運命の出会いの前日談
新連載始まります!
あまり小説を書き慣れてないので辻褄があわなかったり、拙い文章になってしまうこともありますが、その時はご指摘をお願いします!(保険をかけるヘタレの鑑)
もちろん、そうならないように頑張ります!
「...フランさーん」
えーと、食料は足りてますね。げっ、商人からクレームきてるじゃないですか。これは上と相談するしかないとして...お、冒険者ギルドもやりますね、しばらくは景気も安定してくれるでしょうか。それから...
「フランさーん、フランさーん!」
……なんでこんなに騎士団に資金が降りてるんでしょうね、犯罪が起きたわけでもないでしょうに……って、王族!? なんで王族!? しかもこんな金額何につかうんです!? 一つの村一ヶ月はもたせられるじゃないですか!? 何か大きなイベントありましたっけ...
「フランさーん、フランさーん!!!」
…………こういうときは本当に厄介なんですよね。質問しようにも私と関わりたいやつのほうが少ないし、肩書きのせいで表立って動けないし...ま、考えても仕方ないか。
「フランさーん、耳悪くなったんですかー? フランさーん!」
「ちゃんと聞こえてる、ただ流してるだけだよ」
「それ、やられてる側のダメージが大きいの自覚してます? それから昼食のときぐらい休んでくださいよ」
「リースちゃんだって、紙くずが転がってる場所に来ていい身分じゃないでしょ。一応この国の王女なんだからさ」
「一応は余計ですよ...本当にその通りで何も言えないですけど」
それでもリースちゃんは納得がいかないのか、小さな頬をめいいっぱい膨らませながら、くりっとした瞳で私を睨んでくる。もっとも九歳であるリースちゃんに睨まれても全然怖くない。むしろその可愛らしい表情に癒されるぐらいである。
そんなわけでリースちゃんの膨れっ面を見て癒されながら、目に止まった資料をどんどん仕分けていく。
「............相変わらず手は止まらないのですね」
リースちゃんは一瞬だけ寂しげな表情を浮かべるが、すぐに満面の笑みに戻ってくれた。そしてそのまま、くるりと身体を反転させ、近くにあった長椅子を金色のポニーテールを揺らしながら私の隣まで引っ張ってくると、ちょこんとそこに腰を下ろした。
「...ところでフランさん、さっき不機嫌そうにしていましたが、いったいなにを見ていたのですか?」
「あ、ちょうどそのことについて聞きたかったんだよ。王族が金を使ってるみたいなのよ、しかもかなりの金額を」
私はお金の用途とそれに使った金額の報告書をリースちゃんに手渡す。
「ええと、これは」
「リースちゃん、心当たりない? 竜の血に大量の魔石、かと思えば女性用のドレスにシーサーペントの舌...素材、洋服、珍味、統一性のないものばかりなんだけど」
「それは、その、心当たりはあるのですが」
私は一度仕事の手を止めてリースちゃんに視線を移す。
リースちゃんは艶々した金髪を弄りながら私から視線を外している。
それは言いたくないことを隠しているときのリースちゃんの癖だった。
「お願い、教えてくれないかな。少しでも情報が欲しいの」
私はリースちゃんに頭を下げる。するとリースちゃんはあたふたしながら私に顔をあげるように懇願してきた。
「い、いえ、教えるのは全然構わないんです、でも、その、フランさんには言いにくいというか、その...」
私はなにも言わずにじっとリースちゃんを見つめる。うっ、とリースちゃんは息をつまらせると私の無言の圧力に耐えきれなくなったのか、ゆっくりと重たそうに口を開いた。
「えっと、その......もうすぐあるみたいなんですよ......『勇者召喚の儀式』が...」
…
……
………
…………
……………
太陽が仕事を終えて地平線に沈もうとしているころ、リースちゃんに仕事を手伝ってもらって今日のノルマを最速で達成させた私は憂さ晴らしのために、王宮内での数少ない協力者のうちの一人であるシルヴィア夫人の部屋へと足を運んでいた。
