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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第4章 三尸
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三尸<6>

「へい…、あああ…、墓場…にはですね、

霊が多いですがね、…」


墓場と聞いて九尾の眼光に怒りが増した。

それを見て、韋駄天(いだてん)は頭を()きながら続けた。


「へへへへ…、墓場は、あのぉ…、

卒塔婆(そとば)が沢山立ててあります、へい。

あれは、霊が卒塔婆を経て天に昇るからでして…。

ああ、ご存知ですね、こんなことは…。

へへへへ…、と言うことは卒塔婆が多い場所には

霊が集まるってなことで…ですね」


韋駄天の発言がやや(まと)を得てきたので、

九尾のキツネも(うなづ)いて、話を続けるように(うなが)した。


「まあぁ、あちらこちらを走り回って見て、

卒塔婆が多いのは…、高野山…ですね、へい」


成る程、高野山には霊が集まるに違いない。

琥珀は、アオジに向かって聞いた。

「アオジ、高野山には異界がある?」


アオジは首を振った。

「高野山は真言密教の聖地…です。空海が開山した時に、

(あや)しげな異界は封印され、破壊されています」


「そうか…」

琥珀は肩を落とした。


そして、琥珀と九尾のキツネの視線は、

再び韋駄天に向いた。


「あっ…、へい…、えっとぉー…、

高野山が駄目ならですね、次に多いのは…、

あっしの知る限りでは…、伊勢の朝熊(あさま)(だけ)ですね」


地名が出ると、琥珀と九尾はアオジを見た。


「朝熊ケ岳は、伊勢神宮のお膝元、神領の山です。

元々、神々が宿る地方には異界が多く存在します。

神の領域と人間界を区別するための結界が多いのです。

伊勢の国も例外ではありません」


それを聞いて、琥珀の目が輝いた。

「じゃあ、伊勢のどこかの異界と、船岡山(ふなおかやま)の第三層異界が

(つな)がっているかもしれないのねっ!」


アオジが頼りなさそうに答える。

「その可能性はありますが…」


「行こう、伊勢に」

琥珀が、誰を促すでもなく、勢いよく言った。


(あわ)てないでください、琥珀さん。あなた方が

異界を探すのは時間がかかるでしょう。

まだ、満月の夜の時間は残ってます。

伊勢の朝熊ケ岳へ行って調べてきますから、

待っていてください。


朝熊ケ岳の異界が、船岡山に繋がっていないのなら、

別の異界を考えなければなりませんよ。今夜を逃せば、

あなた方と直接話すのにひと月待たねば

なりませんからね、琥珀さん」


アオジが、勢いづく琥珀を(なだ)めた。

「ありがとう、アオジ…」

「はい、では、後ほど。きっと…チチチチ…」

話しながらアオジは飛ぶように疾走(しっそう)し出した。


アオジの言葉の後半は、いつもの『チチチチ…』

という音になって消えてしまった。


「あっしも、行ってみましょう」

韋駄天はそう言って、あっという間にその姿が消えた。


九尾のキツネは、もう少し船岡山の異界を調べてみると

言い残して、野狐(やこ)と共に消えた。


一人残った琥珀は、西に傾いた満月を見上げた。

晴茂が生きている確証をアオジの証言から得られた喜びを

噛み締めながら、だからこそ、居ても立ってもいられない

気持ちになっていた。


早く晴茂を助けたい。

早く晴茂に会いたい。


琥珀は、強く(こぶし)(にぎ)り、満月を(ゆが)める涙を流していた。


 琥珀は、高雄山の頂上付近でアオジを待っていた。

満月の夜は、もうすぐ明けようとしている。

夜が明ければ、アオジは走り続けなければならず、

琥珀と話ができなくなる。


何としても、船岡山の異界の三層目まで行く方法を

聞かなければならない。


琥珀は、祈る気持ちでアオジを待った。

暫くして、(あせ)る気持ちの琥珀が妖気を感じた。


疾風(しっぷう)と共に現れたのは、韋駄天だった。

やや気落ちした琥珀が、韋駄天に駆け寄った。

「アオジは?アオジに会えたの?」


「へい、伊勢の朝熊ケ岳にある…」


「異界は見つかったの?

アオジは、今どこ?

船岡山の三層目に繋がっていた?」


韋駄天は、矢継ぎ早に質問する琥珀に目を白黒させた。

そして、韋駄天は両手を琥珀の口の前で広げた。


「ちょ…ちょっと、落ち着いてくださいな、琥珀さん…」

琥珀の言葉が途切れた合間に、やっと韋駄天は言った。

「へい、順番にお話ししますから、へへへへ…」


しかし、琥珀は落ち着いてはいられない。

時間がないのだ。

「順番に話を聞いていたら、夜が明けるわ。

夜が明けたら、アオジに話が聞けないっ!」


琥珀の勢いにたじたじしながら、

それでも韋駄天は思い切って言った。

「今夜は…、もうアオジには会えません、琥珀さん」


「えっ!ど…どういう…」


韋駄天は、驚きに声を失っている琥珀の口の前に、

指を一本立てて続けた。

「へい、へい、詳しくお話しします」

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