り、貴方の望みを叶えよう。
全てを願え、さすれば貴方は全治なる者となろう」
少年は未だに状況が飲み込めない状況だったが、それでも彼はこう願った。
「ならば、知恵を。ひと月に一度、僕に本をお与えください。僕の家はなにぶん裕福ではないので、古い本しか持ち合わせていないのです」
そのような願いなど予想していなかった女神は、ひとしきり大笑いしてしまう。訝しそうに眉をひそめる少年に、女神は慌てて笑いを堪えるとそれでは、ともうひとつ約束事を付け足した。
「なんと無欲な子だろうか。なんと素直な子だろうか。ああ、大いに気に入った。
ならば、少年。私は貴方に約束をしよう。
残念ながら、この世界には運命力が蔓延っている。
……運命力、というものが何物であるか、いずれ知る時が来よう。
しかし、その力の強制力が消えた時、私は貴方を迎えに行こう。私の愛しい子。
そうして、新たな大地を、どうか共に歩んではくれないか」
女神の言葉に、少年はしばし思考を巡らせてから小さく、それでもはっきりと頷いた。
それを見届けた女神は満足気に彼の頬を風を呼びよせてひと撫でしてからその場を後にした。
運命の女神へ、そして他の女神へ、事の全てを伝える為に。
そして三十数年ほどの時が流れた今、女神とあの時の少年は遠い砂漠の土地で今なお幸せに暮らしてるという。