三尸<5>
アオジが見た五角形の星は、晴茂が放った五芒星だろう。
青白く光る五芒星といえば、五行相生『結界の五芒星』だ。
普通、結界は完成すれば見えなくなるのだが、
余程強い力で結界を張ったのだろう。
アオジに、その五芒星が見えたのだ。
晴茂は、『地獄』の異界の中で、自ら結界に入り、
時空の捻じれや悪霊の呪いに耐えているのだ。
「しかし、自ら張った結界の中に、
自ら入るとは…、それは…、禁じ手…」
妖狐九尾が眉を顰め呟いた。
しかし、琥珀は晴茂の居場所が分かったことで
頭が一杯だった。
「そこで…、その人は、何か言っていた?」
琥珀の問いに、アオジは首を振った。
「それ以降、何も聞こえなくなった」
九尾のキツネは天を仰ぎ、
琥珀は腕組みをして目を瞑った。
暫し、沈黙の時が流れた。
アオジは、琥珀と九尾の顔を交互に見つつ、尋ねた。
「その、晴茂様という人は何者ですか?
あの異界にいたのは、その人ですか?」
九尾のキツネが、アオジに答えた。
「おまえの見た青白い五角形の星は、
安倍陰陽師家秘伝術の五芒星だ。
そして、その中に居て、おまえを呼び止めたのは、
陰陽師 安部晴茂だ。間違いない」
アオジは、目を丸くして呟いた。
「そんな馬鹿な。いくら陰陽師でも、無理だ…」
言葉で否定したアオジだが、
駆け抜けるアオジを発見し、
その心に直接語りかける術を持つ陰陽師なら、
あの異界の中で耐えることも出来そうな気がする。
しかし、どんな方法であの異界の奥まで
行ったのだろう。それこそ考えられないではないか。
アオジも黙りこくってしまった。再び沈黙の時が流れた。
琥珀が目を開け、九尾のキツネに言った。
「わたし、そこへ行きます。晴茂様を助けに行きます」
九尾が琥珀を見詰めて、ため息交じりで答えた。
「しかしなぁ、元々は『地獄』だった異界に、
おまえ達式神でも入れないだろう」
琥珀はアオジの方を見て、尋ねた。
「アオジ、そこへ連れて行って!どうやって行くの?」
アオジは、きっぱりと言った。
「無理です。あなた方は第三層はおろか、
二層目の異界にも入れません」
「でも、晴茂様は入って行ったのよ、アオジ」
「それが…、分かりません。
どんな手段で入ったのか…」
琥珀は、土蜘蛛との戦いの様子を説明した。
土蜘蛛に喰われて晴茂が消えたことを詳しく話した。
「成る程、そんな経緯ですか。あの異界は…、
一層目は確かに妖怪土蜘蛛が使っていました。
何度も土蜘蛛を見ましたから、確かでしょう。
しかし、土蜘蛛といえども二層目には入れなかった
はずです。その晴茂という陰陽師が土蜘蛛に喰われ、
土蜘蛛の妖力で船岡山の異界に封じられたとしても、
それは一層目の異界のはずです。
もし、疾走するわたしの心に話し掛けたのが
その陰陽師なら…、それ程の術を持つ陰陽師なら、
一層目から抜け出るのは容易いことでしょう。
何故、二層目、三層目と入ったのか。
また、どんな力で入ったのか?
あるいは、何かの力が働き、
不本意にも入ってしまったのか?」
そして、アオジはぼそっと続けた。
「そもそも、あの異界で晴茂という陰陽師が
生き長らえていられるのか…?」
「生きていますっ!晴茂様は生きています」
琥珀は即座に大声でアオジに言った。
そんな琥珀を宥めるように、
九尾のキツネがアオジに聞いた。
「アオジ、異界というものは、それぞれ見えぬ力で
繋がっている場合があると聞く。その二層目、
三層目は、どこかの異界と繋がってはいないのか」
「はい、わたしもそれを考えていました。
確かめた訳ではありませんが、『地獄』として
機能していた異界なら、霊が集まる場所、
そのような異界と繋がっているかもしれません」
「ふぅーむ、霊が集まる場所…?」
アオジと九尾が考え込んだが、
それらしき異界を思い付かない。
元来、異界というものは、霊とは関係が深い。
しかし、霊が集まる場所は日本には多いのだ。
一か所や二か所に絞り込めるものではない。
ここまで大真面目な顔付で、アオジ、九尾、
琥珀の話を聞いていた韋駄天が、突如発言した。
「ああ…、あのぉ…、へへへへ、霊の集まる場所
と言えば、昔から決まってますがねぇ」
九尾がじろっと韋駄天を睨んだ。
その眼光の鋭さに、韋駄天は思わず一歩下がり、
長い両手で九尾の眼光を隠した。
「それは、どこ?韋駄天」
琥珀が、韋駄天に発言を促した。




