あおじ<5>
こんな嬉しい話はない。晴茂は死んでいない。三人の式神は、喜びを充分に分かち合った。太陰は、何故今まで気付かなかったのだと自分を責めたが、そこは持ち前の陽気さで、すぐに酒飲みのおばさんへ戻った。天后は、琥珀の涙に誘われのか、泣き声で喜んだ。
そうと分かれば、晴茂を探し出さねばと、琥珀の心は一歩前に進んだ。晴茂はどこかで生きているんだから…。式神全員で心を合わせて探すんだ。琥珀は、そう決心した。
琥珀が残りの天将を全員呼び集めた。既に夜も更け真っ暗になった山の頂に、晴茂の式神、十二天将が集まった。朱雀の放った火の玉が、ぼぉっと式神達を照らし出している。
式神十二天将は、安倍晴明の式神だった。陰陽師になった安倍晴茂が、この十二天将を晴明から授かったのだ。
六獣神と六人神。合わせて、十二天将だ。
まず六獣神から紹介しよう。
東西南北の方角を守護する四獣神がいる。平安の時代、京の都をこれらの獣神が守った。
北に玄武、南の朱雀、東は青龍、そして西を守る白虎だ。
玄武は水神、北の方角を守護する聖獣だ。亀の身体に蛇の頭を持つ。
真っ黒な甲羅は強靭で、どんな攻撃にも耐える。
火神の朱雀。南の方角を司る。大きな雀のような形だが、朱色を基調に五色の羽根を持つ美しい鳥だ。
鳥たちの王とも呼ばれ、朱雀が呼びかければ多くの鳥が駆け付ける。
火の玉を繰り出し、羽根で起こす風でその火の玉を自在に操る。
東の方角を司る青龍は木神だ。
頭に生えた角から稲妻を放つ。
白虎、白く大きな虎だ。金神の白虎は、西の方角を司る。
天を飛ぶように駆け、目から鋭い光線を放ち、あらゆる物を溶かす。
そして、残る二獣神。
騰蛇、火を司る獣神だ。身体は炎に包まれており、小さな羽根を持つ蛇の姿をしている。
口から吐く紅蓮の炎は、燃やせない物は無いと言われ、何でも瞬時に灰にしてしまう恐ろしい技だ。
勾陳は黄金色に光る美しい大蛇だ。
土神の勾陳は、大地を揺るがし、山を造り、深く谷を削る。
次に人神だ。
六合は木神、平和と調和を司るが、姿は老将軍だ。
若い頃の六合は、泣く子も黙る猛者だった。戦えば必ず勝つ。勝つためには手段を選ばない。
そんな将軍が齢を重ね、平和と調和を司る人神になった。
天后は天帝の后で水神、御転婆の少女の姿だ。航海の安全を司る人神でもある。
我眉山で仙術を習い、水を操り、氷の柱で造る防御は玄武の甲羅に匹敵する。
太陰は飲んだくれのおばさんの姿。金神だ。
酔えば酔うほどに知恵が湧いてくる。十二天将一番の知恵者だ。
大裳は土神、天帝に仕えていた文官だ。
性格は固く律儀だが、その知識は正確で誰よりも豊富だ。
暴れ者の天空は土神。凛々しい青年の姿だ。
天空剣を持ち、霧を呼び黄砂を操る。天空の全ての術は、伸び縮みする天空剣の魔力から出る。
そして、貴人。いつも宙に浮いており、男か女か、子供か大人かも分からない姿だ。
貴人は上神であり、他の式神を束ねる。他の式神が窮地に陥ると現れ、これを救う。
人であろうと動物であろうと妖怪であろうと、貴人はその心を取り込み自由に扱うことができるのだ。