白い天井…?
目が覚めるとそこはベッドの上であった。見覚えのない景色に、見覚えのない顔……。ベットの隣に置かれた椅子に座る女性が、大粒の涙をボタボタとこぼすのが見える。
その女性が泣く姿を見ている事が辛く、頭を撫でて泣き止む様に声をかけようとした途端に抱きつかれてしまったのだ。
やわらかい…ではなくて、これはどうしたものかと困っていると、部屋に誰か入ってきたのだろう。カーテンの後ろから声が聞こえてくる。
最初は問いかける声だったが、次にはカーテンを勢いよく開け、彼が入ってきた。
「ひっ!」
彼は白衣で医者であろうと言う事は判明したが、今まさに人を掻っ捌いてきましたと言わんばかりに、前掛けとマスクが真赤に染まっている。
そんな彼に、女性は涙ながらに礼を言っているのだ。少しばかり不思議な感覚だが、彼の方に顔を向けると、彼の唯一覗かせている目がギラリと光ったのが見えてしまった。
「どうですか。ご自分の名前は分かりますか」
一瞬。何を言っているのかと思ったのだが、名前が出てこない。そもそも、俺は何者なのか。彼女は誰なのか。どうして、病院にいるのか……。色々と分からない事だらけではないか…。
俺の様子に、女性が肩を揺さぶって俺の名前だろうか…を呼び、自分の名も名乗っている。だが、全く記憶にない。
俺は首を横に振り、申し訳なく思いながら女性の顔をもう一度見なおした。正直な話、俺の妻だと答えた女性は俺には勿体無い様な美人だ。ただ、今はその顔を直視してあげられない様な酷い顔になってしまっているが。
「記憶喪失ですかね」
「なら、思い出す可能性もあるのですね」
彼の言葉に、瞬時に顔を明るくさせた彼女だが、記憶喪失ならばそう簡単に治る物ではないだろう。最悪、一生戻らない可能性もある。のだが……、彼の目がギラギラと光りを放っている。これは、逃げ出した方がいいのかっ!?
「ダイジョーブですよ?一瞬バカしチクッっとスルダケダカラネー?」
「そんな、MADな笑顔をされて信じられるか!」
「常識は覚えている様デスねー。なら、諦めなさい。コノ部隊章からはニゲラレナイノダヨォォォォォオオオオオオ!」
彼はそう言い放つと、白衣の背中に描かれた部隊章をマジマジと見せつけてきた。こ、これは、マサカ!いや、何で、嘘だろ!?
その部隊章は、血緑色に塗られた彼岸花に白枠の付いた赤十字。その中心に二十四十二重菊花紋章が鎮座しており、その赤十字の下に部隊番号が書かれている…。『No.731』と……。
ベッドから飛び起きて逃走しようとするも、女性によって床に叩きつけられ、そのまま羽交い絞めにされてしまう。女性とは思えないバカ力により、全く抵抗できない。
そうしている間に、彼が!MADが近付いてくる!最終手段の匍匐前進にて脱出を図ろうと手を伸ばした所で、また意識が飛んだ。今度は、更に深く…だった。
大変申し訳ないですが、(A)終了まで放置させていただきます。