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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第1章 あおじ
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あおじ<9>

 一方、天后(てんこう)勾陳(こうちん)は大江山にいた。


以前、玄武(げんぶ)と勾陳は、大江山の鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の徳利を探ってこの山に来た。その時、老猿の妖怪、経立(ふったち)がこの地で死んでいるのを発見した。


そして、酒呑童子や茨木童子(いばらぎどうじ)の鬼達の徳利が、洞窟の中に大量に残されていることを発見した。その洞窟の場所は、大江山の鬼らの本拠地だったのだろう。


酒呑童子は、討伐の勅命を受けた源頼光(みなもとのよりみつ)らによって討ち取られたが、酒呑童子の一番弟子である茨木童子は逃げ(おお)せたのだ。その後、茨木童子は度々、源頼光を襲ったが退けられている。しかし、茨木童子が滅んだか否かは分からない。


玄武と勾陳が見つけた酒呑童子の徳利、その弟子の茨木童子の徳利、そして土蜘蛛の徳利、それらの徳利にかけられた呪いが、晴茂が土蜘蛛に喰らわれた事件の発端だったのだ。


 勾陳の案内で、酒呑童子の徳利が見つかった洞穴の近くに来た。洞穴のあった崖もなくなっていた。勾陳は、土術でこの付近の地形を変えておいたのだ。二度と見つからないように、勾陳は徳利を土中深く埋めておいた。


「ここだ、天后」

勾陳は、徳利を埋めたその場所で止まった。


山中だが、その場所は平坦で結構広さもある。木々が生えてはいるが、まだ若木だ。


「勾陳、酒呑童子の徳利はどこ?」

「この土中深くに封じ込めた」


「徳利が隠されていた洞穴は?」

「ほら、あそこの岩が突き出ているあたりだ」


真っ暗な山中を、天后は心眼で見た。なるほど、木々が乱雑に生え、草に覆われやや高くなった台地に、不自然に岩が突き出している。

「変な台地を造ったのね、勾陳。ここの地形って、不自然じゃない」


そう言われて勾陳はむっとした。ここは酒呑童子の居城があった場所なのだ。それに呪われた徳利が多数あった。


勾陳にしてみれば、二度と邪悪な妖怪や悪霊が利用できないように、綺麗に整地したまでだ。

勾陳は不機嫌そうな顔つきで天后を見た。そんな勾陳にはお構いなしで、天后が続けた。


「あの突き出した岩も…、なんか変だわ」

「いいや、あの岩は元々ここにあったんだ。それを利用しただけだ。あの岩は動かしてはいないっ」


天后は、勾陳のぶっきら棒な発言を聞き流しながら、台地から突き出している岩を睨んだ。

天后は台地から突き出している大きな岩に、なんとなく違和感を覚えたのだ。普通の岩ではないのではと…。


「ふぅうん、…。この辺りに…、(ほか)にあんな大きな岩はないけどね…」


言われてみれば、確かに不自然だ。勾陳が以前に来た時には気付かなかったが、粘土質の赤土の山には似合わない大きな岩だ。

しかも、他にそんな大きな岩はない…と、辺りを見回しながら勾陳も思った。


「そうだな、…。そう言われてみれば…」

(つぶや)きながら岩が突き出した台地の方に進もうとした勾陳を、天后が制した。

天后は、何かの異変を感じたのだ。勾陳もやや遅れて感じた。天后と勾陳は、身を(ひそ)めると、気配を消した。


 どこからともなく、『チチチチ…』と聞こえる。鳥か?しかし、こんな暗黒の夜に鳥が活動するはずはない。その時、天后と勾陳は、微かに妖気を感じた。


「これは、…、妖怪…、妖怪アオジか?」

天后は妖怪アオジの鳴き声を知っていた。


夜、山中でチチチチと鳴く。この鳴き声を聞いたら、早々に山を出て家路につかねば災いがあると、昔の人間は信じていた。

実際にオオカミや野犬が人間を付け狙っているのを、妖怪アオジがチチチチと鳴いて知らせる時があるのだ。要するに、危険が迫っていると知らせているのだ。


いや、その逆かもしれない。妖怪アオジが鳴いて、オオカミや野犬を呼び寄せているのかも知れない。

そもそも、妖怪アオジの姿を誰も見たことがないのだ。悪さをするのか、危険を知らせているのか、それすら分からない、そんな妖怪がアオジだ。


「アオジ?これは、アオジの鳴き声か」

「そうだよ、勾陳。妖怪アオジだ」


「ほおぉぉ、初めて聞いた鳴き声だ。では、誰も見たことがないというアオジの正体を暴いてやるか」

そう言いながら、大蛇勾陳は金色の鎌首を持ち上げた。


その時だ、異変が起こったのは…。

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