今回は憂さ晴らしのついでに掃除をすることになったので、黒のシンプルな半袖に膝丈ほどの長さの紺色のミニスカート、その上から余り物の布で作った簡易エプロンを着用し、灰色の頭巾を被っている。
まあ、いわゆる雑用係の格好をしているというわけだ。
思いっきり背伸びをし、頭巾を少しいじくり、一通りの掃除用具があるのを確認してから、コンコンと、リズムよくドアを叩いた。
「シルヴィア夫人、雑用係です」
私がそう言うとバタバタと部屋の中から騒がしい音が聞こえてくる。しばらくの間その音に耳を傾けていると、ガチャッと内側からドアが開かれ、可愛らしい女性が顔を覗かせた。
「久しぶりフランちゃん!!!! ちゃんと元気にしてた?」
「ご無沙汰しております、シルヴィア夫人」
そう彼女こそが王宮内での数少ない協力者の一人、シルヴィア夫人である。
シルヴィア夫人は十九才なのだが、その身長は十四才である私と同じぐらいである。
しかし、絞まるところは絞まり、出るところは出るという理想の体型の持ち主で、思わず撫で回したくなるほどふわふわな亜麻色の髪を持っている。
小さめな顔には少し子供らしさが残っていて、それがまた彼女の可愛らしさを引き立てていた。
しかし、一番の魅力はこの世のものとは思えないほど透き通った蒼い瞳だろう。
この世界の命あるものは全てその体内に魔力を宿していて、宿っている魔力が強いものは身体の一部にその影響が表れることがある。
シルヴィア夫人の蒼い瞳も魔力の影響である。シルヴィア夫人が得意な『水属性』を体現したような瞳は、世界を映す度に輝きを増すのだ。
まるで見るもの全てが面白くて面白くて堪らないと表現するかのように。そして実際、シルヴィア夫人はこの世界を純粋に愛していていた。
面白いと思ったものを自分が満足するまで追いかけ続ける子供のような無邪気さを持つお姉さん。
私が知るシルヴィア夫人はそんな人物だった。
「さあさあ入って入って!! フランちゃんにね、見せたいものがあるの!」
「え、あ、ちょ」
少し興奮気味なシルヴィア夫人に捕獲された私はそのまま夫人の部屋の中へと引きずり込まれた。
「......うわあ」
中に入って最初に目撃したのが床一面に乱雑に散らばった魔導書だった。
初心者用だけでなく中級者や上級者用、挙げ句の果てには世界に数冊しかないと言われている魔導書までもが乱雑にばらまかれていたのだ。魔導書を書いた人に心の底から謝りたくなるレベルである。
そしてそんな惨状を気にすることなく、シルヴィア夫人は飛行魔法を行使して、用途不明な道具が置かれている机の前に降り立った。そこだけ整理整頓がしっかりされているせいなのか、その空間だけは異様な雰囲気を纏っていた。
「ほらほらフランちゃん、これだよこれ!!」
研究スペースから二つのネックレスを手に取ったシルヴィア夫人は、再び飛行魔法を行使して私の前に降り立つ。
「はいこれ、受け取って!」
シルヴィア夫人は満面の笑顔を浮かべながら片方のネックレスを私に差し出してきた。
花の妖精のようなその笑顔はきっと世の中の男子を蹂躙する破壊力を有しているのだろう。
しかし、私は知っている。シルヴィア夫人が満面の笑顔を浮かべるときは絶対に何か悪いことを考えているということを。
私は内心で警戒しながら夫人からネックレスを受け取った。満月をイメージしたネックレスはおびただしいほどの魔力を秘めている。じっと表面を見つめると見覚えのある複雑な魔方陣が何層にも重なり絡まりあっていた。
「...夫人、これは」
「私のありがたーい加護がついたネックレスだよ! これフランちゃんにあげ」
「どっからどう見ても監視用の魔術具じゃないですか。加護というかストーカーじゃないですか、これ」
「うぐっ」
「何でこんなもの押し付けてくるんですか?」
