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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第1章 あおじ
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あおじ<8>

「そうかぁ、ここには何もないのか。でも土蜘蛛は最近ここに来たのよね」

琥珀はそう言いながら、もう一度洞窟内を眺めた。


「しかし、妖怪土蜘蛛がここに来たのなら、何か痕跡でも…」

同じ様に洞窟をしばらく眺めていた天空(てんくう)が、そう言うのを、琥珀が手で制した。


口に人差し指を立てて、静かにと合図している。何か聞こえるのか?

天空も耳をそばだてた。しばらく静寂が流れた。何も聞こえない。


間合いを見て、天空が小声で聞いた。

「何か…、聞こえたのか?何かいるのか?」


「鳴き声が微かに聞こえた。チチチチ…って」

「そりゃあ、鳥の鳴き声だろう」

「こんな所に鳥はいないでしょ」


琥珀と天空は、もう一度静かに聞き耳を立てた。


すると、どこからともなく『チチチチチ…』と鳴き声がする。

(かす)かな鳴き声だが、今度は天空にも聞こえた。


「うん、聞こえた。鳥だな。しかし、洞窟の壁で反響して、どこにいるのか分からない」

琥珀と天空は、気を静めて鳴き声の来る方向を探った。妖気は感じない。生き物の気配も感じない。


二人で聞き耳を立て、気を集中している所に、太陰(たいおん)のゲップが出た。大きなゲップだ。

「うっぷぅ…」


「何だよ、太陰!鳴き声を探っているんだ。静かにしてろよ!」

天空が太陰を睨んだのだが、太陰は気にせず続けた。


「うっぷ…、ふぅぅ。さっきの鳴き声ですか?あれは、妖怪アオジですわ」


「何っ!妖怪…?アオジ?妖気は感じないが…」

天空が、剣を立てて妖気を量りながら言った。


「ほほほほ…、この洞窟にはいませんわ。ここは、かつての妖怪土蜘蛛の巣、異界ですのよ。あのアオジの声は、その異界の外から聞こえますわ」


「この洞窟の外…、異界の外と言うと…、人間界から聞こえるの?」

「そうですわ…」

琥珀の問いに太陰が答えた。


「この洞窟の壁に多く開いた穴、…わたし達もその穴のひとつからここに入ったのですけれど、各々の穴は人間界に繋がっていますわ。そのひとつから妖怪アオジの鳴き声が洞窟に流れて来ていますわ。どの穴かしらねぇ?」


天空と琥珀は顔を見合わせた。

まだ、時々『チチチチチ…』と聞こえる。

「よし、天空、一つずつ穴を探ろう」


琥珀と天空は左右に分かれ、洞窟の壁に開いた穴を一つずつ探った。

その様子を見ながら、太陰は美味しそうに酒徳利を傾けている。


何個目かの穴を調べていた琥珀が言った。

「この穴だ」


その声に天空が駆け付けた。二人が耳を澄ます。『チチチチ…』と時々聞こえる。確かに、この横穴から聞こえる。

琥珀と天空は、その横穴の様子を慎重に探った。別に特別な気配はない。どこに通じている穴だろうか。


「では、行ってみましょう」

いつの間にやって来たのか、琥珀と天空の後ろから、太陰が声をかけた。

太陰は先に立って横穴に入った。すたすたと進んで行く。


「おいおい、太陰。もう少し静かに進まないと、向こうに気付かれるぞ」

心配する小声の天空に、太陰は大きな声で答える。


「だから言いましたでしょう。ここは異界、こちらの音や声は向こうには届きませんわ」

「…」

琥珀と天空は、そうなんだと納得し、太陰の後に続いた。


横穴の終点に来た。ここから人間界に出ると、その場所はどこなのだろう。

妖怪アオジが出没するのは山の中だ。どこかの山中に違いない。


先頭を歩いていた太陰が振り返り言った。

「ここから先は…、天空、お願いするわ。天空剣の力で異界から出れますわ」

天空は大きく頷いた。そして、天空剣を横穴の天井に向けた。


「あっ、そうそう…」

太陰が言う。

「妖怪アオジは誰も見たことがないのですのよ。だから、未だにその正体は分からないのですけれど、…」


「えっ、それは、どういうこと?」

琥珀が聞いた。


「ですから、ここから出て周りを探っても、そのぉ…、妖怪アオジを見つけることはできないですわ、きっと」


「じゃあ、何をしにこの横穴の端まで来たんだ?」

天空は、ややイライラしながら呟いた。


「お二人が張り切って妖怪アオジを捕まえようとしていましたでしょ。ですから、人間界に出てから妖怪アオジは見つからないと言うのは、…ちょっと気が引けましたの。お二人はがっかりなさいますでしょ。出る前に言っておいた方が良いと思いましたのよ」


「ううう、それはそうだが、…」

「でもね、天空。この横穴がどこに繋がっているのかを知るのは、とても大事だと思いますわ」

「…」


「その周辺に妖怪アオジがいる訳でしょ。その理由も探れますわ。それに…」

「それに?何だ、太陰」


「我々が倒した妖怪土蜘蛛がこの洞窟にいたとなると、この土蜘蛛の巣から通じている場所は、晴茂様を探す手掛かりが何かあるかも知れない…、ですわ」

「成る程、それはそうだ」


琥珀も天空も、この横穴がどこへ通じているのか、興味が湧いてきた。

数ある横穴のうち、この横穴は妖怪アオジと通じている。その場所には、土蜘蛛の痕跡があるかも知れない。

そして、晴茂とも何らかの繋がりがあるかも知れないのだ。


太陰は、二人が納得したのを見て、横穴から人間界へ戻るように天空に促した。

天空は、天空剣の切っ先を横穴の天井に突き刺した。琥珀と太陰は、天空の腕につかまった。

「伸びよ、天空剣!」

天空剣が伸びる。ごおぉぉと地鳴りがする。


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