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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第1章 あおじ
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あおじ<7>

 琥珀と太陰(たいおん)は、天空(てんくう)の案内で京都の船岡山の公園に来た。既に夜だ。この辺りの地下に土蜘蛛の巣がある。琥珀が捕らわれの身となり幽閉された場所だ。天空が、琥珀の杖の案内でその地下洞窟に入り、琥珀を救いだしたのだ。


「確か…、この辺りだ」


天空が、天空剣の先端で地面を探りながら(つぶや)いた。

ある地点で、天空剣の切っ先が突然大地に突き刺さった。天空剣が、ガタガタと振動する。


「ここだっ!琥珀、行くぞ。俺の手を取れ。…うん?太陰は…どうした?」


一緒に来たはずの太陰の姿が見えない。琥珀が太陰を呼んだ。


「おやぁぁ、天空、…うぃ…、もう見つけたのかしら?」

姿を見せた太陰は、いつの間にか手に酒徳利を持ち、既に酔っぱらっている。


「ほら、洞窟へ行くぞ。二人とも俺につかまれ。うう…、太陰、あまり近づくな、酒臭いっ!」

そう言いながら、天空が剣を地中にぐぐっと差し込んだ。


「伸びろっ!天空剣」

天空の声と共に、低くごぉーと地鳴りがした。


そして、天空剣が地中に呑み込まれた。剣を持つ天空、天空につかまった琥珀、太陰も地中に消えた。その後は、何事もなかったかのように、辺りはひっそりとした公園に戻った。

 

 三人が地下の洞窟に現れた。じめじめとした空気が顔にまとわり付く。


「こっちだ」

やや下り勾配になっている洞窟を天空が進む。琥珀を助けに来た時の様子と何も変わっていない。


しばらく行くと、大きな空間に出た。ここが土蜘蛛の巣だ。琥珀もこの地下空間には見覚えがある。

琥珀と天空は、大きな洞窟の中の気を慎重に探った。妖気は感じない。


天空が円形の大きな洞窟に一歩足を踏み出そうとした時、太陰の酒臭い声がした。


「おやまあ、何ですの、この洞窟は?ここが土蜘蛛の巣?そうですの、天空。

ふぅうん…、土蜘蛛の気配はありませんわね。それに、…、ここは異界ですわよ」


太陰の声が洞窟内に響いた。


「ここは、…異界?」

琥珀は、驚いた。この洞窟は異界だと言う。


「そうですわ、ここは異界ですわ。

天空剣が持つ魔力が、異界の入り口を破ったから、ここへ入れたのですわ」


「ううっ!」

天空が(うな)った。


「あらっ!天空はやっと気が付いたの。この(よど)んで気怠(けだる)い空気は、…異界ですわ」

そう言うと、太陰は酒徳利に口をつけ、ぐいっと飲んだ。


琥珀と天空は、無警戒で呑気(のんき)な太陰を(にら)んだ。


「あらっ、そんな目で見ないでくださいな。でもね、ほらっ、何も感じませんわ、この洞窟からは…」

そう言うと、太陰はさっさと洞窟の大きな広場に出て行った。天空が止める間もなく、ふらふらと千鳥足で広場の真ん中へ進んで行く。


仕方なく天空、琥珀も周りを警戒しつつ太陰の後を進んだ。以前、琥珀が捕らわれ身動きできずにいた中央の石の台に着いた。大きな柱のような鍾乳石(しょうにゅうせき)が、その横に崩れている。


「ここに琥珀ちゃんが捕まっていたのね…」

太陰は、ふらふらと鍾乳石に近づき、それに触れた。そして、上を見上げた。やはり何も感じない。ここは(もぬけ)(から)だ。ここには晴茂を探す手掛かりはないと、太陰は思った。


 この洞窟は確かに土蜘蛛の巣だったのだろう。この大きな空間から、何本も外界に通じる横穴がある。三人がここに入ったのも、その横穴の一つを使って来たのだ。この構造は、この洞窟が土蜘蛛の巣であったことを示している。


琥珀の身中にいる蜘蛛を目覚めさせた妖怪土蜘蛛が、この古びた巣を利用したのだろう。外界から隔離された異界の洞窟は、目覚めた蜘蛛が琥珀の心身を支配するまで邪魔者を寄せ付けない、そんな恰好の隔離場所だったのだろう。


太陰が、鍾乳石に腰掛け、酒徳利を傾けながら、そんな結論付けをしている間中、琥珀と天空は洞窟中をくまなく探っていた。果たして太陰の結論通り、天空も琥珀も何ら手掛かりを発見できなかった。


「ここには何もない。琥珀、どうだ?」

「うん、手掛かりのような物はない」


「太陰、そっちはどうだ? …あっ!何もせず酒を飲んでたのかっ!太陰」

天空が怒鳴(どな)った。


「おやおや、天空、落ち着きなさいな。残念ですけれど、ここには何もありませんわ」

太陰は、自分の推論を二人に話した。


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