「だって!!! みーんな、私を外に出してくれないんだよ!!! そ、そりゃあ、バルルが私を連れ出してはくれるけど...でもでも、私は外に出たいの! 町に行きたいの! 人間観察をたくさんしたいんだよおおお!」
「つまり、夫人の目と耳になってほしかったわけですか...」
「そうなんだよ! ていうか、何でこれが監視の魔術具だってわかっちゃうの!?」
「五年間、馬鹿どもに監視され続けたら嫌でもわかりますよ」
「...いやフランちゃん、王族に馬鹿って言ったら面倒なことになるよ」
「一言も馬鹿が王族だとは言ってないですよ...まあ、あのガバガバな監視は馬鹿としかいいようがないですが」
「確かにねえ」
シルヴィア夫人は私の意見に同意しながらクスクスと笑う。だがふと何か疑問に思ったようでコテリと可愛らしく首を傾げた。
「ところで、何でフランちゃんはここにきたの」
「私の手に持っているものが見えませんか」
「いや、掃除用具でしょ、それはものすごく助かるわ。でも、そういうことじゃなくて...」
夫人は一度言葉を切ってから、また口を開いた。
「その...何かあった?」
「.......ええと、まあ、あったというか、聞いた、ですね」
「......ああ、もしかして明日の『勇者召喚の儀式』?」
「...明日、何ですね」
「え、知らなかったの!?」
「...リースちゃんに気を使わせてしまったみたいです。心の準備なしに明日勇者が召喚されるよって言われたら、私、即座に暴れまわる自信がありますからね」
「リースちゃんファインプレー、マジでファインプレー!!! さすが砂漠に降り立った私の癒し!」
何であんなに可愛いリースちゃんが第三王女なんだよーと愚痴るシルヴィア夫人。それには私も全面的に同意する。まあ、リースちゃんは「私、全然可愛くないですよ」って言うんだろうけどね。
「うーんでも、わからないなあ。」
「何がですか?」
「んーと、フランちゃんが勇者が嫌いな理由」
「......」
シルヴィア夫人は気になったことはすぐに聞くという悪い癖がある。まあ、その真っ直ぐさが私は大好きなことではあるんだけど。大好きなことなんだけど...私にだって触れてほしくないことはある。
「ちょっと、答えにくい、ですね」
「...勇者はさ、とっても面白いんだよ、全員がとてつもないものを持ってるから。力なり、知識なり、カリスマなりね。人間観察が好きな私にとって勇者は本当に尊いものなんだよ。それに勇者は弱い人達を守ってくれる...だから気になるんだ」
シルヴィア夫人の顔が目と鼻の先まで近づいてくる。蒼い瞳で私を覗き込んでくる。知りたいと、彼女の瞳が物語っている。
『何で、フランちゃんは、勇者が、嫌いなの?』
「...声に魔力乗っけるのやめてくださいよ」
シルヴィア夫人の魔力を前に思わず顔をそらしてしまう。
「あ、ごめん、ついつい...」
シルヴィア夫人が申し訳なさそうに項垂れる。
それがあまりにも可愛らしかったから、少しだけシルヴィア夫人に私の気持ちを話すことにした。
「夫人、一言申し上げますが、とある勇者を憎んでいるだけであって、別に勇者全員が嫌いってわけじゃないですからね」
「え、そうなの?」
「はい、私だって勇者がいい人だってのはわかってるんです。弱い人達に手を差しのべてくれましたし、魔物にも自分から突っ込んでいく馬鹿なぐらいに真っ直ぐな人だってのはわかってるんです......そういう勇者もいるってのはわかってるんですよ。でもね、それで割りきれるかって言われたら、まだ無理なんですよ、だって」
私はそこでシルヴィア夫人の様子を確認する。シルヴィア夫人の蒼い瞳がキラキラと輝いている。
私はいつも通りなシルヴィア夫人に苦笑しながら...
「私の大切なもの全部、勇者に壊されちゃったから」
続きの言葉を、口にした。
バルルとはシルヴィア夫人の夫の愛称です。
この世界の設定などは徐々に明らかになっていきます。